椅子から立ち上がるときに膝が痛い、ソファから立つときに時間がかかる、トイレや車から立ち上がるときにつらい。

このような症状は、膝の痛みがある方によくみられます。

立ち上がりは、日常生活の中で何度も行う動作です。歩く時間が短い方でも、椅子、トイレ、車、ベッド、床からの立ち上がりは避けられません。

そのため、立ち上がり動作を見直すことは、膝の痛みを減らし、生活を楽にするうえでとても大切です。

この記事では、立ち上がりで膝が痛くなる原因、膝に負担をかけにくい立ち上がり方、家でできる工夫、注意すべき症状について解説します。

運動や日常動作を見直す基本については、先に 膝の運動療法の考え方 も参考にしてください。

この記事の結論

  • 立ち上がりは、膝に負担がかかりやすい日常動作です。
  • 椅子が低いほど、膝への負担は大きくなりやすいです。
  • 足を少し後ろに引き、体を前に倒してから立つと楽になることがあります。
  • 膝だけで立つのではなく、お尻・股関節・体幹を使うことが大切です。
  • 手すりや肘掛けを使うことは悪いことではありません。
  • 翌日に膝が腫れる場合は、立ち上がり練習の負荷が強すぎる可能性があります。
  • 膝が腫れる、熱を持つ、歩けない、引っかかる場合は診察を優先してください。
Contents
  1. なぜ立ち上がりで膝が痛くなるのですか?
  2. 立ち上がりで痛くなりやすい場面
  3. 膝に負担をかけにくい立ち上がり方
  4. 手を使って立ってもよいですか?
  5. 椅子の高さを見直しましょう
  6. 立ち上がり練習の始め方
  7. 立ち上がり練習で痛みが出るときの調整
  8. 続けてもよい痛み・控えたほうがよい痛み
  9. どの筋肉が大切ですか?
  10. 変形性膝関節症と立ち上がり
  11. 手術後の立ち上がり
  12. 自宅でできる環境調整
  13. 受診したほうがよい症状
  14. よくある質問
  15. まとめ
  16. 参考文献

なぜ立ち上がりで膝が痛くなるのですか?

椅子から立ち上がるとき、膝は体重を支えながら曲がった状態から伸びていきます。

このとき、膝だけでなく、太もも、お尻、股関節、足首、体幹が協力して体を持ち上げています。

しかし、膝の痛みがある方では、次のような理由で膝に負担が集中しやすくなります。

  • 太ももの筋力が落ちている
  • お尻や股関節まわりの筋力が弱い
  • 膝が深く曲がった姿勢から立とうとしている
  • 椅子やソファが低い
  • 足の位置が前すぎる
  • 体を前に倒さず、膝だけで立とうとしている
  • 膝が内側に入る癖がある
  • 変形性膝関節症や半月板損傷などがある

立ち上がりで膝が痛い場合、単に「筋力がないから」だけではなく、動作のやり方や環境も関係します。

立ち上がりで痛くなりやすい場面

立ち上がりの痛みは、椅子の高さや姿勢によって変わります。

低い椅子やソファから立つとき

座面が低いほど、膝が深く曲がります。

深く曲がった位置から体を持ち上げるには、太ももや膝に大きな力が必要になります。そのため、低いソファや座椅子からの立ち上がりは、膝痛がある方には負担になりやすいです。

トイレから立つとき

便座が低い場合、膝を深く曲げた姿勢になります。

また、狭い空間では足の位置を調整しにくく、手をつく場所がないと、膝だけで立とうとして痛みが出やすくなります。

車から降りるとき

車の座席は低く、体をひねりながら立つことも多いため、膝に負担がかかりやすいです。

特に、片脚だけで踏ん張るように降りると、痛みが出やすくなります。

床から立つとき

床からの立ち上がりは、膝を深く曲げる必要があり、膝への負担が大きい動作です。

膝痛が強い時期は、床生活よりも椅子生活に切り替えるだけで楽になることがあります。

膝に負担をかけにくい立ち上がり方

立ち上がりでは、膝だけで頑張らず、体全体を使うことが大切です。

1. 少し浅く座る

椅子の奥に深く座ったままだと、立ち上がる前に体を前へ移動する必要があります。

まず、お尻を少し前にずらして、立ちやすい位置に座ります。

2. 足を少し後ろに引く

足が前に出すぎていると、立ち上がるときに膝や太ももへ負担がかかりやすくなります。

足を少し後ろに引き、足裏で床を押しやすい位置に置きます。

目安として、膝の真下か、少し後ろに足を置くと立ち上がりやすくなります。

3. 体を前に倒す

立ち上がる前に、体を少し前に倒します。

「鼻をつま先の上に近づける」ようなイメージです。

体を前に倒すことで、重心が前に移動し、膝だけでなく股関節やお尻の筋肉を使いやすくなります。

4. 床を押して立つ

足裏全体で床を押すようにして立ちます。

膝だけを伸ばそうとするのではなく、足・お尻・体幹を一緒に使うイメージです。

5. 膝が内側に入らないようにする

立ち上がるときに膝が内側へ入ると、膝の内側やお皿まわりに負担がかかることがあります。

膝とつま先の向きが大きくずれないように意識しましょう。

立ち上がりのコツ

  • 椅子に深く座りすぎない
  • 足を少し後ろに引く
  • 体を前に倒してから立つ
  • 足裏全体で床を押す
  • 膝が内側に入らないようにする
  • 必要なら肘掛けや手すりを使う

手を使って立ってもよいですか?

手を使って立つことは悪いことではありません。

膝が痛い時期に、無理に手を使わず立とうとすると、膝の痛みが悪化することがあります。

肘掛け、テーブル、手すり、杖などを使うことで、膝への負担を減らしながら安全に立ち上がることができます。

大切なのは、「手を使うこと=筋力がないから悪い」と考えないことです。

痛みが落ち着き、筋力が戻ってきたら、少しずつ手の支えを減らしていけば十分です。

椅子の高さを見直しましょう

立ち上がりがつらい方では、椅子の高さを変えるだけで楽になることがあります。

低い椅子は負担が大きい

低い椅子やソファでは、膝が深く曲がります。

深く曲がった姿勢から立つほど、膝や太ももに大きな力が必要になります。

少し高めの椅子を使う

膝が痛い時期は、少し高めで安定した椅子を使うと立ち上がりやすくなります。

座ったときに、膝が深く曲がりすぎない高さが目安です。

柔らかすぎるソファに注意

柔らかいソファは、座ると体が沈み込みます。

沈み込んだ状態から立ち上がるには、より大きな力が必要になります。

膝痛が強い時期は、柔らかいソファよりも、座面がしっかりした椅子のほうが楽なことがあります。

立ち上がり練習の始め方

立ち上がりは日常動作ですが、練習として行う場合は負荷を調整する必要があります。

痛みを我慢して何十回も行う必要はありません。

第1段階:高めの椅子から立つ

  1. 安定した高めの椅子に座ります。
  2. 足を少し後ろに引きます。
  3. 体を前に倒します。
  4. 肘掛けや太ももに手を添えて立ちます。
  5. ゆっくり座ります。
  6. 5回程度から始めます。

痛みが強い場合は、回数を減らして構いません。

第2段階:手の支えを少し減らす

痛みが少なく、翌日に腫れが出ない場合は、手の支えを少し減らします。

完全に手を使わないことを急ぐ必要はありません。

第3段階:椅子の高さを少し下げる

高めの椅子で楽にできるようになったら、少しずつ通常の高さの椅子に近づけます。

低い椅子やソファは負担が大きいため、急に進めないようにしましょう。

第4段階:日常生活の中で意識する

練習でできても、日常生活では急いで立ったり、荷物を持っていたり、床が滑りやすかったりします。

最終的には、トイレ、食卓、車、待合室など、実際の生活場面で安全に立てることを目標にします。

立ち上がり練習で痛みが出るときの調整

立ち上がり練習で痛みが出る場合は、次のように調整します。

  • 椅子を高くする
  • 回数を減らす
  • 手すりや肘掛けを使う
  • 足の位置を少し後ろにする
  • 体を前に倒してから立つ
  • ゆっくり行う
  • 痛みが出る深さから始めない

運動中の痛みだけでなく、翌日に痛みや腫れが増えていないかを確認してください。

続けてもよい痛み・控えたほうがよい痛み

続けてもよいことが多い目安

  • 痛みが軽い
  • 立ち上がるたびに痛みが強くならない
  • 運動後に痛みが長く残らない
  • 翌日に腫れが増えない
  • 歩き方が悪化しない
  • 階段や日常生活が悪化しない

控えたほうがよいサイン

  • 立ち上がるたびに痛みが強くなる
  • 練習後に膝が腫れる
  • 翌日に痛みが増える
  • 膝をかばって歩く
  • 階段がつらくなる
  • 膝くずれがある

このような場合は、練習量を減らすか、医療機関で相談してください。

どの筋肉が大切ですか?

立ち上がりでは、太ももの前の筋肉だけでなく、お尻や股関節まわりの筋肉も重要です。

部位 役割
太ももの前 膝を伸ばし、立ち上がりで体を支える
お尻 股関節を伸ばし、体を持ち上げる
股関節まわり 膝が内側へ入るのを防ぎ、姿勢を安定させる
ふくらはぎ 足元を安定させ、立った後のバランスを支える
体幹 体を前に倒す動きと姿勢を安定させる

筋力トレーニングについては、膝の筋力トレーニング も参考にしてください。

変形性膝関節症と立ち上がり

変形性膝関節症では、椅子から立つときや歩き始めに痛みを感じることがあります。

これは、膝の軟骨、半月板、骨、滑膜、筋力、炎症などが複雑に関係するためです。

立ち上がりで痛いからといって、必ずしも「動いてはいけない」という意味ではありません。

ただし、痛みを我慢して何度も立ち上がり練習を行うと、膝の腫れや痛みが悪化することがあります。

変形性膝関節症では、椅子の高さを調整し、手を使いながら、痛みが悪化しない範囲で立ち上がり動作を練習することが大切です。

変形性膝関節症について詳しく知りたい方は、変形性膝関節症とは も参考にしてください。

手術後の立ち上がり

半月板手術、骨切り術、人工膝関節置換術などの手術後は、立ち上がりの方法や荷重のかけ方が手術内容によって異なります。

手術後は、自己判断で立ち上がり練習を増やしすぎず、主治医や理学療法士の指示に従ってください。

自宅でできる環境調整

立ち上がりがつらい場合、運動だけでなく環境を整えることも大切です。

  • 低いソファを避ける
  • 安定した椅子を使う
  • 肘掛けのある椅子を使う
  • トイレに手すりをつける
  • 滑りにくい室内履きを使う
  • 床に物を置かない
  • 夜間の照明を確保する

特に高齢の方や術後の方では、立ち上がりの痛みだけでなく、転倒予防も重要です。

受診したほうがよい症状

早めに相談したほうがよい症状

  • 立ち上がると強い痛みがある
  • 膝が腫れている
  • 膝に熱感がある
  • 膝が引っかかる
  • 膝くずれがある
  • 体重をかけて歩けない
  • 夜間や安静時にも痛い
  • 痛みが日ごとに強くなっている
  • 転倒したあとから痛い

膝の腫れや熱感がある場合は、無理に立ち上がり練習を続けず、原因を確認しましょう。

よくある質問

Q1. 椅子から立ち上がると膝が痛いのは筋力不足ですか?

筋力不足が関係することはありますが、それだけではありません。椅子の高さ、足の位置、体の使い方、膝の変形、半月板や炎症なども関係します。

Q2. 手を使って立つのはよくないですか?

悪いことではありません。膝が痛い時期は、手すりや肘掛けを使って膝への負担を減らすことが大切です。痛みが落ち着いてきたら、少しずつ手の支えを減らします。

Q3. 立ち上がり練習は何回すればよいですか?

最初は5回程度から始めても十分です。大切なのは回数ではなく、痛みや腫れが悪化しないことです。翌日に痛みが増える場合は回数を減らしましょう。

Q4. スクワットと立ち上がり練習は同じですか?

似ていますが、立ち上がり練習は日常動作に近く、椅子の高さや手の支えで負荷を調整しやすい運動です。膝痛がある方では、深いスクワットより立ち上がり練習のほうが始めやすいことがあります。

Q5. 低いソファから立てない場合はどうすればよいですか?

低いソファは膝への負担が大きくなりやすいです。座面の高い椅子に変える、クッションで高さを上げる、肘掛けを使うなどの工夫をしましょう。

Q6. 立ち上がりで膝が腫れる場合は続けてもよいですか?

腫れが出る場合は負荷が強すぎる可能性があります。回数を減らす、椅子を高くする、手すりを使うなど調整してください。腫れが続く場合は医療機関で相談しましょう。

まとめ

立ち上がりは、膝に負担がかかりやすい日常動作です。

膝が痛い場合は、椅子の高さ、足の位置、体の前傾、膝の向き、手すりの使い方を見直すだけでも楽になることがあります。

立ち上がり練習は、痛みを我慢して何度も行うものではありません。高めの椅子から始め、手を使いながら、翌日に痛みや腫れが増えない範囲で少しずつ進めましょう。

膝が腫れる、熱を持つ、歩けない、引っかかる、膝くずれがある場合は、立ち上がり練習を続ける前に整形外科などで原因を確認してください。

参考文献

  1. Kolasinski SL, et al. 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis. Arthritis Care & Research. 2020.
  2. NICE. Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management. NG226. 2022.
  3. Fransen M, et al. Exercise for osteoarthritis of the knee. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015.
  4. Bannuru RR, et al. OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage. 2019.
  5. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Osteoarthritis of the Knee Evidence-Based Clinical Practice Guideline. 2021.

※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。膝の痛み、腫れ、熱感、歩行困難、急な悪化がある場合は、整形外科などの医療機関へご相談ください。