ランニング中に、膝の外側が痛くなることがあります。

最初は長く走ったあとだけ痛い。しばらく休むと楽になる。でも、また走ると同じ場所が痛くなる。

このような症状でよくみられるのが、ランナー膝です。

日本で「ランナー膝」と呼ばれる場合、多くは腸脛靭帯炎、または腸脛靭帯症候群を指します。

英語では Iliotibial Band Syndrome:ITBS と呼ばれます。

ただし、英語圏では「runner’s knee」が膝のお皿まわりの痛みである膝蓋大腿関節痛を指すこともあります。

この記事では、主に走ると膝の外側が痛くなるランナー膝=腸脛靭帯炎について、原因、症状、受診の目安、治療、ストレッチ・筋トレ、ランニング再開の考え方をわかりやすく解説します。

ランニング障害全体については、ランニング障害とはも参考にしてください。

この記事の結論

  • ランナー膝は、走ると膝の外側が痛くなる腸脛靭帯炎を指すことが多いです。
  • 走る距離、スピード、坂道、下り坂、傾いた路面、急な練習量増加で起こりやすくなります。
  • 痛みは膝の外側に出ることが多く、走る距離が伸びると悪化しやすいです。
  • 治療の中心は、痛みを悪化させない負荷調整です。
  • 痛い部分だけでなく、股関節、お尻、体幹、足部の使い方も確認します。
  • 膝が腫れる、引っかかる、ぐらつく、歩いても痛い場合は別の病気も考えます。
  • 再開は、ウォーキング、短時間ジョグ、通常ジョグ、スピード練習の順に段階的に進めます。

ランナー膝とは

ランナー膝とは、ランニングに伴って膝に痛みが出る状態を指す言葉です。

日本では、特に膝の外側が痛くなる腸脛靭帯炎をランナー膝と呼ぶことが多いです。

腸脛靭帯は、骨盤の外側から太ももの外側を通り、膝の外側からすねの外側につながる強い組織です。

ランニングでは、膝の曲げ伸ばしを何千回も繰り返します。

その中で腸脛靭帯周囲に負担がかかり、膝の外側に痛みが出ることがあります。

ランナー膝は、1回の大きなけがというより、走る負荷が蓄積して起こる使い過ぎ障害です。

どこが痛くなりますか?

ランナー膝では、主に膝の外側が痛くなります。

膝の外側の少し上、または膝関節の外側あたりに痛みを感じることが多いです。

よくある症状

  • 走ると膝の外側が痛い
  • 最初は痛くないが、距離が伸びると痛くなる
  • 一定距離を超えると毎回痛くなる
  • 下り坂で痛みやすい
  • 階段の下りで痛い
  • 膝の外側を押すと痛い
  • 休むと軽くなるが、再開するとまた痛い

初期では、走ったあとだけ痛むことがあります。

進行すると、走っている途中から痛くなり、さらに進むと歩行や階段でも痛みが出ることがあります。

なぜランナー膝になるのですか?

ランナー膝の原因は一つではありません。

多くの場合、走る量、走り方、路面、筋力、柔軟性、疲労、靴などが重なって起こります。

1. 走る距離が急に増えた

もっとも多いきっかけの一つが、走行距離の急な増加です。

  • ランニングを始めたばかり
  • 久しぶりに再開した
  • 大会に向けて距離を伸ばした
  • 毎日走るようになった
  • 週末にまとめて長距離を走った
  • 急にスピード練習を始めた

体は負荷に少しずつ適応します。

しかし、負荷の増え方が早すぎると、膝の外側に痛みが出やすくなります。

2. 下り坂や傾いた路面が多い

下り坂では、着地時のブレーキが強くなり、膝まわりに負担がかかりやすくなります。

また、道路の端のように左右に傾いた路面を走ると、片脚に負担が偏ることがあります。

同じ距離でも、平坦な道と下り坂、硬い路面、傾いた路面では体への負担が変わります。

3. 歩幅が大きすぎる

歩幅が大きく、足が体よりかなり前に着く走り方では、着地時のブレーキが強くなることがあります。

その結果、膝や股関節まわりに負担がかかりやすくなることがあります。

ただし、「必ず足を体の真下に着くべき」と考えすぎる必要はありません。

大切なのは、痛みが出る走り方や負荷になっていないかを確認することです。

4. 股関節・お尻・体幹の使い方

ランナー膝では、膝の外側だけを見ても原因がわからないことがあります。

股関節やお尻の筋肉がうまく働かないと、着地のたびに膝が内側や外側にぶれやすくなります。

その結果、腸脛靭帯周囲に負担が集中することがあります。

そのため、治療では膝だけでなく、股関節、お尻、体幹、足部の動きも確認します。

5. 休養不足

ランニングでは、同じ動作を繰り返すため、組織には小さな負担が積み重なります。

休養が不足すると、回復する前に次の負荷がかかり、痛みにつながります。

「走ることに慣れている人」でも、睡眠不足、疲労、仕事の忙しさ、暑さなどが重なると痛みが出ることがあります。

ランナー膝と似ている膝の痛み

膝の痛みがすべてランナー膝とは限りません。

痛みの場所や症状によって、考える病気が変わります。

痛みの場所 考えやすい原因 特徴
膝の外側 ランナー膝、腸脛靭帯炎 走る距離が伸びると痛みやすい
膝のお皿の周囲 膝蓋大腿関節痛 階段、しゃがみ込み、長時間座位で痛みやすい
膝のお皿の下 ジャンパー膝 ジャンプ、着地、ダッシュで痛い
すねの内側 シンスプリント 走る・跳ぶで、すね内側が痛い
膝の内側 鵞足炎、半月板損傷など 階段、ひねり、押した痛みなどを確認

ジャンパー膝については、ジャンパー膝とは、シンスプリントについては、シンスプリントとはも参考になります。

受診したほうがよい症状

軽いランナー膝では、走る量を調整することで改善することがあります。

しかし、次のような症状がある場合は、整形外科などで確認することをおすすめします。

受診の目安

  • 歩いても痛い
  • 階段で強く痛い
  • 膝が腫れている
  • 膝が引っかかる
  • 膝がぐらつく
  • 膝が伸びない、曲がらない
  • 外傷後から痛い
  • 痛みが日ごとに強くなる
  • 数日休んでも改善しない
  • 同じ距離で毎回痛みが出る

膝の外側痛でも、半月板損傷、靱帯損傷、変形性膝関節症、疲労骨折などが隠れていることがあります。

腫れ、引っかかり、ぐらつき、外傷後の痛みがある場合は、ランナー膝だけと決めつけないことが大切です。

診断では何をしますか?

診察では、痛みの場所、走る量の変化、痛みが出る距離、路面、靴、スポーツ歴などを確認します。

確認すること

  • どこが痛いか
  • いつから痛いか
  • 何kmくらいで痛くなるか
  • 下り坂や階段で痛いか
  • 走る量やスピードが増えていないか
  • 膝の腫れがあるか
  • 引っかかりやぐらつきがあるか
  • 股関節や足首の動きはどうか
  • ランニングフォームや靴の変更があったか

典型的なランナー膝では、問診と診察で判断できることがあります。

ただし、腫れがある、引っかかる、外傷後である、長引く、別の病気が疑われる場合は、レントゲンやMRIなどを検討します。

治療の基本は負荷調整

ランナー膝の治療で最も大切なのは、痛みを悪化させている負荷を一度下げることです。

完全に何もしないというより、痛みが悪化しない範囲に調整します。

まず見直すこと

  • 走る距離
  • 走るスピード
  • 走る頻度
  • 下り坂
  • 傾いた路面
  • 硬い路面
  • スピード練習
  • ロング走
  • 連日の練習

痛みが強い時期は、走る距離やスピードを減らします。

下り坂、傾いた路面、スピード練習は一時的に避けたほうがよいことがあります。

痛みが出ない範囲で、ウォーキング、バイク、水中運動、筋力トレーニングなどに置き換えることもあります。

活動量の調整については、膝が痛いときの休み方も参考になります。

ストレッチは必要ですか?

ランナー膝では、「腸脛靭帯を伸ばせばよい」と考えられがちです。

しかし、腸脛靭帯そのものは非常に強い組織で、簡単に伸びるものではありません。

そのため、痛い膝の外側を強く押したり、無理に伸ばしたりするより、股関節、太もも、ふくらはぎ、体幹を含めて動きやすくすることが大切です。

見直したい柔軟性

  • お尻の筋肉
  • 股関節の外側
  • 太ももの前
  • 太ももの裏
  • ふくらはぎ
  • 足首の動き

ストレッチは、痛みを我慢して行う必要はありません。

痛みが強くなる場合は、やり方やタイミングを見直します。

筋力トレーニングで大切なこと

ランナー膝では、膝の外側だけでなく、股関節やお尻の筋力が重要です。

着地のたびに、股関節と体幹で体を安定させることが、膝への負担を減らす助けになります。

行いやすい運動

  • ヒップリフト
  • クラムシェル
  • サイドレッグレイズ
  • サイドステップ
  • 片脚立ち
  • 浅いスクワット
  • ステップダウン

最初は、痛みが出ない範囲で行います。

痛みが落ち着いてきたら、片脚での安定性、軽いジャンプ、方向転換へと段階的に進めます。

膝の筋力トレーニング全体については、膝の筋力トレーニングも参考になります。

フォームは直したほうがよいですか?

ランナー膝では、走り方が関係することがあります。

ただし、「このフォームが絶対に正しい」と決めつける必要はありません。

フォーム修正で大切なのは、痛みを悪化させる負荷を減らすことです。

見直すことがあるポイント

  • 歩幅が大きすぎないか
  • 着地でブレーキが強すぎないか
  • 上半身が大きく左右に揺れていないか
  • 膝が内側に入りすぎていないか
  • 下り坂や傾いた路面ばかり走っていないか
  • 疲れてフォームが崩れていないか

いきなりフォームを大きく変えると、別の場所に痛みが出ることがあります。

必要な場合は、少しずつ調整することが大切です。

ランニング再開の目安

痛みが落ち着いてきたら、段階的にランニングを再開します。

最初から元の距離やスピードに戻すと、再発しやすくなります。

再開前に確認したいこと

  • 歩いて痛くない
  • 階段で強い痛みがない
  • 膝の腫れがない
  • 片脚立ちが安定している
  • 軽いスクワットで痛みが悪化しない
  • 翌日に痛みが増えない

再開の例

段階 内容 確認点
1 ウォーキング 翌日に痛みが増えない
2 1分ジョグ+2分歩行 痛みが出る距離を確認
3 短時間ジョグ 平坦な道から始める
4 通常ジョグ 距離を少しずつ増やす
5 坂道・スピード練習 最後に追加する

距離、スピード、頻度を同時に増やさないことが大切です。

痛みが再発した場合は、前の段階に戻します。

やってはいけないこと

ランナー膝で避けたいのは、痛みを我慢して同じ練習を続けることです。

  • 痛みが出る距離まで毎回走る
  • 痛み止めを飲んで走る
  • 下り坂やスピード練習を続ける
  • 膝の外側を強く押し続ける
  • フォームを急に大きく変える
  • 痛みが消えた直後に元の距離へ戻す

痛みがあるときは、「どこまでなら悪化しないか」を探すことが大切です。

成長期のランナー膝で注意すること

成長期の子どもでも、ランナー膝は起こります。

ただし、成長期ではランナー膝以外にも、オスグッド病、ジャンパー膝、シンスプリント、疲労骨折などが隠れていることがあります。

次のような場合は、早めに確認しましょう。

  • 部活やクラブで走る量が急に増えた
  • 足を引きずっている
  • 練習後に毎回痛がる
  • 歩いても痛い
  • 同じ場所を何週間も痛がる
  • 痛みを隠して練習している

子どものスポーツ障害では、本人が「大丈夫」と言っても、周囲の大人が歩き方や走り方を見て止める判断が必要なことがあります。

子ども・成長期の痛みについては、子ども・成長期の膝の痛みも参考にしてください。

よくある質問

Q1. ランナー膝は走りながら治せますか?

軽症であれば、距離やスピードを下げながら改善を目指すことがあります。ただし、走るほど痛みが強くなる、翌日に痛みが増える、歩いても痛い場合は、ランニングを一時的に中止して原因を確認してください。

Q2. ランナー膝はストレッチだけで治りますか?

ストレッチが役立つことはありますが、ストレッチだけで治るとは限りません。走行量、路面、坂道、股関節やお尻の筋力、フォーム、休養を総合的に見直すことが大切です。

Q3. 膝の外側を押すと痛いのはランナー膝ですか?

ランナー膝で膝の外側を押すと痛いことはあります。ただし、半月板損傷、靱帯損傷、関節の炎症などでも膝外側痛が出ることがあります。腫れ、引っかかり、ぐらつきがある場合は受診をおすすめします。

Q4. サポーターをつければ走ってよいですか?

サポーターで痛みが軽くなることはありますが、根本的には負荷調整が必要です。サポーターをつけても痛みが出る場合や、翌日に痛みが増える場合は、走る量を下げてください。

Q5. いつランニングに復帰できますか?

歩行や階段で痛みがなく、短時間ジョグで痛みが悪化せず、翌日にも痛みが増えないことを確認してから段階的に復帰します。最初は平坦な道で短時間から始め、坂道やスピード練習は最後に戻します。

まとめ

ランナー膝は、走ると膝の外側が痛くなる腸脛靭帯炎を指すことが多いスポーツ障害です。

原因は一つではなく、走行距離、スピード、坂道、傾いた路面、股関節やお尻の筋力、フォーム、休養不足などが重なって起こります。

治療の基本は、痛みを悪化させない負荷調整です。

膝の外側だけでなく、股関節、お尻、体幹、足部の動きも見直すことが大切です。

ランニング再開は、ウォーキング、短時間ジョグ、通常ジョグ、坂道・スピード練習の順に段階的に進めましょう。

参考文献

  1. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Iliotibial Band (IT Band) Syndrome. OrthoInfo.
  2. Iliotibial Band Syndrome. StatPearls. NCBI Bookshelf.
  3. BMJ Best Practice. Iliotibial band syndrome.
  4. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Patellofemoral Pain Syndrome. OrthoInfo.
  5. Fredericson M, et al. Iliotibial band syndrome in runners: innovations in treatment. Sports Medicine.
  6. Noehren B, et al. Assessment of strength, flexibility, and running mechanics in men with iliotibial band syndrome. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy.

※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。歩行痛、腫れ、引っかかり、ぐらつき、外傷後の痛み、長引く膝外側の痛みがある場合は、整形外科などの医療機関へご相談ください。