膝蓋大腿関節症は、膝のお皿である膝蓋骨と、太ももの骨である大腿骨のあいだの関節に起こる変形性関節症です。英語では Patellofemoral osteoarthritis と呼ばれます。

膝の前側、お皿の周囲、階段の下り、立ち上がり、しゃがみ込み、長く座った後の痛みとして感じることが多い病気です。

変形性膝関節症というと「膝の内側の軟骨がすり減る病気」と思われがちですが、膝には内側・外側・膝蓋大腿関節という複数の区画があります。膝蓋大腿関節症では、主にお皿と大腿骨のあいだに負担が集中します。

この記事では、膝蓋大腿関節症の症状、原因、診断、治療、運動、注射、手術を患者さん向けに解説します。

早めに医療機関へ相談した方がよい症状

  • 転倒・スポーツ外傷後に膝が大きく腫れた
  • 体重をかけられない、歩けない
  • 膝が引っかかり、完全に伸ばせない
  • 膝のお皿が外れた、または外れそうな不安感がある
  • 膝が赤く熱を持ち、発熱を伴う
  • 夜間や安静時にも強い痛みがあり、日ごとに悪化している
  • 足先がしびれる、冷たい、白い・紫色になる
  • 数週間セルフケアをしても痛みが改善しない

膝蓋大腿関節とは

膝蓋大腿関節は、膝蓋骨と大腿骨のあいだにある関節です。

膝を曲げ伸ばしするとき、膝蓋骨は大腿骨の溝の上を滑るように動きます。階段、立ち上がり、しゃがみ込み、走る、ジャンプする動作では、この関節に大きな力がかかります。

膝蓋骨は、大腿四頭筋の力を効率よく伝える滑車のような役割をしています。そのため、膝蓋大腿関節に問題があると、膝の前側の痛みや階段動作のつらさにつながります。

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膝蓋大腿関節症とは

膝蓋大腿関節症は、膝蓋骨と大腿骨のあいだの軟骨や骨、周囲組織に変化が起こり、痛みやこわばり、動かしにくさが出る状態です。

変形性膝関節症の一部として起こることもあれば、膝の内側や外側よりも、膝蓋大腿関節の症状が目立つこともあります。

膝蓋大腿関節症では、次のような変化が見られることがあります。

  • 膝蓋骨の裏側の軟骨のすり減り
  • 大腿骨滑車の軟骨のすり減り
  • 骨棘
  • 関節のすき間の狭さ
  • 膝蓋骨の動きの偏り
  • 膝蓋骨周囲の炎症

画像で変化があっても、必ず痛みが強いとは限りません。症状、診察、画像所見を合わせて判断することが大切です。

主な症状

膝蓋大腿関節症では、膝の前側やお皿の周囲に痛みが出ることが多いです。

痛みが出やすい動作

  • 階段の下り
  • 階段の上り
  • 椅子からの立ち上がり
  • しゃがみ込み
  • 正座
  • 坂道の下り
  • 長時間座った後に立ち上がる
  • ランニング
  • ジャンプや着地

特に階段の下りや、膝を曲げた状態で体重がかかる動作で痛みやすいのが特徴です。

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音や違和感

膝を曲げ伸ばしすると、ゴリゴリ、コリコリ、ザラザラとした音を感じることがあります。これを軋轢音やクレピタスと呼ぶことがあります。

音があるだけで治療が必要とは限りません。ただし、音に痛み、腫れ、引っかかり、膝崩れを伴う場合は評価が必要です。

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膝蓋大腿痛との違い

膝の前側の痛みには、膝蓋大腿痛という状態もあります。膝蓋大腿痛は、若年者やスポーツをする人にも多く、画像上の明らかな関節症がなくても、膝蓋骨周囲に痛みが出ます。

一方、膝蓋大腿関節症では、X線やMRIで軟骨の変化、骨棘、関節のすき間の狭さなど、関節症としての変化が見られることがあります。

ただし、両者は完全に別物として切り分けられないこともあります。長く続く膝蓋大腿痛、膝蓋骨の不安定性、膝蓋骨の動きの偏りが、将来的に膝蓋大腿関節症につながることがあります。

原因・リスク因子

膝蓋大腿関節症の原因は一つではありません。年齢による変化だけでなく、膝蓋骨の動き、骨格、筋力、体重、過去のけがが関係します。

関係しやすい要因

  • 加齢
  • 過体重・肥満
  • 膝蓋骨の外側への偏り
  • 膝蓋骨高位
  • 大腿骨滑車が浅い
  • 膝蓋骨脱臼の既往
  • 膝蓋骨骨折や外傷
  • 大腿四頭筋や股関節周囲筋の筋力低下
  • 膝が内側へ入りやすい動作
  • 階段、しゃがみ込み、正座、膝立ちの多い生活

膝蓋骨脱臼を繰り返している場合、膝蓋骨の軟骨に負担がかかり、膝蓋大腿関節症につながることがあります。

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診断方法

問診

痛む場所、痛む動作、階段の上り下り、しゃがみ込み、長時間座った後の痛み、膝蓋骨脱臼歴、スポーツ歴、仕事での膝への負担を確認します。

診察

診察では、膝蓋骨周囲の痛み、膝蓋骨の動き、膝の曲げ伸ばし、腫れ、筋力、片脚動作、歩き方を確認します。

膝蓋骨が外側へ流れやすいか、膝を曲げたときに痛みや軋轢感が出るか、片脚スクワットで膝が内側へ入るかなども参考になります。

X線検査

X線では、膝蓋大腿関節のすき間、骨棘、膝蓋骨の位置、膝蓋骨の傾き、膝全体の関節症の程度を確認します。

膝蓋大腿関節を見るためには、正面や側面だけでなく、お皿の関節面を確認する撮影が役立つことがあります。

MRI検査

MRIでは、軟骨、骨髄浮腫、半月板、靱帯、滑膜炎、骨軟骨損傷などを確認できます。

すべての膝蓋大腿関節症でMRIが必要なわけではありませんが、痛みが強い、X線所見と症状が合わない、膝蓋骨脱臼後、半月板損傷や軟骨損傷が疑われる場合には検討されます。

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治療の基本方針

膝蓋大腿関節症の治療では、まず保存療法を行います。保存療法の目的は、痛みを抑え、膝蓋骨へかかる負担を減らし、日常生活と運動を続けやすくすることです。

主な保存療法

  • 患者教育
  • 活動量の調整
  • 運動療法
  • 体重管理
  • 薬物療法
  • 注射療法
  • テーピング・装具
  • 生活動作の工夫

NICEやAAOSの変形性膝関節症ガイドラインでも、運動療法、患者教育、体重管理、薬の適切な使用などが基本治療として位置づけられています。

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運動療法

運動療法は、膝蓋大腿関節症の中心的な治療です。

膝のお皿周囲だけでなく、太もも、股関節、体幹の筋力と動作を整えることが重要です。

目的

  • 大腿四頭筋を働かせる
  • 股関節周囲筋を強くする
  • 膝が内側へ入る動きを減らす
  • 階段や立ち上がりを楽にする
  • 膝蓋骨へかかる負担を調整する
  • 運動への不安を減らす

代表的な運動

  • 太ももに力を入れる運動
  • 椅子からの立ち上がり
  • 浅いスクワット
  • 股関節を横へ開く運動
  • かかと上げ
  • 片脚立ち
  • 低負荷の自転車

深いスクワットや階段を使った強いトレーニングを最初から行うと、痛みが悪化することがあります。膝を深く曲げない範囲から始め、痛みと腫れの反応を見ながら段階的に進めます。

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生活動作の工夫

膝蓋大腿関節症では、膝を深く曲げた状態で体重がかかる動作を調整すると痛みが軽くなることがあります。

工夫しやすい動作

  • 階段は手すりを使う
  • 下り階段では急がない
  • 低い椅子を避ける
  • 正座や深いしゃがみ込みを減らす
  • 床作業は椅子や台を使う
  • 坂道の下りを減らす
  • 長時間座るときは時々膝を伸ばす
  • 痛みが強い日は歩行距離を分ける

「膝を使わない」ことが目的ではありません。痛みを悪化させる負荷を避けながら、筋力と活動量を保つことが大切です。

体重管理

体重が増えると、階段、立ち上がり、歩行で膝にかかる負担が増えます。膝蓋大腿関節症でも、体重管理は痛みと機能の改善に役立つことがあります。

急激な減量ではなく、筋肉を保ちながら少しずつ進めることが大切です。高齢の方では、体重だけを減らして筋力が落ちると、かえって歩きにくくなることがあります。

薬物療法

痛みが強い時期には、外用薬や内服薬を使うことがあります。

外用薬

湿布や塗り薬などの外用NSAIDsは、膝の痛みに対してよく使われます。内服薬より全身への影響が少ないことが多いですが、皮膚かぶれや持病による注意点があります。

内服薬

NSAIDsやアセトアミノフェンなどを使うことがあります。NSAIDsは胃腸、腎臓、肝臓、心血管、血圧、抗凝固薬との併用に注意が必要です。

薬は痛みを抑えるための補助であり、筋力や動作の問題を治すものではありません。運動療法や生活改善と組み合わせて使います。

注射療法

膝蓋大腿関節症でも、痛みや腫れが強い場合に注射療法を検討することがあります。

ヒアルロン酸注射

日本では変形性膝関節症に対して広く行われています。痛みや動きにくさの軽減を目的に行います。

ただし、ヒアルロン酸注射の評価はガイドラインによって異なります。効果が乏しいまま長く続けるのではなく、痛み、階段、立ち上がり、活動量の変化を見て判断します。

ステロイド注射

炎症や腫れが強い時期に、短期的な痛み軽減を目的として行うことがあります。

頻回に行う治療ではありません。糖尿病、感染リスク、手術予定がある場合などでは注意が必要です。

テーピング・装具

膝蓋大腿関節症では、膝蓋骨の動きを補助するテーピングや装具が痛みの軽減に役立つことがあります。

特に、膝蓋骨が外側へ流れやすい、階段で痛い、運動時に不安がある場合に検討されます。

ただし、テーピングや装具だけで根本的に治すものではありません。運動療法や活動量調整と組み合わせて使うことが大切です。

膝蓋大腿関節症を対象とした研究では、運動、教育、徒手療法、テーピングを組み合わせた治療が短期的な痛みと改善感に有効であったと報告されています。

手術を考える場合

保存療法を十分に行っても痛みや生活障害が強い場合、手術を検討することがあります。

ただし、膝蓋大腿関節症の手術は、痛みの原因、関節症の範囲、膝蓋骨の位置、膝蓋骨の不安定性、内側・外側の関節症の有無によって選択が変わります。

関節鏡手術

遊離体、明らかな引っかかり、軟骨片などがある場合に検討されることがあります。

一方で、変形性関節症そのものに対して、単に関節内を洗う、削る目的の関節鏡手術は慎重に判断されます。

膝蓋骨不安定性に対する手術

膝蓋骨脱臼や膝蓋骨不安定症を伴う場合は、MPFL再建術や脛骨粗面移動術などを検討することがあります。

これは、膝蓋骨が外れやすい動きを整え、膝蓋大腿関節への負担を改善する目的で行われます。

膝蓋大腿関節置換術

膝蓋大腿関節だけが強く傷んでいて、内側・外側の関節が比較的保たれている場合、膝蓋大腿関節置換術が検討されることがあります。

ただし、適応は限られます。内側や外側にも関節症がある場合は、全人工膝関節置換術が適することがあります。

全人工膝関節置換術

膝蓋大腿関節だけでなく、内側や外側の関節も進行している場合は、全人工膝関節置換術を検討します。

人工関節を検討するかどうかは、画像だけでなく、痛み、歩行、階段、生活の質、保存療法の効果、本人の希望を合わせて判断します。

人工膝関節置換術について詳しく見る

膝蓋大腿関節症とスポーツ

膝蓋大腿関節症があっても、すべての運動をやめる必要はありません。むしろ、適切な運動は筋力と機能を保つために重要です。

比較的取り入れやすい運動

  • 平地歩行
  • 低負荷の自転車
  • 水中歩行
  • 浅いスクワット
  • 股関節周囲筋トレーニング
  • 体幹トレーニング

痛みが強い時期に注意したい運動

  • 深いスクワット
  • 階段ダッシュ
  • 坂道の下りランニング
  • ジャンプの反復
  • 膝を深く曲げて行う筋トレ
  • 長時間の正座や膝立ち

運動後や翌日に痛みや腫れが増える場合は、負荷が強すぎます。種目、回数、深さ、速度を調整します。

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よくある質問

膝蓋大腿関節症は治りますか?

軟骨が完全に元通りになるという意味で治るとは言いにくいですが、痛みや生活機能は改善できることがあります。運動療法、体重管理、生活動作の工夫、薬や注射を組み合わせます。

階段の下りだけ痛いのは膝蓋大腿関節症ですか?

可能性はあります。ただし、膝蓋大腿痛、半月板損傷、膝蓋腱障害、膝蓋骨不安定症などでも階段痛は起こります。痛みが続く場合は診察で確認します。

膝の音がゴリゴリ鳴ります。危険ですか?

音だけで危険とは限りません。痛み、腫れ、引っかかり、膝崩れを伴う場合は評価が必要です。

スクワットはしてよいですか?

痛みが強い時期に深いスクワットを行うと悪化することがあります。まずは浅い範囲から始め、翌日に痛みや腫れが増えないかを確認します。

サポーターは有効ですか?

膝蓋骨の動きを補助するサポーターやテーピングで痛みが軽くなることがあります。ただし、サポーターだけに頼らず、筋力と動作改善を組み合わせることが大切です。

ヒアルロン酸注射は効きますか?

効く方もいますが、全員に強い効果が出るわけではありません。効果が乏しいまま漫然と続けるのではなく、痛みや階段動作の変化を見て判断します。

手術が必要になるのはどんな場合ですか?

保存療法を行っても痛みや生活障害が強い場合、膝蓋骨不安定性、遊離体、膝蓋大腿関節だけの進行した関節症、または膝全体の進行した関節症がある場合に検討します。

膝蓋骨脱臼と関係がありますか?

関係することがあります。膝蓋骨脱臼を繰り返すと、膝蓋骨や大腿骨の軟骨に負担がかかり、膝蓋大腿関節症につながることがあります。

人工膝関節になりますか?

膝蓋大腿関節だけが傷んでいる場合は膝蓋大腿関節置換術が検討されることがありますが、適応は限られます。内側や外側も進行している場合は全人工膝関節を考えることがあります。

まとめ

膝蓋大腿関節症は、膝のお皿と大腿骨のあいだに起こる変形性関節症です。膝の前側の痛み、階段の下り、立ち上がり、しゃがみ込み、長時間座った後の痛みとして現れることが多いです。

原因には、加齢、体重、膝蓋骨の動きの偏り、膝蓋骨脱臼、膝蓋骨高位、大腿骨滑車の形、筋力低下、動作の癖などが関係します。

治療の基本は、患者教育、運動療法、生活動作の工夫、体重管理、薬物療法、注射、テーピング・装具です。特に大腿四頭筋と股関節周囲筋を含めた運動療法が重要です。

保存療法で改善しない場合や、膝蓋骨不安定性、遊離体、進行した関節症がある場合は、手術を検討することがあります。

膝の前側の痛みが続く場合は、膝蓋大腿関節症だけでなく、半月板損傷、膝蓋骨脱臼、膝蓋腱障害なども含めて評価することが大切です。

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※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。痛みが続く場合、腫れ・ロッキング・膝蓋骨不安定感を伴う場合は、整形外科でご相談ください。