人工膝関節置換術後の生活|入院中と自宅で気をつけること
人工膝関節置換術後の生活|入院中と自宅で気をつけること
人工膝関節置換術を受ける方にとって、手術そのものと同じくらい気になるのが、術後の生活です。
「いつから歩けるのか」「退院後に自宅で生活できるのか」「階段は大丈夫か」「お風呂はいつから入れるのか」「どのくらいリハビリが必要なのか」と不安に感じる方は多いと思います。
人工膝関節置換術は、傷んだ膝関節を人工関節に置き換えることで、痛みの軽減と歩きやすさの改善を目指す手術です。
ただし、手術を受けた直後からすぐに何でもできるわけではありません。術後は、痛みや腫れを管理しながら、歩行、膝の曲げ伸ばし、筋力、日常生活動作を少しずつ回復させていきます。
この記事では、人工膝関節置換術後の入院生活と退院後の自宅生活について、注意点と回復の流れを解説します。
人工膝関節置換術そのものについて知りたい方は、先に 人工膝関節置換術とは も参考にしてください。
この記事の結論
- 人工膝関節置換術後は、早い時期から歩行練習とリハビリを始めます。
- 入院中は、痛み・腫れ・創部・歩行・階段・日常生活動作を確認します。
- 退院後は、転倒予防、創部管理、腫れの管理、運動の継続が大切です。
- 痛みが軽くなっても、急に活動量を増やしすぎないようにします。
- 発熱、創部の赤み、強い腫れ、ふくらはぎの痛み、息切れなどは早めに相談が必要です。
- 回復の速さには個人差があり、年齢、筋力、術前の状態、合併症によって変わります。
人工膝関節置換術後の生活で大切な考え方
人工膝関節置換術後の生活で大切なのは、「守ること」と「動かすこと」のバランスです。
手術直後は、傷の治癒、腫れ、痛み、出血、血栓などに注意する必要があります。一方で、安静にしすぎると、筋力低下、関節のこわばり、血栓、歩行能力の低下につながることがあります。
そのため、術後は医師や理学療法士の指示に従いながら、無理のない範囲で早めに立つ、歩く、膝を動かすことが大切です。
痛みを我慢して頑張りすぎる必要はありませんが、怖がってまったく動かさないことも避けたいところです。
入院中の流れ
入院中の流れは、病院や手術方法、患者さんの年齢や体力によって異なります。
ここでは、一般的な流れとして説明します。
手術当日
手術当日は、麻酔から覚めたあと、病室で全身状態を確認します。
- 血圧、脈拍、酸素状態の確認
- 痛みの確認
- 創部の出血や腫れの確認
- 点滴や尿道カテーテルの管理
- 足首を動かす運動
- 血栓予防の確認
施設によっては、手術当日からベッドサイドに座る、立つ、短い距離を歩く練習を始めることがあります。
術後1〜3日頃
術後早期は、痛みや腫れを確認しながら、歩行練習を進めます。
- ベッドから起き上がる練習
- 立ち上がり練習
- 歩行器や杖を使った歩行練習
- トイレ動作の練習
- 膝の曲げ伸ばしの練習
- 太ももの筋肉を使う練習
この時期は、痛みや腫れがあるのは自然なことです。痛み止めや冷却を使いながら、リハビリを進めます。
術後数日〜退院まで
退院が近づくと、自宅生活を意識した練習が増えていきます。
- 杖歩行の練習
- 階段昇降の練習
- 椅子からの立ち座り
- トイレ動作
- 着替え
- 自宅で行う運動の確認
- 退院後の注意点の説明
退院の時期は、病院の方針、創部の状態、歩行能力、自宅環境、家族のサポート体制によって変わります。
退院の目安
退院の目安は施設によって異なりますが、一般的には次のような点を確認します。
- 全身状態が安定している
- 創部に大きな問題がない
- 痛みが内服薬などでコントロールできている
- 歩行器や杖を使って安全に歩ける
- トイレまで移動できる
- 必要に応じて階段昇降ができる
- 自宅で行う運動を理解している
- 退院後の注意点を理解している
一人暮らし、階段が多い家、家族のサポートが少ない場合は、退院前に自宅環境をよく確認しておくことが大切です。
自宅に戻る前に準備しておきたいこと
退院後の自宅生活では、転倒を防ぐことがとても重要です。
手術後しばらくは、筋力が落ちていたり、膝が腫れていたり、痛み止めの影響でふらつきやすかったりします。
自宅で準備しておきたいもの
- 安定した椅子
- 手すり
- 滑りにくい靴や室内履き
- ベッドまたは立ち上がりやすい寝具
- 浴室の滑り止めマット
- トイレの手すりや補助具
- 歩行器や杖
- 冷却用の保冷材
片づけておきたいもの
- 床のコード
- めくれやすいカーペット
- 滑りやすいマット
- 床に置いた荷物
- 暗い廊下
- 段差周囲の障害物
退院後しばらくは、床生活よりも椅子生活のほうが安全です。
自宅での創部管理
退院後は、創部を清潔に保つことが大切です。
創部の管理方法は、使用しているテープ、ドレッシング、抜糸や抜鉤の有無によって異なります。必ず退院時の説明に従ってください。
注意したい創部の変化
- 赤みが広がる
- 熱感が強くなる
- 膿のような液が出る
- 出血や浸出液が増える
- 傷が開いてきた
- 発熱を伴う
- 痛みが急に強くなった
このような症状がある場合は、早めに手術を受けた病院へ連絡してください。
腫れと痛みへの対応
人工膝関節置換術後は、膝の腫れや熱感、つっぱり感がしばらく続くことがあります。
特に退院後は、家の中で動く量が増えるため、夕方に腫れや重だるさを感じることがあります。
腫れを悪化させない工夫
- 長時間立ちっぱなしを避ける
- 歩きすぎた日は休憩を増やす
- 膝を心臓より少し高くして休む
- 冷却を使う
- 足首を動かす
- 翌日に腫れが増える運動量は避ける
痛みがあるときの活動量調整については、膝が痛いときの休み方 も参考になります。
血栓に注意が必要です
人工膝関節置換術後は、下肢の血流が悪くなり、血栓ができることがあります。
血栓はふくらはぎや太ももの血管にできることがあり、まれに肺へ飛ぶと重い症状を起こすことがあります。
早めに連絡が必要な症状
- ふくらはぎが強く痛む
- 片脚だけ強く腫れる
- ふくらはぎが熱を持つ
- 急な息切れ
- 胸の痛み
- 動悸
- めまいや失神
このような症状がある場合は、自己判断で様子を見ず、早めに医療機関へ相談してください。
自宅で行うリハビリ
退院後もリハビリは続きます。
人工膝関節置換術後のリハビリでは、膝の曲げ伸ばし、太ももの筋力、歩行能力、バランス、日常生活動作を回復させることを目指します。
代表的な運動
- 足首の曲げ伸ばし
- 太ももに力を入れる運動
- 膝を伸ばす運動
- 膝を曲げる運動
- 椅子からの立ち座り
- 歩行練習
- 階段練習
運動は、痛みを我慢して強く行う必要はありません。痛みや腫れの反応を見ながら、回数や強さを調整します。
膝の運動療法については、膝の運動療法 も参考にしてください。
膝はどれくらい曲がればよいですか?
膝の曲がりは、術前の状態、手術方法、痛み、腫れ、筋力、リハビリの進み方によって個人差があります。
日常生活では、歩行、椅子からの立ち座り、階段、トイレ、車の乗り降りなどに必要な可動域があります。
ただし、数字だけにこだわりすぎる必要はありません。大切なのは、痛みや腫れを悪化させずに、生活に必要な動作を少しずつ取り戻すことです。
膝を無理に強く曲げようとすると、痛みや腫れが悪化することがあります。医師や理学療法士の指示に従って進めましょう。
歩行について
退院後は、歩行器や杖を使いながら安全に歩くことが大切です。
杖を使うことは、回復が遅いという意味ではありません。転倒を防ぎ、歩き方を安定させるための補助です。
歩くときの注意点
- 最初は短い距離から始める
- 痛みが強くなる距離まで歩かない
- 翌日に腫れが増えないか確認する
- 段差や滑りやすい場所に注意する
- 屋外では杖を使う
- 疲れている日は無理をしない
「その場で歩けるか」だけでなく、「翌日に腫れや痛みが増えていないか」を確認することが大切です。
階段の上り下り
階段は、退院前に病院で練習することが多い動作です。
術後しばらくは、手すりを使い、無理に交互に上り下りしようとしないことが大切です。
基本的な考え方
- 上るときは、動きやすい脚から出す
- 下りるときは、手術した脚から慎重に下ろす
- 手すりを使う
- 荷物を持ちながらの階段は避ける
- 急いで上り下りしない
慣れてきても、雨の日、夜間、疲れているときは特に注意しましょう。
トイレ・入浴・着替え
トイレ
低い便座は立ち座りが難しくなることがあります。必要に応じて、補高便座や手すりを使います。
入浴
入浴の開始時期は、創部の状態や病院の方針によって異なります。
シャワーや浴槽につかる時期については、退院時の説明に従ってください。創部が完全に問題ないと確認されるまでは、自己判断で湯船につからないようにしましょう。
着替え
ズボンや靴下の着脱は、最初は時間がかかります。
無理に深く膝を曲げたり、床に座ったりせず、椅子に座って行うと安全です。
寝る姿勢
術後は膝の痛みや腫れで、寝る姿勢に困ることがあります。
膝の下にクッションを長時間入れて、膝が曲がった状態のまま寝続けることは避けたほうがよい場合があります。膝が伸びにくくなることがあるためです。
ただし、痛みが強い時期に短時間楽な姿勢をとることはあります。寝る姿勢について不安がある場合は、リハビリ時に確認しましょう。
仕事復帰の目安
仕事復帰の時期は、仕事内容によって大きく異なります。
- デスクワーク
- 立ち仕事
- 長距離歩行が必要な仕事
- 重い荷物を持つ仕事
- 階段やしゃがみ込みが多い仕事
座ってできる仕事であれば比較的早く復帰できることもありますが、立ち仕事や重労働では時間がかかることがあります。
復帰時期は、主治医と相談して決めましょう。
車の運転
車の運転再開は、手術した側、痛み、反応速度、薬の影響、歩行状態によって変わります。
特に右膝の手術後は、ブレーキ操作に影響する可能性があります。
痛み止めの中には眠気やふらつきを起こすものもあります。運転再開は、主治医に確認してからにしましょう。
スポーツや旅行はいつから可能ですか?
軽い散歩や日常生活動作は、術後早期から少しずつ増やします。
一方で、スポーツや旅行は、歩行能力、筋力、腫れ、痛み、全身状態を確認しながら判断します。
比較的再開しやすい活動
- 散歩
- 軽い体操
- 自転車エルゴメーター
- 水中歩行
- 軽い筋力トレーニング
注意が必要な活動
- ジャンプ
- ダッシュ
- 激しい方向転換
- 転倒リスクの高いスポーツ
- 膝を深く曲げ続ける動作
- 重い荷物を持つ登山や長距離旅行
人工関節を長く使うためには、無理な衝撃や転倒を避けることが大切です。
感染予防について
人工関節が体内に入っている場合、感染には注意が必要です。
手術創部の感染だけでなく、体の別の場所の感染が問題になることもあります。
注意したいこと
- 創部の赤みや熱感を放置しない
- 発熱が続く場合は相談する
- 皮膚の傷を清潔に保つ
- 歯科治療や他科治療の際は人工関節が入っていることを伝える
- 尿路感染や皮膚感染を放置しない
歯科治療前の抗菌薬が必要かどうかは、患者さんの状態や病院の方針によって異なります。主治医や歯科医と相談してください。
人工膝関節を長く使うために
人工膝関節は、痛みを軽くして生活を改善するための手術ですが、人工物である以上、長く大切に使う意識も必要です。
- 転倒を防ぐ
- 体重を増やしすぎない
- 適度な筋力を保つ
- 強い衝撃のある運動を避ける
- 定期診察を受ける
- 急な痛みや腫れを放置しない
体重管理については、膝痛と体重管理 も参考にしてください。
早めに病院へ連絡したほうがよい症状
術後に注意したい症状
- 38度以上の発熱が続く
- 創部の赤みや腫れが強くなる
- 創部から膿のような液が出る
- 急に膝の痛みが強くなる
- 膝が急に大きく腫れる
- ふくらはぎが強く痛む、片脚だけ腫れる
- 息切れ、胸痛、動悸がある
- 転倒した
- 急に歩けなくなった
退院後に不安な症状がある場合は、自己判断で様子を見すぎず、手術を受けた病院へ相談してください。
よくある質問
Q1. 人工膝関節置換術後はいつから歩けますか?
多くの場合、術後早期から歩行練習を始めます。具体的な開始時期は、手術方法、麻酔、全身状態、痛み、病院の方針によって異なります。
Q2. 退院後、自宅で一人で生活できますか?
歩行やトイレ動作が安定していれば自宅生活は可能ですが、一人暮らしの場合は買い物、食事、入浴、通院などの準備が必要です。退院前に病院スタッフと相談しましょう。
Q3. 膝の腫れはいつまで続きますか?
腫れの程度や期間には個人差があります。退院後に活動量が増えると腫れやすくなることがあります。急に腫れが強くなる、熱感や発熱を伴う場合は相談してください。
Q4. お風呂はいつから入れますか?
創部の状態や病院の方針によって異なります。シャワーや入浴の開始時期は、退院時に必ず確認してください。
Q5. 杖はいつまで必要ですか?
杖を使う期間には個人差があります。痛み、筋力、歩き方、ふらつき、屋外環境によって変わります。安全に歩けるまでは、無理に杖を外さないことが大切です。
Q6. 正座はできますか?
人工膝関節置換術後に正座が難しい方は多いです。無理に深く膝を曲げると痛みや腫れが出ることがあります。正座を目標にするかどうかは、主治医と相談してください。
Q7. 車の運転はいつからできますか?
手術した側、痛み、反応速度、薬の影響によって異なります。特に右膝の手術後はブレーキ操作に関係するため、主治医に確認してから再開してください。
Q8. 旅行はいつから行けますか?
歩行が安定し、腫れや痛みが落ち着いてから検討します。長時間の移動では血栓予防のために足首を動かす、休憩を取る、水分を取るなどの工夫が必要です。
Q9. 人工関節が入っていることを他の病院で伝える必要がありますか?
はい。歯科治療、感染症の治療、他の手術や処置を受けるときには、人工関節が入っていることを伝えてください。
Q10. 術後の痛みが残ることはありますか?
人工膝関節置換術で多くの方は痛みの改善を期待できますが、痛みの残り方には個人差があります。腫れ、筋力低下、可動域制限、神経の過敏さ、腰や股関節の影響などが関係することもあります。
まとめ
人工膝関節置換術後の生活では、入院中から歩行練習、膝の曲げ伸ばし、筋力回復、日常生活動作の練習を進めていきます。
退院後は、創部管理、転倒予防、腫れの管理、運動の継続が大切です。
痛みが軽くなっても、急に活動量を増やしすぎると腫れや痛みが強くなることがあります。翌日の膝の状態を見ながら、少しずつ生活範囲を広げていきましょう。
発熱、創部の赤み、強い腫れ、ふくらはぎの痛み、息切れ、胸痛、転倒などがある場合は、早めに手術を受けた病院へ相談してください。
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参考文献
- NICE. Joint replacement (primary): hip, knee and shoulder. NG157. 2020.
- NICE. Quality statement 5: Postoperative rehabilitation. Joint replacement (primary): hip, knee and shoulder. 2022.
- Jette DU, et al. Physical Therapist Management of Total Knee Arthroplasty. Physical Therapy. 2020.
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. Activities After Total Knee Replacement. OrthoInfo.
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. Total Knee Replacement Exercise Guide. OrthoInfo.
- Ripollés-Melchor J, et al. Early mobilization after total hip or knee arthroplasty. 2021.
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。人工膝関節置換術後の痛み、腫れ、発熱、創部の異常、息切れ、胸痛、転倒などがある場合は、手術を受けた医療機関へご相談ください。

