人工膝関節置換術とは?保存療法・骨切り術・人工関節の選び方
人工膝関節置換術は、傷んだ膝関節の表面を金属やポリエチレンでできた人工関節に置き換え、痛みを軽くして歩きやすくする手術です。
変形性膝関節症が進行し、薬、注射、運動療法、装具などを行っても、歩く、階段を上る、買い物へ行く、夜眠るといった生活に大きな支障が残る場合に検討されます。
ただし、膝の痛みがあるからすぐ人工関節というわけではありません。保存療法、ラジオ波治療、骨切り術、単顆型人工膝関節、全人工膝関節など、膝の状態に応じて複数の選択肢があります。
この記事では、人工膝関節置換術の基本、全人工膝関節と単顆型人工膝関節の違い、手術以外の選択肢、骨切り術との違い、手術前後の流れ、合併症、よくある質問を解説します。
人工膝関節を考える前に知っておきたいこと
- 人工膝関節は、変形性膝関節症の最終段階だけに限らず、生活への支障が大きい場合に検討されます。
- 年齢や体重だけで手術の可否を決めるものではありません。
- 膝の傷み方によって、全人工膝関節、単顆型人工膝関節、骨切り術など選択肢が変わります。
- 手術は痛みと機能改善を目指す治療ですが、感染、血栓症、ゆるみ、可動域制限などのリスクがあります。
- 人工膝関節は「若い人には絶対できない」「高齢なら必ず人工関節」という単純なものではありません。
- 術後の回復にはリハビリが重要です。手術だけで膝の機能が自動的に戻るわけではありません。
人工膝関節置換術とは
人工膝関節置換術は、傷んだ膝関節の表面を整え、金属とポリエチレンでできた人工関節を設置する手術です。
変形性膝関節症では、軟骨、半月板、軟骨下骨、滑膜、靱帯、筋肉など、関節全体に変化が起こります。痛みが強くなると、歩行距離が短くなり、階段や立ち上がりがつらくなり、外出や趣味をあきらめることがあります。
人工膝関節の目的は、次の3つです。
- 膝の痛みを軽くする
- 歩行や階段など日常生活を改善する
- 変形した膝の軸や動きを整える
人工関節は、失われた軟骨を再生させる治療ではありません。傷んだ関節面を人工物に置き換え、痛みを軽くして動きやすくする治療です。
人工膝関節を検討する目安
人工膝関節は、画像だけで決める手術ではありません。X線で変形が強くても生活に困っていなければ急ぐ必要がないことがあります。一方、画像上は中等度でも、痛みや機能障害が大きければ治療方針を相談します。
検討する目安は次のとおりです。
- 痛みで歩行距離が短くなっている
- 階段、立ち上がり、買い物、外出がつらい
- 夜間痛や安静時痛がある
- 保存療法を行っても十分に改善しない
- 膝の変形が進み、日常生活に支障がある
- 膝の痛みで運動や仕事、趣味が大きく制限されている
- 痛み止めや注射を繰り返しても効果が短い
NICEのガイドラインでは、関節症状が生活機能を低下させ、生活の質に大きく影響し、保存療法が効果不十分または適さない場合に、関節置換術の紹介を検討するとされています。
人工膝関節の前に考える治療選択肢
人工膝関節は重要な選択肢ですが、すべての人がすぐ手術になるわけではありません。膝の状態によって、次の治療を組み合わせます。
1.運動療法
変形性膝関節症では、運動療法が基本治療です。太もも、股関節周囲、ふくらはぎの筋力を保ち、歩行や立ち上がりを改善します。
- 太ももに力を入れる運動
- 椅子からの立ち上がり
- 浅いスクワット
- 股関節周囲筋の運動
- 自転車や水中運動などの有酸素運動
痛みを完全にゼロにすることだけでなく、生活機能を保つことが目標です。
2.体重管理
体重が増えると、歩行や階段のたびに膝へかかる負担が増えます。過体重がある場合、体重管理は痛みの軽減と機能改善に役立ちます。
高齢の方では、体重だけを減らして筋肉まで落ちると歩行能力が低下することがあります。筋力を保ちながら、無理のない範囲で取り組むことが大切です。
3.薬・外用薬
湿布や塗り薬、内服薬は痛みを抑え、動きやすくするために使います。
NSAIDsは効果が期待できますが、胃腸、腎臓、肝臓、心血管疾患、血圧、抗凝固薬との併用に注意が必要です。自己判断で長期間使い続けないようにしてください。
4.注射療法
ヒアルロン酸注射やステロイド注射が行われることがあります。
ヒアルロン酸注射は日本でよく行われますが、世界のガイドラインでは評価が分かれます。効果が乏しいまま漫然と続けるのではなく、痛み、腫れ、歩行、活動量の変化を見て判断します。
ステロイド注射は、強い炎症や腫れがある時期に短期的な痛み軽減を目的として使うことがあります。糖尿病、感染リスク、手術予定がある場合は注意が必要です。
5.ラジオ波治療
膝関節のラジオ波治療は、膝の痛みを伝える神経の一部に高周波エネルギーを加え、痛みを軽くする治療です。
軟骨やO脚を治す治療ではありませんが、痛みを軽くして歩行や運動療法を続けやすくする目的で検討されます。
6.脛骨近位骨切り術
O脚で膝の内側へ負担が集中している場合、自分の膝関節を残したまま荷重軸を調整する脛骨近位骨切り術を検討することがあります。
人工関節ではなく、骨の角度を変えて内側の負担を減らす関節温存手術です。比較的活動性を保ちたい方、外側の軟骨が残っている方、人工関節にはまだ早い方で検討されます。
人工膝関節の種類
人工膝関節には、膝全体を置き換える手術と、一部だけを置き換える手術があります。
全人工膝関節置換術
全人工膝関節置換術は、英語で Total Knee Arthroplasty または Total Knee Replacement と呼ばれ、TKA、TKRと略されます。
膝の内側、外側、膝蓋大腿関節を含めて、膝関節全体の表面を人工関節に置き換える手術です。
次のような場合に検討されます。
- 内側だけでなく外側や膝蓋大腿関節も傷んでいる
- 変形が強い
- 膝の曲げ伸ばし制限がある
- 関節全体に痛みや炎症がある
- 単顆型人工膝関節や骨切り術では対応が難しい
進行した変形性膝関節症に対して、痛みと機能改善が期待できる標準的な手術です。
単顆型人工膝関節置換術
単顆型人工膝関節置換術は、英語で Unicompartmental Knee Arthroplasty と呼ばれ、UKAと略されます。部分人工膝関節とも呼ばれます。
膝の一部分、たとえば内側だけが強く傷んでいて、他の部分が比較的保たれている場合に検討されます。
特徴は次のとおりです。
- 傷んだ区画だけを置き換える
- 骨や靱帯を比較的温存しやすい
- 全人工膝関節より侵襲が小さいことがある
- 回復が早い場合がある
- 適応が限られる
- 将来的に全人工膝関節へ再手術が必要になることがある
AAOSは、単顆型人工膝関節を、病気が膝の一つの区画に限られる患者さんにおける全人工膝関節の代替手段として説明しています。
膝蓋大腿関節置換術
膝蓋骨と大腿骨の溝の部分だけが傷んでいる場合、膝蓋大腿関節置換術が検討されることがあります。
ただし、適応は限られます。膝の内側や外側にも関節症がある場合は、全人工膝関節が適することがあります。
全人工膝関節・単顆型人工膝関節・骨切り術の比較
| 治療 | 主な対象 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 脛骨近位骨切り術 | O脚・内側型関節症・活動性を保ちたい方 | 自分の関節を残し、荷重軸を変える | 骨癒合とリハビリが必要 |
| 単顆型人工膝関節 | 内側など一部だけ傷んでいる膝 | 一部だけ置き換え、骨や靱帯を温存しやすい | 適応が限られ、再手術リスクがある |
| 全人工膝関節 | 進行した関節症、広い範囲の傷み | 膝全体を置き換え、痛みと変形を改善する | 感染、血栓症、ゆるみ、可動域制限などに注意 |
どの治療が最もよいかは、年齢だけでは決まりません。膝の傷み方、O脚・X脚、靱帯の状態、可動域、骨の状態、活動性、生活目標を合わせて判断します。
手術前に確認すること
人工膝関節を検討する場合、次の点を確認します。
- 痛みの原因が本当に膝関節にあるか
- 股関節や腰からの痛みではないか
- 関節症の進行度
- 内側・外側・膝蓋大腿関節のどこが傷んでいるか
- O脚・X脚の程度
- 膝の曲げ伸ばしの範囲
- 靱帯の安定性
- 糖尿病、心臓病、腎臓病、感染症リスク
- 歯科感染、皮膚トラブル、尿路感染などの有無
- 退院後の生活環境
検査では、X線、全下肢X線、必要に応じてMRI、CT、血液検査、心電図、胸部X線などを行います。
人工膝関節手術の流れ
医療機関によって方法は異なりますが、おおまかな流れは次のとおりです。
- 麻酔を行う
- 膝の前方から切開する
- 傷んだ骨と軟骨の表面を整える
- 人工関節のサイズと位置を確認する
- 金属部品とポリエチレン部品を設置する
- 膝の曲げ伸ばし、安定性、脚の軸を確認する
- 創を閉じる
人工関節の固定方法には、骨セメントを使う方法、セメントを使わない方法、組み合わせる方法などがあります。骨の状態、年齢、活動性、インプラントの種類、医師の方針によって選択されます。
入院とリハビリ
術後早期
術後は、痛みを管理しながら、足首の運動、膝の曲げ伸ばし、大腿四頭筋の運動、歩行練習を進めます。
早期離床は、筋力低下や血栓予防の面でも重要です。ただし、進め方は手術内容、体力、痛み、合併症の有無によって異なります。
退院後
退院後は、歩行、階段、立ち上がり、膝の曲げ伸ばし、筋力回復を継続します。
回復には個人差があります。数週間で生活が大きく楽になる方もいますが、むくみ、熱感、違和感、筋力低下が数か月続くこともあります。
人工膝関節は、手術後のリハビリが結果に大きく関わります。
人工膝関節で期待できること
人工膝関節で期待できる主な効果は次のとおりです。
- 歩行時痛の改善
- 階段や立ち上がりの改善
- 変形の改善
- 夜間痛や安静時痛の軽減
- 活動範囲の拡大
- 生活の質の改善
一方で、すべての人が「若い頃の膝」に戻るわけではありません。正座、深いしゃがみ込み、激しいスポーツなどは難しいことがあります。
合併症・リスク
人工膝関節は多くの患者さんで良い結果が期待できる手術ですが、リスクもあります。
- 感染
- 深部静脈血栓症・肺塞栓症
- 出血
- 神経・血管損傷
- 骨折
- 人工関節のゆるみ
- 人工関節の摩耗
- 膝の可動域制限
- 膝の違和感や痛みの残存
- 再手術
術後に、発熱、創部の強い赤み、膿、急な強い痛み、ふくらはぎの腫れや痛み、突然の息苦しさや胸痛がある場合は、早めに医療機関へ連絡してください。
人工膝関節はどのくらいもちますか?
人工膝関節の耐用年数は、インプラントの種類、手術手技、体重、活動量、骨の状態、感染の有無などで変わります。
近年の人工膝関節は長期成績が改善していますが、一生絶対に入れ替え不要とは言い切れません。特に若く活動性が高い方では、将来的な再置換の可能性も考えて治療を選びます。
耐用年数だけでなく、「今の生活をどう改善したいか」「将来再手術の可能性をどう考えるか」を含めて相談することが大切です。
手術後にできる活動・避けたい活動
行いやすい活動
- 歩行
- 自転車
- 水中歩行
- 軽い筋力トレーニング
- ゴルフなどの低衝撃スポーツ
注意が必要な活動
- ジャンプやダッシュを繰り返す競技
- 接触スポーツ
- 重い物を持って深くしゃがむ作業
- 転倒リスクが高い活動
- 長時間の正座や深い膝曲げ
活動制限は、手術方法、人工関節の種類、筋力、骨の状態、医師の方針によって変わります。自己判断で高負荷の運動へ戻らず、担当医に確認してください。
よくある質問
人工膝関節は何歳からできますか?
年齢だけで決まりません。痛み、生活への支障、関節の傷み方、活動性、持病、本人の希望を総合的に判断します。若い方では骨切り術や単顆型人工膝関節が選択肢になることもあります。
人工膝関節は高齢でもできますか?
高齢でも可能な場合があります。ただし、心臓、肺、腎臓、糖尿病、認知機能、体力、退院後の生活環境を含めて安全性を確認します。
両膝を同時に手術できますか?
医療機関や患者さんの状態によって異なります。同時手術は入院期間やリハビリを一度にまとめられる一方、体への負担が大きくなることがあります。片膝ずつ行う方が安全な場合もあります。
人工膝関節をすれば痛みは完全になくなりますか?
多くの方で痛みの改善が期待できますが、完全に痛みがゼロになるとは限りません。違和感、こわばり、天候による不快感、筋力低下に伴う痛みが残ることがあります。
正座はできますか?
できる方もいますが、全員に保証できるわけではありません。人工膝関節では、深い正座よりも、歩行、階段、立ち上がりなど日常生活の改善を優先して考えることが多いです。
単顆型人工膝関節と全人工膝関節はどちらがよいですか?
膝の傷みが一部に限られ、靱帯や他の区画が保たれていれば単顆型人工膝関節が選択肢になります。複数の区画が傷んでいる場合、変形が強い場合は全人工膝関節が適することがあります。
骨切り術と人工膝関節で迷っています
骨切り術は自分の関節を残して荷重軸を変える手術、人工膝関節は傷んだ関節面を人工物に置き換える手術です。年齢、活動性、O脚の程度、軟骨の残り方、生活目標によって選びます。
人工膝関節の後に再手術はありますか?
感染、ゆるみ、摩耗、骨折、不安定性などで再手術が必要になることがあります。頻度は高くありませんが、若く活動性が高い方では長期的に考える必要があります。
手術しないでどこまで粘れますか?
痛みが生活に与える影響、変形の進行、筋力低下、薬や注射の効果、副作用を見ながら判断します。手術を急ぐ必要がないこともありますが、痛みで活動量が大きく落ちると、筋力や体力が低下することがあります。
まとめ
人工膝関節置換術は、進行した膝関節症に対して、痛みを軽くし、歩行や生活機能を改善するための重要な治療です。
ただし、膝の痛みがあるからすぐ人工関節というわけではありません。運動療法、体重管理、薬、注射、ラジオ波治療、脛骨近位骨切り術、単顆型人工膝関節、全人工膝関節など、複数の選択肢があります。
全人工膝関節は膝全体が傷んでいる場合に、単顆型人工膝関節は一部だけが傷んでいる場合に、骨切り術はO脚で内側荷重が強く自分の関節を残したい場合に検討されます。
手術を選ぶかどうかは、画像だけではなく、痛み、生活への支障、膝の傷み方、活動性、持病、本人の希望を合わせて判断します。
自分にとって最適な治療を選ぶために、保存療法から手術までの選択肢を理解し、整形外科で相談していきましょう。
参考文献
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※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。

