腸脛靱帯炎とは?ランニングで膝の外側が痛い原因と治療
腸脛靱帯炎は、膝の外側に痛みが出る代表的なスポーツ障害です。英語では Iliotibial Band Syndrome と呼ばれ、略して ITBS と表記されます。
ランニング中、特に走る距離が長くなったとき、坂道の下り、階段の下り、スピード練習の後に、膝の外側がズキッと痛むことがあります。
「ランナー膝」と呼ばれることもありますが、ランナー膝という言葉は膝蓋大腿痛を指すこともあり、腸脛靱帯炎と完全に同じ意味ではありません。腸脛靱帯炎は、膝の外側の痛みとして整理すると分かりやすいです。
多くの場合、手術ではなく、運動量の調整、痛みの管理、股関節周囲筋の強化、ランニングフォームや練習環境の見直しで改善を目指します。
腸脛靱帯炎と思っても、早めに受診した方がよい症状
- 転倒・接触・ひねり動作の後から強く痛む
- 体重をかけられない、歩けない
- 膝が大きく腫れた
- 膝が引っかかり、完全に伸ばせない
- 膝がぐらつく、抜ける
- 膝の外側を押すと骨に響くように強く痛い
- 夜間や安静時にも痛み、日ごとに悪化している
- 足先がしびれる、冷たい、白い・紫色になる
- 数週間セルフケアをしても改善しない
腸脛靱帯とは
腸脛靱帯は、骨盤の外側から太ももの外側を通り、すねの外側へ向かって伸びる強い線維性の組織です。
大腿筋膜張筋、大殿筋、中殿筋など股関節周囲の筋肉と関係し、膝の外側の安定性やランニング中の下肢のコントロールに関わります。
腸脛靱帯炎では、腸脛靱帯そのものが単純に「こすれて削れる」というより、膝の外側で繰り返し圧迫や摩擦、張力が加わり、周囲の組織に炎症や痛みが起こると考えられています。
どこが痛くなりますか?
痛みの中心は、膝の外側です。特に、大腿骨外側上顆と呼ばれる、膝外側の骨の出っ張り付近に痛みが出やすいです。
指で押すと、膝の外側の少し上から関節の外側にかけて痛むことがあります。
痛みが出やすい場面
- 走り始めは大丈夫だが、数km走ると痛い
- ランニング後半に膝の外側が痛くなる
- 坂道の下りで痛い
- 階段の下りで痛い
- スピード練習や距離を増やした後に痛い
- 自転車で膝の外側が痛い
- 膝を曲げ伸ばしすると外側が引っかかるように痛い
初期は運動中だけ痛み、休むと落ち着くことが多いです。進行すると、歩行や階段でも痛みが出ることがあります。
腸脛靱帯炎が起こりやすい人
腸脛靱帯炎は、膝を曲げ伸ばしする反復動作が多い人に起こりやすいです。
スポーツ・運動に関連する要因
- ランニング
- 長距離走
- トレイルランニング
- 自転車
- スキー
- サッカーやバスケットボールなど方向転換の多い競技
- 急に走行距離を増やした
- 坂道や下り坂を増やした
- 路面の傾いた道路を走ることが多い
- 休養が足りない
体の使い方に関連する要因
- 股関節外転筋の筋力低下
- 中殿筋の働きが弱い
- 走ると膝が内側へ入る
- 股関節が内側へ回りやすい
- 足部の過回内
- 脚長差
- O脚や膝のアライメントの影響
- 靴が合っていない、すり減っている
腸脛靱帯炎は、「腸脛靱帯が硬いから伸ばせばよい」という単純な問題ではありません。股関節、体幹、足部、走る量、路面、フォームを合わせて考える必要があります。
ランナー膝との違い
日本では、腸脛靱帯炎を「ランナー膝」と呼ぶことがあります。一方で、英語圏では runner’s knee が膝蓋大腿痛を指すこともあります。
腸脛靱帯炎は膝の外側が痛くなりやすく、膝蓋大腿痛はお皿まわりや膝の前側が痛くなりやすいという違いがあります。
| 病気 | 痛みの場所 | 痛みやすい動作 |
|---|---|---|
| 腸脛靱帯炎 | 膝の外側 | ランニング後半、下り坂、階段の下り |
| 膝蓋大腿痛 | 膝の前側、お皿まわり | 階段、しゃがみ込み、長く座った後、ランニング |
腸脛靱帯炎と間違えやすい病気
膝の外側の痛みは、腸脛靱帯炎だけではありません。痛みが続く場合は、他の病気を確認する必要があります。
外側半月板損傷
膝の外側の関節のすき間が痛い、ひねると痛い、膝が引っかかる、ロックする場合は、外側半月板損傷を考えます。
外側側副靱帯損傷
外傷後に膝外側が痛い、膝が外側へぐらつく場合は、外側側副靱帯損傷を考えます。
膝蓋大腿痛・膝蓋大腿関節症
膝前面やお皿まわりの痛みが中心の場合は、腸脛靱帯炎ではなく、膝蓋大腿痛や膝蓋大腿関節症が関係することがあります。
大腿骨外側顆の骨軟骨損傷・疲労骨折
強い荷重時痛、安静時痛、夜間痛、外側の骨を押した痛みが強い場合は、骨の病変を確認する必要があります。
腰や股関節からの痛み
外側の太ももや膝周囲の痛みは、腰や股関節からくることもあります。しびれ、腰痛、股関節痛を伴う場合は注意します。
診断方法
問診
いつから痛いか、走行距離や練習内容を変えたか、坂道や下り坂が多いか、靴を変えたか、どのくらい走ると痛いかを確認します。
「走り始めはよいが、一定距離から膝外側が痛くなる」という経過は、腸脛靱帯炎でよく見られます。
診察
膝の外側、大腿骨外側上顆付近の圧痛を確認します。膝の曲げ伸ばしで痛みが出る角度、腸脛靱帯の緊張、股関節外転筋の筋力、片脚スクワット、歩き方や走り方も確認します。
代表的な診察として、Noble圧迫テストやOberテストが使われることがあります。ただし、これらのテストだけで診断を決めるのではなく、症状と痛む場所、運動歴、他の損傷の有無を合わせて判断します。
X線検査
腸脛靱帯炎そのものはX線に写りにくいですが、骨の病変、関節症、アライメント、他の疾患を確認するために行うことがあります。
超音波・MRI
典型的な腸脛靱帯炎では、画像検査が必ず必要というわけではありません。
ただし、診断がはっきりしない、痛みが長引く、腫れや引っかかりがある、外傷後、骨の病変が心配な場合には、超音波やMRIを検討します。
治療の基本
腸脛靱帯炎の多くは、保存療法で改善を目指します。保存療法では、痛みを抑えるだけでなく、痛みを起こしている負荷を調整し、再発しにくい状態を作ることが重要です。
治療の柱
- 運動量の調整
- 痛みと炎症の管理
- 股関節周囲筋の強化
- ランニングフォームの見直し
- ストレッチ・セルフケア
- 靴や路面の見直し
- 段階的な復帰
2024年のシステマティックレビューでは、ランナーの腸脛靱帯炎に対する保存療法の中で、股関節外転筋の強化が重要な構成要素として報告されています。
まず行うセルフケア
痛みが出る練習を一時的に減らす
痛みが出ている時期に、同じ距離、同じペース、同じ坂道練習を続けると、痛みが長引くことがあります。
次のように負荷を下げます。
- 走行距離を減らす
- スピード練習を一時的に減らす
- 坂道の下りを避ける
- 傾いた路面を避ける
- 痛みが出る前に終了する
- 自転車や水中運動へ一時的に置き換える
完全に運動をやめる必要があるとは限りませんが、痛みを出しながら走り続けるのは避けます。
冷却
運動後や痛みが強い時期は、膝の外側を10〜20分程度冷やします。冷やしすぎや皮膚への直接接触は避けてください。
痛い場所を強くこすらない
膝外側の痛む部分をフォームローラーや手で強く押し続けると、かえって痛みが増えることがあります。
フォームローラーを使う場合は、痛みの中心を強くつぶすより、太ももの外側やお尻まわりを軽くほぐす程度にします。
ストレッチ
腸脛靱帯そのものは硬い線維組織であり、強く伸ばせば大きく伸びるものではありません。それでも、股関節外側、お尻、太もも前後、ふくらはぎの柔軟性を整えることは、負担調整に役立つことがあります。
お尻まわりのストレッチ
- 仰向けになります。
- 痛い側の足首を反対側の膝に乗せます。
- 反対側の太ももを胸へ引き寄せます。
- お尻の外側が伸びるところで20〜30秒保ちます。
太もも外側のストレッチ
- 立った姿勢で、痛い側の脚を後ろへ交差します。
- 体を反対側へゆっくり倒します。
- 太もも外側からお尻にかけて伸びる感覚で20〜30秒保ちます。
ストレッチで膝の外側に鋭い痛みが出る場合は中止してください。
筋力トレーニング
腸脛靱帯炎では、股関節外転筋や外旋筋、体幹の安定性が重要です。特に中殿筋の働きが弱いと、ランニング中に股関節が内側へ入り、腸脛靱帯への負担が増えることがあります。
横向き脚上げ
- 横向きに寝ます。
- 上側の脚をまっすぐにして、ゆっくり持ち上げます。
- 骨盤が後ろへ倒れないようにします。
- ゆっくり下ろします。
クラムシェル
- 横向きに寝て、膝を軽く曲げます。
- 足をそろえたまま、上側の膝を開きます。
- 骨盤が後ろへ倒れないようにします。
- ゆっくり戻します。
サイドステップ
- 膝を軽く曲げて立ちます。
- 膝とつま先を同じ方向に向けます。
- 横へ小さくステップします。
- 膝が内側へ入らないようにします。
片脚スクワットの準備
痛みが落ち着いてきたら、片脚で体を支える練習を行います。
- 膝が内側へ入らない
- 骨盤が大きく傾かない
- 足の親指側へつぶれすぎない
- 痛みが出ない浅い範囲で行う
ランニングの見直し
腸脛靱帯炎では、走り方と練習環境の見直しが重要です。
見直したいポイント
- 急に走行距離を増やしていないか
- 坂道の下りが多くないか
- いつも同じ向きで傾いた道路を走っていないか
- 靴がすり減っていないか
- スピード練習が多すぎないか
- 痛みが出た後も走り続けていないか
- 疲れてフォームが崩れていないか
再開時の考え方
痛みが落ち着いたら、平地で短い距離から再開します。最初から坂道、スピード練習、長距離走へ戻らないようにします。
- 痛みが出ない距離から始める
- 翌日に痛みが残らないか確認する
- 距離は少しずつ増やす
- 下り坂は最後に戻す
- 筋トレを並行する
走行中に膝外側の痛みが出て悪化する場合は、その日のランニングは中止してください。
薬・注射
外用薬・内服薬
痛みが強い時期には、湿布や塗り薬、NSAIDsなどを使うことがあります。
NSAIDsは胃腸、腎臓、肝臓、心血管、血圧、抗凝固薬との併用に注意が必要です。持病がある方は医師や薬剤師に相談してください。
注射
保存療法で改善しない場合や、局所の炎症が強い場合に、ステロイド注射を検討することがあります。
ただし、注射は痛みを落ち着かせる補助であり、走り方、股関節筋力、練習量を改善する治療ではありません。注射だけで走り続けると、再発することがあります。
手術が必要になることはありますか?
腸脛靱帯炎で手術が必要になることはまれです。
多くは保存療法で改善を目指します。数か月以上、適切な保存療法を行っても痛みが続き、スポーツや日常生活に大きな支障がある場合に、まれに手術が検討されることがあります。
手術を考える前に、診断が本当に腸脛靱帯炎でよいか、外側半月板損傷や骨の病変がないか、リハビリ内容が適切かを再確認します。
回復までの目安
腸脛靱帯炎は、適切な保存療法で数週間から数か月で改善することがあります。
文献では、2〜8週間程度の保存療法で痛みや機能が改善する報告があります。ただし、痛みが出るたびに無理をして走る、下り坂を続ける、筋力やフォームの問題が残る場合は長引きます。
復帰の目安
- 歩行や階段で痛みがない
- 膝の外側を押した痛みが軽い
- 片脚スクワットで膝が内側へ入らない
- 短いジョギングで痛みが出ない
- 翌日に痛みや張りが増えない
- 股関節周囲筋のトレーニングを継続できている
痛みが消えた直後に以前の距離へ戻すのではなく、段階的に戻すことが重要です。
予防のためにできること
腸脛靱帯炎の予防では、練習量、筋力、走り方、靴、路面を総合的に整えることが大切です。
- 走行距離を急に増やさない
- 坂道や下り坂を急に増やさない
- 股関節外転筋を鍛える
- 片脚動作で膝が内側へ入らないようにする
- 疲労が強い時期は強度を下げる
- 靴のすり減りを確認する
- 傾いた路面ばかり走らない
- 痛みが出たら早めに負荷を調整する
「痛みを我慢して走り切る」ことを繰り返すと、回復が遅れます。早めに調整する方が、結果的に復帰が早くなることがあります。
よくある質問
腸脛靱帯炎はどこが痛くなりますか?
主に膝の外側、大腿骨外側上顆の周囲が痛くなります。走っている途中から痛みが出て、下り坂や階段の下りで悪化しやすいです。
腸脛靱帯炎はランナー膝と同じですか?
日本では腸脛靱帯炎をランナー膝と呼ぶことがありますが、ランナー膝という言葉は膝蓋大腿痛を指すこともあります。痛みの場所で区別することが大切です。
走りながら治せますか?
軽症で痛みが悪化しない範囲なら、距離や強度を調整しながら運動を続けることがあります。ただし、走るほど痛みが強くなる場合は、一時的にランニング負荷を下げる必要があります。
ストレッチだけで治りますか?
ストレッチだけで十分とは限りません。股関節周囲筋の筋力、ランニングフォーム、練習量、路面、靴の見直しが重要です。
フォームローラーは有効ですか?
痛みが軽くなる方もいますが、膝外側の痛む場所を強く押し続けると悪化することがあります。使用する場合は痛みの中心を避け、軽めに行ってください。
注射をすればすぐ走れますか?
注射で痛みが軽くなることはありますが、原因となる負荷や筋力の問題が残っていれば再発します。注射後も段階的な復帰が必要です。
MRIは必要ですか?
典型的な腸脛靱帯炎では必ずしも必要ありません。ただし、痛みが長引く、腫れや引っかかりがある、外傷後、骨の病変が疑われる場合はMRIを検討します。
自転車でも腸脛靱帯炎になりますか?
なります。サドルの高さ、クリート位置、ペダリングフォーム、練習量が関係することがあります。
どのくらいで治りますか?
数週間で改善する方もいますが、走り続けて悪化させると長引きます。2〜8週間程度の保存療法で改善する報告がありますが、個人差があります。
まとめ
腸脛靱帯炎は、膝の外側に痛みが出る代表的なスポーツ障害です。ランニング、下り坂、階段の下り、自転車など、膝の曲げ伸ばしを繰り返す動作で痛みが出やすくなります。
原因は、腸脛靱帯の硬さだけではありません。走行距離の急な増加、坂道、傾いた路面、靴、股関節外転筋の筋力低下、膝が内側へ入る動作などが関係します。
治療の基本は、運動量の調整、痛みの管理、股関節周囲筋の強化、ストレッチ、フォームや路面の見直しです。手術が必要になることはまれです。
一方で、膝の外側の痛みには、外側半月板損傷、外側側副靱帯損傷、膝蓋大腿痛、骨の病変などもあります。
歩けない、膝が大きく腫れる、ロッキングがある、外傷後、夜間痛がある、数週間たっても改善しない場合は、整形外科で原因を確認しましょう。
参考文献
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- Sanchez-Alvarado A, et al. Effects of conservative treatment strategies for iliotibial band syndrome on pain and function in runners: a systematic review. Front Sports Act Living. 2024.
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- Fredericson M, Wolf C. Iliotibial band syndrome in runners: innovations in treatment. Sports Med. 2005;35:451-459.
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。膝外側の痛みが続く場合、外傷後、腫れ、ロッキング、夜間痛がある場合は、整形外科でご相談ください。

