内側半月板後根断裂(MMPRT)とは?症状・診断・治療と手術の目安
内側半月板後根断裂(medial meniscus posterior root tear:MMPRT)は、膝の内側にある半月板を、すねの骨へ固定している後方の付着部が切れる損傷です。
中高年の女性に多く、転倒や強いスポーツ外傷ではなく、階段、立ち上がり、しゃがみ込み、小走りなどの日常動作をきっかけに突然発症することがあります。
発症時に膝の後内側で「ブチッ」「ポキッ」と感じ、その後、体重をかけると強く痛むことがあります。ただし、このような感覚がない患者さんもいるため、症状だけで診断したり否定したりすることはできません。
後根が切れると、半月板が荷重を分散する働きが低下し、半月板が関節の外側へ押し出される「半月板逸脱」が進むことがあります。その結果、関節軟骨や軟骨下骨への負担が増え、変形性膝関節症が比較的速く進む場合があります。
早めに整形外科を受診した方がよい症状
- 明確な大けががないのに、突然、膝の後内側が強く痛くなった
- 「ブチッ」「ポキッ」という感覚の後から、体重をかけると強く痛む
- 数日休んでも歩行時痛が改善しない
- 夜間や安静時にも強く痛む
- 膝が大きく腫れた
- 膝が引っかかって伸びない
- 体重をかけられない
- 膝が赤く熱を持ち、発熱を伴う
半月板と「後根」はどのような組織ですか?
半月板は、大腿骨と脛骨の間にある線維軟骨で、内側と外側に1つずつあります。
半月板には、次のような役割があります。
- 体重や衝撃を広い範囲へ分散する
- 関節軟骨へ集中する圧力を減らす
- 膝の安定性を補助する
- 膝の曲げ伸ばしに合わせて関節へ適合する
後根は、半月板の後方を脛骨へ固定する重要な部分です。半月板が荷重を受けると、外側へ広がろうとする力が生じます。後根を含む付着部は、この力を支え、半月板の輪状構造を保っています。
後根が切れると、半月板が本来の位置にとどまりにくくなり、荷重を分散する機能が大きく低下します。
内側半月板後根断裂とは
一般に、半月板の骨への付着部が剥がれた状態、または付着部から約1cm以内に生じた放射状断裂を、半月板後根断裂と呼びます。
内側半月板後根断裂には、大きく分けて次の2つがあります。
変性を背景とした断裂
中高年以降に多くみられ、半月板組織の年齢に伴う変化を背景として、比較的軽い日常動作で発症します。内側半月板後根断裂の多くはこちらです。
外傷性の断裂
比較的若い人のスポーツ外傷などで起こることがあります。外側半月板後根断裂は、前十字靱帯損傷などに伴って生じることがありますが、内側半月板後根断裂では変性を背景とした発症がより一般的です。
どのような人に起こりやすいですか?
次のような要因が、内側半月板後根断裂と関連します。
- 中高年以降
- 女性
- 体重過多・肥満
- O脚傾向
- 内側半月板の変性
- 日常生活で深く膝を曲げる動作が多い
- 膝関節の骨形態や後方傾斜などの解剖学的要因
ただし、これらに当てはまる人が必ず発症するわけではありません。また、痩せている人や明らかなO脚がない人にも起こります。
どのような動作で発症しますか?
内側半月板後根断裂は、次のような軽い動作で発症することがあります。
- 階段を上り下りした
- 椅子や低い場所から立ち上がった
- 深くしゃがんだ
- 小走りをした
- 方向を変えた
- 段差を越えた
- 電車やバスから降りた
患者さん自身が「けがをした」と考えていないことも多く、数週間から数か月たってから、発症時の出来事を思い出すことがあります。
「痛みを伴うポキッという感覚」は重要な手がかりですが、すべての患者さんにあるわけではなく、それだけで診断が確定するものでもありません。
主な症状
- 膝の内側から後内側にかけての痛み
- 体重をかけると痛い
- 歩行や階段で痛い
- しゃがみ込みが難しい
- 膝が腫れる、水がたまる
- 夜間や安静時にも痛むことがある
- 膝が抜ける、力が入らない感じがする
典型的な半月板損傷でみられる引っかかりやロッキングが目立たず、歩行時の深い痛みが中心となる場合もあります。
放置するとどうなりますか?
後根が切れると、半月板の輪状構造が働きにくくなります。半月板は内側へ荷重を分散できなくなり、関節の外側へ押し出されやすくなります。
その結果、次のような変化が進む場合があります。
- 内側半月板逸脱の増加
- 関節軟骨への接触圧の上昇
- 軟骨下骨への負担増加
- 変形性膝関節症の進行
- 膝軟骨下不全骨折の併発
ただし、すべての患者さんが同じ速さで悪化するわけではありません。断裂からの期間、半月板逸脱、軟骨の状態、O脚の程度、体重、活動性などによって経過は異なります。
「痛みが軽くなった=半月板が治った」とは限りません。
発症直後の強い痛みが一時的に軽くなっても、後根断裂や半月板逸脱が残っている場合があります。中高年の方に突然の後内側痛が出た場合は、症状が少し軽くなっても一度評価を受けることをおすすめします。
どのように診断しますか?
問診
診断では、強い外傷があったかだけでなく、発症前後の日常動作を詳しく確認します。
- 突然痛みが始まったか
- 「ブチッ」「ポキッ」という感覚があったか
- 階段、立ち上がり、しゃがみ込みなどがきっかけだったか
- 体重をかけると痛むか
- 夜間痛や安静時痛があるか
- 症状が始まってからどのくらいたっているか
診察
膝の内側から後内側の圧痛、腫れ、可動域、O脚の程度、歩き方などを確認します。
半月板を押し出すように触れて、膝を伸ばすと半月板が元に戻るかを確認する診察法などが使われることがありますが、一つの診察だけで確定することはできません。
X線検査
X線には半月板そのものは写りませんが、治療方針を決めるために重要です。
立った状態のX線などで、次の点を確認します。
- 変形性膝関節症の程度
- 内側の関節裂隙
- O脚・X脚などのアライメント
- 骨の変化
MRI検査
MRIは、内側半月板後根断裂の診断に重要な検査です。
医療者は、断裂部そのものだけでなく、複数の断面で次の所見を確認します。
- 後根付近の連続性が途切れている
- 矢状断で半月板が見えなくなるゴーストサイン
- 冠状断・水平断でみられる放射状断裂や裂隙
- 内側半月板逸脱
- 軟骨、軟骨下骨、骨髄病変の状態
MRIの診断精度は高いものの、部分断裂や初期病変は分かりにくい場合があります。MRI画像だけでなく、発症の経過、症状、診察、X線を合わせて判断します。
半月板逸脱とは
半月板逸脱とは、半月板が脛骨の縁より外側へ押し出された状態です。
逸脱が大きくなると、半月板が大腿骨と脛骨の間で十分に荷重を受けられず、関節を守る働きが低下します。
後根修復術を行っても、半月板逸脱が完全に元へ戻らない場合があります。そのため近年は、後根を修復するだけでなく、逸脱した半月板を関節側へ戻すことを目的とした追加手技も研究されています。
ただし、追加手技の種類や適応については発展途上であり、すべての患者さんに必要な標準治療と確定しているわけではありません。
治療方法はどのように選びますか?
治療は「年齢だけ」や「MRIで断裂があるか」だけでは決まりません。
主に次の点を総合して判断します。
- 痛みと生活への影響
- 発症からの期間
- 軟骨の傷み・変形性膝関節症の程度
- 半月板逸脱の程度
- O脚の程度
- 軟骨下不全骨折などの合併
- 年齢、活動性、仕事、スポーツ
- 体重や持病
- 術後の荷重制限やリハビリに対応できるか
手術をしない治療
次のような場合は、保存療法を検討します。
- 症状が軽く、日常生活への影響が少ない
- 変形性膝関節症や軟骨損傷が進行している
- 手術の負担や術後の荷重制限が難しい
- 全身状態や持病により手術リスクが高い
- 本人が手術を希望しない
保存療法には、次の方法があります。
- 痛みが強い時期の活動量・荷重の調整
- 太ももや股関節周囲の筋力トレーニング
- 膝の可動域を保つ運動
- 体重管理
- 外用薬・内服薬
- 装具や杖
- 症状に応じた関節注射
保存療法によって痛みや生活機能が改善することはありますが、切れた後根を元の付着部へ戻す治療ではありません。
長期追跡研究では、変性内側半月板後根断裂を手術せずに治療した患者群で、関節症の進行や人工膝関節への移行が多かったことが報告されています。ただし、研究対象となった患者背景が異なるため、すべての患者さんが同じ経過をたどるわけではありません。
半月板部分切除術
以前は、傷んだ半月板を部分的に切除する手術が行われることがありました。
部分切除によって一時的に引っかかりや痛みが軽くなる場合がありますが、後根の荷重分散機能は回復しません。また、半月板組織を失うことで、関節軟骨への負担が増える可能性があります。
そのため現在は、内側半月板後根断裂に対する第一選択として部分切除を行う考え方はなく、適応は限られます。
内側半月板後根修復術(半月板制動術)
後根修復術は、切れた半月板後根を脛骨の付着部へ戻し、縫合・固定する手術です。
代表的な方法には、脛骨に小さな骨孔を作り、半月板にかけた糸を骨孔から引き出して固定する「経脛骨プルアウト修復術」があります。
修復術の目的
- 後根の連続性を回復する
- 半月板の荷重分散機能をできるだけ取り戻す
- 痛みと膝機能を改善する
- 変形性膝関節症の進行を遅らせる
修復術は、保存療法や部分切除術と比較して、患者報告アウトカムや関節温存の面で良好な結果が報告されています。
ただし、手術を行っても軟骨を元に戻せるわけではなく、変形性膝関節症の進行を完全に止められるとは限りません。半月板逸脱が残る場合や、修復部が完全に治癒しない場合もあります。
修復術が検討されやすい条件
- 痛みや機能障害が明らかである
- 軟骨の傷み・変形性膝関節症が高度ではない
- 修復可能な半月板組織が残っている
- 強いO脚がない、またはO脚を同時に治療できる
- 術後の荷重・屈曲制限やリハビリを守ることができる
- 関節温存を希望している
暦年齢だけを理由に修復術を否定するものではありませんが、軟骨状態、骨質、活動性、全身状態などを含めて慎重に判断します。
O脚が強い場合の高位脛骨骨切り術
O脚が強いと、膝の内側へ荷重が集中します。後根を修復しても、内側へ大きな負担がかかり続ける場合があります。
そのため、比較的活動性が高く、内側型変形性膝関節症とO脚がある患者さんでは、高位脛骨骨切り術によって荷重を外側へ移す治療を検討します。
症例によっては、骨切り術と後根修復術を組み合わせます。ただし、骨切り術に後根修復を追加することで、骨切り術単独より必ず良い結果になるかについては、まだ議論があります。
変形が進んでいる場合の治療
軟骨の傷みや変形性膝関節症が高度で、日常生活への影響が大きい場合は、後根修復術よりも、関節症に対する治療が適していることがあります。
- 高位脛骨骨切り術
- 単顆型人工膝関節置換術
- 人工膝関節全置換術
どの手術が適するかは、変形の範囲、靱帯の状態、O脚、可動域、活動性などによって異なります。
後根修復術後のリハビリ
後根修復術後は、修復部へ過度な力が加わらないように保護しながら、膝の動きと筋力を回復させます。
リハビリ方法は、手術手技、半月板の状態、軟骨、骨切り術の併用などによって異なります。
一般的には、次の項目を段階的に進めます。
- 腫れと痛みの管理
- 医師の指示に沿った荷重開始
- 膝の曲げ伸ばしの回復
- 太もも・股関節周囲の筋力回復
- 歩行の改善
- 片脚動作、階段、仕事動作の練習
- 必要な人は走行・スポーツ動作への復帰
一般的な部分切除術より慎重なリハビリが必要です。荷重や深い膝屈曲を早く進めすぎると修復部へ負担がかかるため、自己判断で進めないことが重要です。
スポーツ復帰は日数だけで決めず、腫れ、可動域、筋力、片脚動作、競技特性を確認して判断します。
手術成績と限界
後根修復術後は、多くの研究で痛みや膝機能の改善が報告されています。長期追跡研究でも、部分切除術より人工膝関節を回避できる割合が高かったとする報告があります。
一方で、次の点には注意が必要です。
- 修復しても変形性膝関節症が進む場合がある
- 半月板逸脱が残る、または増える場合がある
- 完全に治癒しない場合がある
- 軟骨の傷みが強いほど成績が低下しやすい
- O脚や体重などが結果へ影響する
- 再断裂や追加手術が必要になる場合がある
したがって、後根修復術は「膝を元どおりにする手術」ではなく、半月板機能をできるだけ回復し、症状の改善と関節症進行の抑制を目指す手術と考えるのが適切です。
よくある質問
内側半月板後根断裂は自然に治りますか?
完全断裂した後根が、何もしなくても元の付着部へ治癒することは一般に期待しにくいと考えられます。ただし、痛みは活動調整や運動療法などで軽くなることがあります。
「痛みが軽くなったこと」と「後根が解剖学的に治ったこと」は分けて考える必要があります。
歩いてもよいですか?
びっこを引く、体重をかけると強く痛む、歩いた後に腫れや夜間痛が増える場合は、歩行量を減らして早めに受診してください。
診断後は、軟骨下不全骨折の有無や治療方針によって、荷重を制限する場合があります。担当医の指示に従ってください。
必ず手術が必要ですか?
必ずではありません。症状が軽い場合、関節症が高度な場合、手術リスクが高い場合などは保存療法を選択します。
一方、軟骨状態が比較的良好で、症状が強く、関節温存を目指せる患者さんでは修復術を検討します。
年齢が高いと修復術はできませんか?
年齢だけで決まるものではありません。軟骨の状態、変形、O脚、骨質、活動性、持病、リハビリへの対応などを総合して判断します。
MRIで後根断裂と言われましたが、すぐ手術ですか?
MRI所見だけでは決まりません。痛み、発症時期、X線、軟骨状態、O脚、半月板逸脱、生活目標を確認して治療を選びます。
修復術をすれば変形性膝関節症を防げますか?
保存療法や部分切除術と比較して、関節症の進行を遅らせる可能性がありますが、完全に防げるとは限りません。
発症からの期間、軟骨状態、O脚、半月板逸脱、体重なども関係します。
半月板逸脱は手術で元に戻りますか?
改善する場合がありますが、後根修復だけでは逸脱が残ることもあります。逸脱を減らすための追加手技が研究されていますが、適応や長期効果は現在も検討中です。
手術後はいつから歩けますか?
術式、修復方法、骨切り術の併用、軟骨状態などによって異なります。早期から一定の荷重を許可する方法と、数週間保護する方法があり、統一された一つの方法はありません。
手術を受けた施設の指示を優先してください。
注射で治りますか?
薬や関節注射で痛みや炎症が軽くなる場合はありますが、切れた後根を付着部へ戻す治療ではありません。保存療法の一部として、症状や関節症の状態に応じて使います。
まとめ
内側半月板後根断裂は、中高年以降に日常の軽い動作で突然発症することがある、見逃されやすい半月板損傷です。
後根が切れると半月板の荷重分散機能が低下し、半月板逸脱、軟骨損傷、変形性膝関節症が進む場合があります。
診断では、発症時の出来事、症状、立位X線、MRI、軟骨やO脚の状態を総合します。痛みを伴うポキッという感覚は重要な手がかりですが、それだけで確定診断はできません。
治療は保存療法、後根修復術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節などから、関節の状態と患者さんの目標に合わせて選びます。
後根修復術は症状を改善し、関節症の進行を遅らせる可能性がありますが、膝を完全に元どおりにしたり、将来の関節症を完全に防いだりする手術ではありません。
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※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。

