子どもや成長期の股関節の痛み、鼠径部の痛みは、スポーツによる使いすぎだけでなく、成長期特有の股関節疾患や、早めの治療が必要な病気が隠れていることがあります。

鼠径部とは、太ももの付け根の前側、いわゆる「脚のつけ根」です。スポーツの現場では、この周囲の痛みをまとめてグローインペインと呼ぶことがあります。

ただし、グローインペインは一つの病名ではありません。内転筋、腸腰筋、恥骨、股関節、骨盤の成長軟骨、腰、腹部、泌尿器など、さまざまな原因を含む「症状の名前」です。

特に子どもでは、股関節の病気が「膝の痛み」として出ることもあります。股関節を痛がらなくても、足を引きずる、運動後に太ももや膝を痛がる、片脚で踏み込めない場合は注意が必要です。

この記事では、子ども・成長期に起こる股関節の痛み、グローインペインについて、原因、受診目安、検査、治療、スポーツ復帰、予防を解説します。

子どもの股関節・鼠径部痛で早めに受診した方がよい症状

  • 体重をかけられない、歩けない
  • 足を引きずる、急に歩き方が変わった
  • 発熱を伴う
  • 股関節を動かすと強く痛がる
  • 転倒、ジャンプ着地、ダッシュ、キック後から急に強く痛む
  • 鼠径部・太もも・膝の痛みが数週間続く
  • 安静時や夜間にも強く痛む
  • 股関節が硬くなり、開きにくい、曲げにくい
  • 膝痛として訴えるが、股関節を動かすと痛い
  • 男児で陰嚢・精巣の痛みや腫れを伴う
  • 腹痛、吐き気、排尿時痛などを伴う

グローインペインとは

グローインペインとは、鼠径部、つまり太ももの付け根周囲の痛みを指す言葉です。

サッカー、陸上、ラグビー、バスケットボール、野球、テニス、ダンスなど、ダッシュ、キック、切り返し、ジャンプ、股関節を大きく動かすスポーツで起こることがあります。

スポーツ選手のグローインペインでは、内転筋、腸腰筋、鼠径部、恥骨、股関節など、痛みの原因を部位ごとに整理して考えます。

しかし、子ども・成長期では、成人のスポーツ障害と同じように考えるだけでは不十分です。成長軟骨、骨端線、骨盤の裂離骨折、大腿骨頭すべり症、ペルテス病、一過性股関節炎、化膿性股関節炎なども鑑別に入ります。

股関節の痛みはどこに出ますか?

股関節の痛みは、必ずしも「股関節」として訴えられるとは限りません。

痛みが出やすい場所

  • 鼠径部、脚のつけ根
  • 太ももの前側
  • 太ももの内側
  • お尻の奥
  • 骨盤の前や横
  • 膝の前側や内側
  • 腰の下の方

子どもでは、股関節の病気でも膝痛として訴えることがあります。膝の診察で異常が少ないのに、足を引きずる、股関節を動かすと痛い場合は、股関節の評価が必要です。

子ども・成長期の膝痛について詳しく見る

スポーツで起こる股関節・鼠径部痛

成長期のスポーツで多いのは、筋肉や腱、骨盤の成長軟骨に負担がかかるタイプの痛みです。

内転筋関連の痛み

内ももの筋肉である内転筋に負担がかかると、鼠径部や内ももに痛みが出ます。

サッカーのキック、切り返し、スライディング、ダッシュで痛くなることがあります。内ももに力を入れると痛い、脚を開くと痛い場合に疑います。

腸腰筋関連の痛み

腸腰筋は、股関節を曲げる筋肉です。ダッシュ、もも上げ、キック、階段、坂道で鼠径部の奥が痛むことがあります。

股関節を曲げる動作に抵抗をかけると痛い、股関節の前側がつまる感じがある場合に疑います。

恥骨周囲の痛み

恥骨結合や恥骨周囲に負担がかかると、下腹部から鼠径部の中央付近に痛みが出ることがあります。

キック、切り返し、片脚で踏ん張る動作で痛みやすく、左右両側に痛みが出ることもあります。

股関節そのものの痛み

股関節唇損傷、股関節インピンジメント、形成不全、軟骨損傷などで、鼠径部の奥の痛み、引っかかり感、可動域制限が出ることがあります。

しゃがみ込み、股関節を深く曲げる動作、方向転換で痛む場合は、股関節内の問題を確認します。

成長期に特有の原因

子ども・成長期の股関節痛では、成長軟骨や骨端線に関係する病気を考える必要があります。

骨盤の裂離骨折

成長期では、筋肉や腱が付く骨盤の一部がまだ弱い時期があります。

ダッシュ、キック、ジャンプ、急な方向転換で筋肉が強く収縮すると、骨盤の骨端部が引っ張られて剥がれることがあります。これを裂離骨折といいます。

代表的な部位には、上前腸骨棘、下前腸骨棘、坐骨結節、小転子などがあります。

裂離骨折を疑う症状

  • ダッシュやキックの瞬間に急に痛んだ
  • ブチッ、ピキッと感じた
  • 鼠径部や骨盤周囲が強く痛い
  • 歩くと痛い、足を引きずる
  • 股関節を動かすと痛い

急な強い痛みの場合は、単なる肉離れではなく裂離骨折の可能性があるため、X線やMRIで確認します。

骨端症・付着部炎

繰り返しの運動で、筋肉が付着する成長軟骨に負担がかかり、痛みが出ることがあります。

急な外傷ではなく、徐々に痛くなる場合は、骨盤周囲の骨端症や付着部炎を考えます。

見逃したくない股関節の病気

子どもの股関節痛では、スポーツ障害だけでなく、早めの診断が必要な病気があります。

大腿骨頭すべり症

大腿骨頭すべり症は、成長期に大腿骨頭の骨端線でずれが起こる病気です。英語では Slipped Capital Femoral Epiphysis と呼ばれ、略して SCFE と表記されます。

10〜15歳頃の思春期に多く、体格のよい子どもにみられることがあります。

大腿骨頭すべり症を疑う症状

  • 鼠径部、股関節、太もも、膝の痛み
  • 歩くと足を引きずる
  • 走り方が変わった
  • 股関節が外向きになりやすい
  • 股関節を内側へひねりにくい
  • 痛みが数週間から数か月続く

大腿骨頭すべり症は、放置すると股関節の変形や将来の変形性股関節症につながることがあります。疑う場合は早めの評価が必要です。

ペルテス病

ペルテス病は、大腿骨頭への血流が一時的に悪くなり、骨の形が変化する病気です。小児の股関節痛や跛行の原因になります。

4〜10歳頃にみられることがあり、股関節の痛み、膝痛、足を引きずる、股関節の動きが硬いといった症状で気づくことがあります。

治療は年齢、病変の範囲、股関節の動き、症状によって変わります。早めに診断し、経過を見ながら治療することが大切です。

一過性股関節炎

一過性股関節炎は、小児の股関節痛や跛行の原因として比較的多い病気です。

風邪の後などに、急に股関節や太もも、膝を痛がり、足を引きずることがあります。多くは自然に改善しますが、化膿性股関節炎との区別が重要です。

化膿性股関節炎

化膿性股関節炎は、股関節に細菌感染が起こる病気です。整形外科的な緊急疾患です。

化膿性股関節炎を疑う症状

  • 発熱
  • 強い股関節痛
  • 体重をかけられない
  • 股関節を動かすと強く痛がる
  • ぐったりしている
  • 急に歩けなくなった

このような症状がある場合は、様子を見ずに早めに医療機関を受診してください。

年齢で考えたい主な原因

子どもの股関節痛は、年齢によって考えやすい病気が変わります。

年齢の目安 考えたい原因 特徴
幼児〜小学生低学年 一過性股関節炎、化膿性股関節炎、ペルテス病 足を引きずる、股関節が硬い、発熱の有無が重要
小学生〜中学生 ペルテス病、骨端症、スポーツ障害、裂離骨折 運動量増加、ジャンプ・ダッシュ・キックで痛む
中学生〜高校生 大腿骨頭すべり症、裂離骨折、グローインペイン、FAI、疲労骨折 鼠径部痛、太もも痛、膝痛、跛行、スポーツ動作で悪化

この表は目安です。実際には年齢だけで判断せず、痛みの場所、発症の仕方、発熱、跛行、診察所見を合わせて考えます。

診断方法

問診

いつから痛いか、急に痛くなったか、徐々に痛くなったか、スポーツ種目、練習量の変化、痛む動作、発熱、足を引きずるか、膝痛として出ていないかを確認します。

診察

歩き方、片脚立ち、股関節の曲げ伸ばし、開き、内外旋、圧痛、筋力、股関節と膝の両方を確認します。

股関節の病気では、股関節の内旋や開排が制限されることがあります。膝だけを見ていると、股関節の病気を見逃すことがあります。

X線検査

X線では、骨折、骨盤の裂離骨折、大腿骨頭すべり症、ペルテス病、骨の形、股関節の配列を確認します。

成長期の股関節痛では、骨端線や成長軟骨の状態を見ることが重要です。

超音波検査

超音波では、股関節に水がたまっているか、筋腱の炎症、痛む場所を確認できることがあります。

一過性股関節炎や化膿性股関節炎では、股関節内の液体貯留の確認に役立ちます。

MRI検査

MRIでは、疲労骨折、骨端症、骨髄浮腫、関節唇損傷、股関節内の炎症、初期のペルテス病などを確認できます。

X線で異常がはっきりしない場合でも、痛みが続く、跛行がある、スポーツ復帰で再発する場合はMRIを検討します。

膝の診察と検査について詳しく見る

治療の基本

治療は原因によって大きく変わります。

スポーツによる筋腱の痛みや骨端症では、保存療法が中心です。一方で、大腿骨頭すべり症、化膿性股関節炎、ずれの大きい裂離骨折などでは、手術や緊急対応が必要になることがあります。

保存療法の中心

  • 痛みに応じた運動量調整
  • 一時的なスポーツ休止
  • 冷却
  • ストレッチ
  • 股関節周囲筋・体幹のトレーニング
  • 走り方・キック動作の見直し
  • 段階的なスポーツ復帰

痛み止めでごまかして練習を続けるのではなく、痛みを起こしている動作と負荷を見直すことが重要です。

スポーツは休むべきですか?

原因と痛みの程度によって変わります。

軽い筋腱の痛みで、運動中に悪化せず、翌日に痛みが残らない場合は、負荷を調整しながら続けられることがあります。

一方で、次の場合は運動を中止し、受診してください。

  • 歩けない、体重をかけられない
  • 足を引きずる
  • ダッシュやキックの瞬間に急に痛んだ
  • 発熱がある
  • 股関節の動きが明らかに硬い
  • 膝痛を訴えるが股関節を動かすと痛い
  • 痛みが数週間続く
  • 安静時や夜間にも痛む

特に、大腿骨頭すべり症や化膿性股関節炎が疑われる場合は、スポーツを続けてはいけません。

リハビリの考え方

グローインペインのリハビリでは、痛い場所だけでなく、股関節、骨盤、体幹、膝、足部を含めて動きを整えます。

第1段階:痛みを落ち着かせる

  • 痛みが出る動作を一時的に減らす
  • ダッシュ、キック、切り返しを控える
  • 冷却を行う
  • 痛みのない範囲で股関節を動かす
  • 必要に応じて松葉杖で負担を減らす

第2段階:柔軟性と筋力を戻す

  • 股関節前面のストレッチ
  • 内もものストレッチ
  • お尻まわりの筋力運動
  • 体幹トレーニング
  • 片脚バランス

第3段階:スポーツ動作へ戻す

  • 軽いジョギング
  • 短いダッシュ
  • サイドステップ
  • 方向転換
  • キック動作
  • ジャンプと着地
  • 競技特異的な動作

リハビリ中は、運動中の痛みだけでなく、翌日に痛みが残らないかを確認します。

ストレッチと筋力トレーニング

自己流で強く伸ばしたり、痛みを我慢して筋トレを続けたりすると悪化することがあります。痛みのない範囲から始めます。

股関節前面のストレッチ

  1. 片膝立ちになります。
  2. 骨盤を立てたまま、体を少し前へ移動します。
  3. 股関節の前が伸びるところで20〜30秒保ちます。

内もものストレッチ

  1. 脚を軽く開いて座ります。
  2. 痛くない範囲で体を前へ倒します。
  3. 内ももが伸びるところで20〜30秒保ちます。

お尻まわりの筋力運動

  • 横向き脚上げ
  • クラムシェル
  • ブリッジ
  • 片脚立ち
  • 浅いスクワット

股関節の痛みがある時期は、深いスクワットや強いキック動作を最初から行わないようにします。

スポーツ復帰の目安

復帰は、日数だけで決めるのではなく、痛み、歩き方、股関節の動き、筋力、スポーツ動作を確認して進めます。

復帰前に確認したいこと

  • 日常生活で痛みがない
  • 足を引きずらない
  • 股関節の可動域が左右で大きく違わない
  • 片脚立ちが安定している
  • 軽いジョギングで痛みが出ない
  • ダッシュ、キック、方向転換で痛みが強くならない
  • 翌日に痛みが残らない
  • 医師・理学療法士から許可がある

復帰の段階

  1. 痛みのない日常生活
  2. 平地歩行
  3. 軽いジョギング
  4. 短いダッシュ
  5. サイドステップ
  6. 低強度のキック
  7. 方向転換
  8. 部分的な練習参加
  9. 通常練習
  10. 試合復帰

痛みが戻った場合は、一つ前の段階へ戻します。

予防のためにできること

子どもの股関節・鼠径部痛を完全に防ぐことは難しいですが、負担を減らす工夫はできます。

  • 練習量を急に増やさない
  • 休養日を作る
  • 痛みを我慢して続けない
  • 成長期は身長の伸びと体の硬さを確認する
  • 股関節前面、内もも、お尻の柔軟性を保つ
  • 体幹と股関節周囲筋を鍛える
  • 片脚動作で骨盤が大きく傾かないようにする
  • キックや切り返しのフォームを見直す
  • 痛みが出たら早めに負荷を下げる

保護者や指導者は、練習中だけでなく、練習後と翌日の痛み、歩き方の変化を確認してください。

よくある質問

グローインペインは病名ですか?

一つの病名ではありません。鼠径部周囲の痛みをまとめた言葉です。内転筋、腸腰筋、恥骨、股関節、骨盤の成長軟骨など原因はさまざまです。

子どもの股関節痛は様子を見てもよいですか?

軽い筋肉痛のような痛みで、歩行に問題がなく、数日で改善する場合は様子を見ることもあります。ただし、足を引きずる、歩けない、発熱、夜間痛、痛みが数週間続く場合は受診してください。

股関節の病気で膝が痛くなることはありますか?

あります。大腿骨頭すべり症やペルテス病など、股関節の病気が太ももや膝の痛みとして出ることがあります。

サッカーのキックで鼠径部が痛くなりました。肉離れですか?

内転筋の肉離れや腸腰筋の損傷もありますが、成長期では骨盤の裂離骨折が隠れていることがあります。急に強く痛んだ、歩けない、足を引きずる場合は受診してください。

大腿骨頭すべり症はなぜ注意が必要ですか?

大腿骨頭の成長軟骨部分でずれが起こる病気で、放置すると股関節の変形や将来の関節症につながることがあります。鼠径部・太もも・膝の痛みと跛行がある場合は注意します。

運動は完全に休むべきですか?

原因によります。軽い筋腱の痛みでは負荷を調整しながら続けることもありますが、歩けない、跛行、発熱、急な強い痛み、SCFEや感染が疑われる場合は運動を中止して受診します。

MRIは必要ですか?

すべてに必要ではありません。X線で分からない疲労骨折、骨端症、関節唇損傷、初期のペルテス病、原因不明の痛みが続く場合などで検討します。

再発を防ぐには何が大切ですか?

痛みが消えた直後に急に戻さないこと、股関節と体幹の筋力、柔軟性、キックや切り返しの動作、練習量を整えることが大切です。

まとめ

子ども・成長期の股関節の痛み、グローインペインは、内転筋や腸腰筋の使いすぎだけでなく、成長軟骨、骨盤の裂離骨折、大腿骨頭すべり症、ペルテス病、一過性股関節炎、化膿性股関節炎など、さまざまな原因で起こります。

グローインペインは一つの病名ではなく、鼠径部周囲の痛みの総称です。痛みの場所、発症の仕方、足を引きずるか、発熱があるか、股関節の動きが制限されているかを確認することが重要です。

軽いスポーツ障害では、運動量調整、冷却、ストレッチ、股関節周囲筋と体幹のトレーニング、段階的なスポーツ復帰で改善を目指します。

一方で、歩けない、発熱がある、急に強く痛んだ、股関節が硬い、膝痛として出ているが股関節を動かすと痛い場合は、早めに整形外科で評価を受けましょう。

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※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。子どもの股関節痛、鼠径部痛、跛行、発熱、歩行困難がある場合は、早めに医療機関へご相談ください。