鵞足炎とは?膝の内側より少し下が痛い原因と治療
鵞足炎は、膝の内側より少し下にある「鵞足」と呼ばれる部分に痛みが出る状態です。医学的には、鵞足部の腱付着部炎や鵞足滑液包炎として説明されることがあります。英語では Pes anserine bursitis、または Pes anserinus syndrome と呼ばれます。
痛む場所は、膝関節のすき間そのものではなく、そこから数センチ下の内側です。階段、坂道、立ち上がり、ランニング、長く歩いた後に痛みが出ることがあります。
鵞足炎は、ランナーやスポーツをする人だけでなく、変形性膝関節症がある方、体重が増えている方、膝が内側へ入りやすい方、太もも裏の筋肉が硬い方にも起こります。
この記事では、鵞足炎の症状、原因、見分け方、治療、ストレッチ、筋力トレーニング、再発予防を解説します。
鵞足炎と思っても、早めに受診した方がよい症状
- 転倒やスポーツ外傷の後から強く痛む
- 体重をかけられない、歩けない
- 膝が大きく腫れた
- 膝が引っかかり、完全に伸ばせない
- 膝がぐらつく、抜ける
- 膝が赤く熱を持ち、発熱を伴う
- 夜間や安静時にも強く痛み、日ごとに悪化している
- すねの骨を押すと強く痛い、疲労骨折が心配
- 数週間セルフケアをしても改善しない
鵞足とは
鵞足とは、膝の内側のやや下にある、3つの筋肉の腱がすねの骨に付く部分です。
関係する筋肉は、次の3つです。
- 縫工筋
- 薄筋
- 半腱様筋
これらの腱が集まって付着する形が、ガチョウの足に似ているため「鵞足」と呼ばれています。
鵞足の近くには、腱と骨、腱と靱帯の摩擦を減らすための滑液包があります。この部分に繰り返し負担がかかると、腱付着部や滑液包に炎症が起こり、痛みにつながります。
鵞足炎の痛みの場所
鵞足炎の痛みは、膝の内側で、膝関節のすき間から少し下に出ることが多いです。
目安としては、膝の内側の関節ラインより約4〜5cm下、すねの骨の内側です。指で押すと、ピンポイントに痛い場所が見つかることがあります。
内側半月板損傷や変形性膝関節症では、関節のすき間に痛みが出やすい一方、鵞足炎ではそこより少し下が痛むのが特徴です。
主な症状
鵞足炎では、次のような症状が出ます。
- 膝の内側より少し下が痛い
- 押すと痛い
- 階段で痛い
- 坂道で痛い
- ランニング後に痛い
- 立ち上がりで痛い
- 長く歩くと痛い
- 膝を曲げ伸ばしした後に違和感がある
- 内側に軽い腫れや熱感がある
痛みは突然よりも、徐々に出てくることが多いです。練習量を増やした、坂道を走った、階段をよく使った、長く歩いたなどの後に悪化することがあります。
どのような人に起こりやすいですか?
鵞足炎は、スポーツ選手にも日常生活の中でも起こります。
スポーツ・運動に関連する要因
- ランニング
- 坂道や階段の練習
- 急に練習量を増やした
- 水泳の平泳ぎ
- サッカーやテニスなど方向転換の多い競技
- 準備運動や回復が不十分
- 太もも裏の筋肉が硬い
体の特徴・背景に関連する要因
- 変形性膝関節症
- 過体重・肥満
- X脚傾向
- 膝が内側へ入りやすい動き
- 扁平足
- 股関節周囲筋の筋力低下
- 糖尿病などの背景疾患
- 膝の内側側副靱帯損傷の後
膝の内側に負担がかかる動きが続くと、鵞足部に摩擦や牽引ストレスが加わりやすくなります。
鵞足炎と間違えやすい病気
膝の内側の痛みには、鵞足炎以外にも多くの原因があります。痛む場所が近いため、自己判断が難しいことがあります。
内側半月板損傷
関節のすき間に痛みがあり、膝が引っかかる、ロックする、ひねると痛い場合は、半月板損傷を考えます。
内側半月板後根断裂
中高年の方で、膝の内側に突然強い痛みが出た場合、内側半月板後根断裂を考えることがあります。歩き始めや階段で強く痛むことがあります。
変形性膝関節症
関節の内側の痛み、O脚、歩き始めの痛み、階段痛、腫れを伴う場合は、変形性膝関節症を考えます。鵞足炎と合併することもあります。
膝軟骨下不全骨折
急に強い内側痛が出て、体重をかけると強く痛い場合は、膝軟骨下不全骨折を考えます。初期のX線では分からないことがあり、MRIが必要になる場合があります。
内側側副靱帯損傷
外傷後に内側が痛い、膝が外反方向へ不安定、膝がぐらつく場合は、内側側副靱帯損傷を考えます。
疲労骨折・脛骨の痛み
ランニング量が増えた後にすねの内側が痛い場合は、脛骨疲労骨折やシンスプリントとの区別が必要です。
診断方法
問診
痛む場所、痛みが出る動作、いつから痛いか、練習量の変化、階段や坂道での痛み、膝の腫れ、外傷の有無を確認します。
診察
膝の内側の関節ラインと、鵞足部を押して痛みの場所を確認します。
鵞足炎では、膝関節の内側のすき間よりも少し下に圧痛があることが多いです。膝の曲げ伸ばし、内側側副靱帯、半月板、歩き方、片脚動作も確認します。
X線検査
X線では、変形性膝関節症、骨折、骨の配列などを確認します。鵞足炎そのものはX線に写りにくいですが、合併する関節症や他の病気を確認するために行うことがあります。
超音波検査
超音波では、鵞足部の滑液包の腫れや周囲の炎症を確認できることがあります。痛い場所に一致しているかを見ながら評価できます。
MRI検査
MRIは、鵞足部の炎症だけでなく、半月板損傷、内側半月板後根断裂、膝軟骨下不全骨折、軟骨損傷などを確認するために役立ちます。
鵞足炎と思って治療しても改善しない場合や、痛みが強い場合、外傷後、夜間痛がある場合などではMRIを検討します。
治療の基本
鵞足炎の治療は、多くの場合、保存療法が中心です。痛みを抑えながら、鵞足部にかかる負担を減らし、再発しにくい体の使い方へ整えていきます。
治療の目的
- 痛みと炎症を抑える
- 練習量や活動量を調整する
- 硬くなった筋肉をゆるめる
- 膝が内側へ入りやすい動きを改善する
- 股関節・膝周囲の筋力を戻す
- 再発を防ぐ
鵞足炎は、安静だけでなく、原因になっている動作や筋力、柔軟性を調整することが重要です。
まず行うセルフケア
活動量を調整する
痛みが強い時期は、階段、坂道、ランニング、深いしゃがみ込みを一時的に減らします。
完全に動かないのではなく、痛みを悪化させない範囲で歩行や軽い運動を続けます。
冷却する
運動後や痛みが強い時期は、タオルで包んだ保冷剤で10〜20分程度冷やします。冷やしすぎや、皮膚に直接当て続けることは避けてください。
痛い場所を強く揉まない
鵞足部を強く押したり揉んだりすると、かえって炎症が強くなることがあります。
痛い場所を直接強くマッサージするより、太もも裏、内もも、ふくらはぎ、股関節周囲の柔軟性を整える方が安全です。
ストレッチ
鵞足炎では、半腱様筋を含むハムストリングス、内転筋、ふくらはぎの硬さが関係することがあります。
ハムストリングスのストレッチ
- 椅子に浅く座ります。
- 痛い側の膝を軽く伸ばします。
- 背中を丸めすぎず、股関節から体を前に倒します。
- 太もも裏が伸びるところで20〜30秒保ちます。
膝の内側に鋭い痛みが出る場合は中止してください。
内もものストレッチ
- 両脚を軽く開いて座ります。
- 無理のない範囲で片側へ体を傾けます。
- 内ももが伸びるところで20〜30秒保ちます。
ふくらはぎのストレッチ
- 壁に手をつきます。
- 痛い側の脚を後ろに引きます。
- かかとを床につけたまま、ふくらはぎを伸ばします。
- 20〜30秒保ちます。
ストレッチは「痛いほど伸ばす」ものではありません。気持ちよく伸びる程度で行います。
筋力トレーニング
鵞足炎では、膝だけでなく、股関節や体幹も含めて筋力を整えることが重要です。
大腿四頭筋の運動
膝を伸ばす筋肉を働かせることで、歩行や階段動作を安定させます。
- 仰向けまたは座った姿勢になります。
- 膝の下にタオルを入れます。
- 膝を伸ばすように太ももに力を入れます。
- 5秒保って力を抜きます。
股関節外転筋の運動
股関節周囲筋が弱いと、片脚で支えるときに膝が内側へ入りやすくなります。
- 横向きに寝ます。
- 上側の脚をゆっくり持ち上げます。
- 骨盤が後ろへ倒れないようにします。
- ゆっくり下ろします。
浅いスクワット
痛みが落ち着いてきたら、浅いスクワットを行います。
- 膝とつま先の向きをそろえる
- 膝が内側へ入らないようにする
- 深く曲げすぎない
- 翌日に痛みが増える場合は中止または負荷を下げる
薬・注射
外用薬・内服薬
痛みが強い時期には、湿布や塗り薬、NSAIDsなどの内服薬を使うことがあります。
NSAIDsは胃腸、腎臓、肝臓、心血管、血圧、抗凝固薬との併用に注意が必要です。持病がある方は医師や薬剤師に相談してください。
注射
保存療法を行っても痛みが強く、鵞足滑液包の炎症が疑われる場合、ステロイド注射などを検討することがあります。
ただし、注射は原因となる動作や筋力、柔軟性を改善する治療ではありません。痛みを落ち着かせてリハビリを進めやすくする補助として考えます。
繰り返し注射だけに頼るのではなく、活動量、ストレッチ、筋力、体重、歩き方を見直すことが大切です。
回復までの目安
鵞足炎は、適切に治療すれば数週間で改善することがあります。一般的には6〜8週程度を目安に説明されることがありますが、体重、変形性膝関節症、糖尿病、運動量、仕事での負担がある場合は長引くことがあります。
痛みが軽くなっても、すぐに以前と同じ練習量へ戻すと再発することがあります。運動量は段階的に戻してください。
活動再開の目安
- 押した痛みが軽くなっている
- 階段で痛みが強くない
- 翌日に痛みが増えない
- 片脚立ちや浅いスクワットで膝が内側へ入らない
- ランニング後に痛みが増えない
走り始める場合は、平地で短い距離から始め、坂道やスピード練習は後回しにします。
再発予防
鵞足炎は、痛みが取れても、同じ負荷が続けば再発することがあります。
再発予防のポイント
- 練習量を急に増やさない
- 坂道や階段トレーニングを増やしすぎない
- 太もも裏と内ももの柔軟性を保つ
- 股関節周囲筋を鍛える
- 片脚動作で膝が内側へ入らないようにする
- 靴やインソールを見直す
- 体重管理を行う
- 変形性膝関節症がある場合は膝全体の治療も行う
痛い場所だけでなく、股関節、足部、体幹、練習量を含めて見直すことが重要です。
よくある質問
鵞足炎はどこが痛くなりますか?
膝の内側で、膝関節のすき間より少し下、すねの骨の内側が痛くなることが多いです。押すとピンポイントに痛いことがあります。
鵞足炎と半月板損傷はどう違いますか?
半月板損傷は関節のすき間に痛みが出やすく、引っかかりやロッキングを伴うことがあります。鵞足炎は関節のすき間より少し下が痛むことが多いです。ただし、両方が合併することもあります。
鵞足炎は自然に治りますか?
軽症では活動量調整やストレッチで改善することがあります。ただし、痛みが続く場合や変形性膝関節症などがある場合は、原因を確認して治療する必要があります。
ランニングは続けてもよいですか?
痛みが軽く、翌日に悪化しない範囲なら調整しながら続けることがあります。痛みが強い、階段で痛い、押すと強く痛い場合は、走行距離や坂道を減らしてください。
ストレッチは毎日してよいですか?
痛みが強くならない範囲で行ってよいことが多いです。強く伸ばしすぎると逆に痛みが増えることがあるため、気持ちよく伸びる程度にします。
湿布だけでよくなりますか?
痛みが軽くなることはありますが、負荷や筋力、柔軟性、体重、歩き方が原因の場合、湿布だけでは再発しやすいことがあります。
注射は必要ですか?
多くは保存療法が中心です。痛みが強い、保存療法で改善しない、滑液包炎が明らかな場合に注射を検討することがあります。
鵞足炎は変形性膝関節症と関係ありますか?
関係することがあります。変形性膝関節症による膝内側の負担や炎症が、鵞足部の痛みと重なることがあります。
どのくらいで治りますか?
数週間で改善する方もいますが、原因や生活負荷によって異なります。6〜8週程度を目安に説明されることがありますが、改善しない場合は診断の見直しが必要です。
まとめ
鵞足炎は、膝の内側より少し下にある鵞足部に痛みが出る状態です。階段、坂道、立ち上がり、ランニングで痛みが出やすく、押すとピンポイントに痛むことがあります。
原因には、使いすぎ、太もも裏や内ももの硬さ、股関節周囲筋の筋力低下、膝が内側へ入る動作、体重、変形性膝関節症などが関係します。
治療の基本は、活動量の調整、冷却、ストレッチ、筋力トレーニング、体重管理です。痛みが強い場合は薬や注射を検討することもあります。
一方で、膝の内側の痛みには、半月板損傷、内側半月板後根断裂、変形性膝関節症、膝軟骨下不全骨折、内側側副靱帯損傷などもあります。
歩けない、膝が大きく腫れる、ロッキングがある、夜間痛が強い、数週間たっても改善しない場合は、整形外科で原因を確認しましょう。
参考文献
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. Pes Anserine Knee Tendon Bursitis. OrthoInfo.
- Mohseni M, et al. Pes Anserine Bursitis. StatPearls. Updated 2024.
- Cleveland Clinic. Pes Anserine Bursitis: What It Is, Symptoms & Treatment. Updated 2025.
- Aicale R, et al. Comprehensive review of pes anserinus syndrome: etiology, diagnosis and management. European Journal of Musculoskeletal Diseases. 2024.
- Helfenstein M Jr, Kuromoto J. Anserine syndrome. Rev Bras Reumatol. 2010;50:313-327.
- American Association of Hip and Knee Surgeons. Home Therapy Exercises for Pes Anserine Bursitis.
- National Institute for Health and Care Excellence. Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management. NICE guideline NG226. 2022.
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。膝内側の痛みが続く場合、外傷後、腫れ、ロッキング、夜間痛がある場合は、整形外科でご相談ください。

