異常血管が原因の膝の痛み|血管内治療という選択肢
異常血管が原因の膝の痛み|血管内治療という選択肢
膝の痛みには、変形性膝関節症、半月板損傷、靱帯損傷、腱や滑液包の炎症など、さまざまな原因があります。
その中で、近年注目されている考え方の一つが、異常血管が痛みに関係するというものです。
炎症が長く続く場所では、本来は必要のない細い血管が増えることがあります。このような血管は、痛みを感じる神経と一緒に増えることがあり、慢性的な痛みの原因の一つになると考えられています。
この異常血管を対象にした治療が、血管内治療、またはカテーテル治療と呼ばれる治療です。膝の変形や軟骨を直接治す治療ではありませんが、痛みの原因となっている炎症や異常血流を抑えることで、症状の軽減を目指します。
膝の痛み全体について知りたい方は、膝の痛みで病院へ行く目安 も参考にしてください。
この記事の結論
- 慢性的な膝の痛みには、炎症に伴う異常血管が関係することがあります。
- 異常血管の周囲には痛みを感じる神経も増えることがあります。
- 血管内治療は、カテーテルで異常な血流を抑える治療です。
- 変形性膝関節症や腱・滑液包周囲の慢性痛で検討されることがあります。
- 軟骨や半月板を修復する治療ではありません。
- すべての膝痛に有効な治療ではなく、原因の見極めが重要です。
- 膝が腫れる、熱を持つ、歩けない場合は、まず診断を優先します。
異常血管とは何ですか?
血管は、体に酸素や栄養を届けるために必要な組織です。
しかし、炎症や損傷が長く続く場所では、修復反応の一部として細い血管が増えることがあります。この血管が過剰に増えたり、炎症の場に残り続けたりすると、痛みと関係することがあります。
このような痛みに関係する血管を、一般的に異常血管と表現することがあります。
異常血管そのものが痛みを出すというより、異常な血流がある場所に炎症が続き、そこに痛みを感じる神経が入り込むことで、慢性的な痛みが続くと考えられています。
なぜ血管が痛みに関係するのですか?
慢性的な炎症がある組織では、血管新生と呼ばれる反応が起こります。これは、新しい血管が作られる反応です。
本来、血管新生は傷んだ組織を修復するために必要な反応です。しかし、炎症が長引くと、必要以上に血管が増え、痛みを感じる神経も一緒に増えることがあります。
その結果、通常なら痛みを感じにくい刺激でも痛みとして感じたり、安静にしていても痛みが残ったりすることがあります。
変形性膝関節症では、滑膜炎や骨髄病変など、痛みと炎症が複雑に関係します。血管内治療は、その中でも血流異常や炎症性疼痛に注目した治療です。
変形性膝関節症については、変形性膝関節症とは も参考にしてください。
血管内治療とは
血管内治療とは、手首や足の付け根などの血管から細いカテーテルを入れ、目的の血管まで進めて行う治療です。
膝の痛みに対する血管内治療では、膝の痛みがある部位に関係する異常な血流を確認し、そこに薬剤や塞栓物質を使って血流を抑える治療が行われます。
英語では、膝周囲の動脈を対象とする治療として Genicular Artery Embolization、略して GAE と呼ばれることがあります。
日本では、慢性的な運動器の痛みに対して、異常血管を標的にしたカテーテル治療として紹介されることがあります。
どのような膝痛で検討されますか?
血管内治療は、すべての膝痛に行う治療ではありません。
主に、慢性的な膝の痛みがあり、薬、注射、リハビリ、サポーターなどの保存療法で十分に改善しない場合に検討されることがあります。
検討されやすい痛み
- 変形性膝関節症に伴う慢性的な膝痛
- 膝の内側や前側の慢性痛
- 腱や付着部周囲の慢性的な痛み
- 滑液包炎が長引いている痛み
- 画像上の変形が軽いのに痛みが強い場合
- 注射やリハビリで改善が乏しい痛み
- 手術をすぐには希望しない場合
ただし、痛みの原因が半月板損傷のロッキング、骨折、感染、靱帯損傷、強い関節水腫などの場合は、血管内治療より先に原因に応じた治療が必要です。
まず受診を優先したほうがよい症状
次のような症状がある場合は、異常血管や血管内治療を考える前に、まず整形外科などで原因を確認することが大切です。
早めに受診したほうがよい症状
- けがの直後から強く痛む
- 膝が大きく腫れている
- 膝に熱感がある
- 体重をかけて歩けない
- 膝が引っかかって伸びない・曲がらない
- 膝くずれを繰り返す
- 夜間や安静時にも強い痛みがある
- 発熱を伴う
- 痛みが日ごとに強くなっている
膝の腫れや水がたまる症状がある場合は、膝が腫れて水がたまる原因 も確認してください。
血管内治療で期待できること
血管内治療で期待されるのは、主に痛みの軽減です。
- 歩行時の痛みが軽くなる
- 階段の痛みが軽くなる
- 立ち上がりの痛みが軽くなる
- 慢性的な炎症による痛みが軽くなる
- 運動療法に取り組みやすくなる
- 痛み止めや注射の頻度を減らせる可能性がある
膝の変形性関節症に対する膝動脈塞栓術は、滑膜の過剰な血流や炎症性疼痛経路を標的にする低侵襲治療として研究が進んでいます。一方で、標準治療より明らかに優れているか、どの患者さんに最も適するかについては、さらなる検討が必要とされています。
血管内治療でできないこと
血管内治療は、膝の痛みに対する選択肢の一つですが、万能ではありません。
血管内治療でできないこと
- すり減った軟骨を元に戻す
- 半月板損傷を修復する
- O脚やX脚を治す
- 膝の変形を矯正する
- 靱帯のゆるみを治す
- すべての膝痛を完全になくす
- 人工関節や骨切り術が必要な状態を必ず避ける
膝の変形が進んでいる場合は、脛骨近位骨切り術 や 人工膝関節置換術 なども含めて相談する必要があります。
治療の流れ
1. 診察と画像検査
まず、膝の痛みの原因を確認します。X線、MRI、超音波などで、変形性膝関節症、半月板損傷、骨壊死、滑膜炎、関節水腫などを評価します。
2. これまでの治療を確認する
内服薬、外用薬、注射、リハビリ、運動療法、サポーター、体重管理など、これまで行った治療とその効果を確認します。
保存療法については、膝の運動療法、膝サポーターの選び方、膝痛と体重管理 も参考にしてください。
3. 血管の状態を確認する
血管内治療では、カテーテルを進めながら造影を行い、痛みの部位に一致する異常な血流があるかを確認します。
痛い場所と異常な血流が一致しているかどうかが、治療を考えるうえで重要です。
4. 異常血管を対象に治療する
異常な血流が確認された場合、その血管に対して塞栓物質を使用し、血流を抑えます。
治療後は、穿刺部の出血、痛み、皮膚の変化、しびれなどがないかを確認します。
副作用・合併症
血管内治療は低侵襲な治療ですが、カテーテルを血管内に入れて行う治療であるため、リスクがまったくないわけではありません。
起こりうる症状
- 穿刺部の痛み
- 内出血
- 皮膚の色調変化
- 一時的な膝の痛み
- しびれや違和感
- 感染
- 血管損傷
- 造影剤アレルギー
- 腎機能への影響
近年のレビューでは、膝動脈塞栓術は短期的な症状軽減をもたらす可能性があり、重篤な合併症は多くないとされています。ただし、研究の質や長期成績には限界があり、適応判断は慎重に行う必要があります。
冷却ラジオ波焼灼術との違い
膝の痛みに対する手術以外の処置として、冷却ラジオ波焼灼術 があります。
冷却ラジオ波焼灼術は、膝の痛みを伝える神経を対象にする治療です。一方、血管内治療は、異常な血流や炎症に関係する血管を対象にします。
| 治療 | 主な対象 | 目的 |
|---|---|---|
| 血管内治療 | 異常血管・炎症性の血流 | 炎症や異常血流に関連する痛みを抑える |
| 冷却ラジオ波焼灼術 | 痛みを伝える神経 | 痛みの信号を伝わりにくくする |
どちらが適しているかは、膝の状態、痛みの場所、炎症の有無、画像所見、これまでの治療歴によって変わります。
治療後も運動療法は必要ですか?
必要です。
血管内治療で痛みが軽くなっても、筋力低下、体重、歩き方、膝の向き、生活動作の負担は残ります。
痛みが軽くなった時期は、膝を守る体づくりを進める大切なタイミングです。
- 太ももの筋力を保つ
- お尻や股関節まわりを鍛える
- 歩き方を整える
- 体重管理を行う
- 階段やしゃがみ込みの負担を調整する
- 痛みが戻らない範囲で活動量を増やす
痛みがあるときの活動調整については、膝が痛いときの休み方 も参考にしてください。
よくある質問
Q1. 異常血管があると必ず膝が痛くなりますか?
必ずではありません。痛みは血管だけでなく、軟骨、半月板、骨、滑膜、筋力、神経、炎症など多くの要素が関係します。異常血管は慢性痛に関係する要素の一つとして考えます。
Q2. 血管内治療で変形性膝関節症は治りますか?
いいえ。血管内治療は軟骨や変形を治す治療ではありません。異常血流や炎症に関連する痛みをやわらげる治療です。
Q3. どのような人に向いていますか?
慢性的な膝痛があり、薬、注射、リハビリ、サポーターなどで十分に改善しない方で検討されることがあります。ただし、原因の確認が必要です。
Q4. 手術の代わりになりますか?
手術をすぐに希望しない方の選択肢になることはあります。しかし、膝の変形が進んでいる場合や生活障害が大きい場合は、骨切り術や人工関節などの手術が適していることもあります。
Q5. 治療後すぐに運動できますか?
治療後の活動再開は、穿刺部の状態や痛みの変化を確認しながら進めます。痛みが軽くなっても急に運動量を増やしすぎないことが大切です。
Q6. 半月板損傷にも効きますか?
半月板損傷そのものを修復する治療ではありません。慢性的な炎症や痛みに異常血流が関係している場合は症状軽減を期待することがありますが、引っかかりやロッキングがある場合は半月板の評価が必要です。
まとめ
異常血管は、慢性的な膝の痛みに関係する要素の一つとして注目されています。
炎症が長く続く場所では、細い血管と痛みを感じる神経が増え、痛みが続きやすくなることがあります。血管内治療は、この異常な血流を対象にして痛みを軽くする治療です。
一方で、軟骨や半月板、O脚を治す治療ではありません。すべての膝痛に有効な治療でもないため、まずは痛みの原因を正しく診断することが重要です。
薬、注射、リハビリ、サポーターなどで十分に改善しない慢性的な膝痛がある場合は、血管内治療が選択肢になるか、整形外科や血管内治療を行う医療機関で相談してみるとよいでしょう。
参考文献
- Okuno Y, et al. Transcatheter arterial embolization as a treatment for medial knee pain in patients with mild to moderate osteoarthritis. Cardiovascular and Interventional Radiology. 2015.
- Okuno Y, et al. Midterm Clinical Outcomes and MR Imaging Changes after Transcatheter Arterial Embolization as a Treatment for Mild to Moderate Radiographic Knee Osteoarthritis Resistant to Conservative Treatment. Journal of Vascular and Interventional Radiology. 2017.
- Cusumano LR, et al. Genicular Artery Embolization for Treatment of Knee Osteoarthritis Pain. Journal of Vascular and Interventional Radiology. 2024.
- Milhem F, et al. Genicular artery embolization for knee osteoarthritis. 2025.
- Sriram T, et al. Genicular arterial embolization in knee osteoarthritis: current evidence, clinical outcomes and future perspectives. 2026.
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。膝の痛み、腫れ、熱感、歩行困難、急な悪化がある場合は、整形外科などの医療機関へご相談ください。

