原因:大腿骨外側顆部の後方にあるファベラが繰り返し摩擦される
症状:膝裏の局所的な圧痛、膝を完全に伸ばした時の痛み
回復までの期間:手術すればすぐ。保存治療は時間がかかる
はじめに、症候群とは、病気や精神障害、その他の異常な状態を総称して示すものです。
様々なウイルスによって引き起こされる喉の炎症や鼻水をかぜ症候群というように、原因は様々ですが、症状は一定の範囲にとどまるものを症候群と言います。
ファベラ症候群とは、膝の後外側にある小さな骨に起因する異常な状態を示します。この小さな骨をファベラと言います。
膝の後外側部の痛みはファベラの存在と関連していることがあり、この部分に圧痛が認められる場合には、この症候群を考える必要があります。
ここでは、ファベラについて少し触れたのちに、ファベラ症候群の症状と治療について説明していきます。最後にエビデンスはまだ低いですが、最新の治療法についても説明します。
ファベラとは?
ファベラは大腿骨外側顆部後方の腓腹筋の筋線維に埋め込まれた小さな骨で、前方では膝関節後方関節包に接し、後方では腓腹筋外側頭の付着部近辺に位置しています。
また、ファベラ‐腓骨靭帯というものも存在し、これは腓骨頭まで伸びています。
ファベラの存在率は?
報告によって大分差がありますが、20%から87%の人に存在すると言われています。
アジア人に多く、欧米人に少ない傾向があります。片方の膝に存在する場合には50%の確率で反対側にも存在します。
ファベラはなんのためにあるのか?
機能的には、膝蓋骨が膝関節の伸展に働くように、ファベラは膝を屈曲させるときにスムーズに力を変換させていると考えられています。
正座の機会が多い生活様式を多く取り入れているアジア人でファベラが多いことを考えても、納得のいく理論です。
ファベラ症候群について
ファベラ症候群は、特に膝を伸ばした時に間欠的な痛みを生じます。これは、ファベラが筋肉に押されて大腿骨外顆に押しつぶされるからです。
原因
膝を完全伸展させると膝後外側部の痛みが増強したり、大腿骨外側顆部を後ろから圧迫すると局所的に痛みを生じる場合もあります。
これらの症状の多くは、大腿骨外側顆部の上にあるファベラが繰り返し摩擦されることで起こります。
稀ではありますが、人工膝関節置換術後の痛みの原因としてファベラ症候群が報告されています。
変形性膝関節症に関していうと、ファベラの存在自体が変形性膝関節症のリスクになり得るという報告もあります。
症状
ほとんどの場合、ファベラ自体に痛みを伴うことはありません。
鋭い痛み、局所的な圧痛、膝を完全伸展させることでファベラ部の痛みが強まることでファベラ症候群を疑うことが出来ます。
また、膝を曲げたり、階段を昇ったり、足を組んで座ったり、運動をしたりするときに痛みを感じることもあります。
痛みは、膝の内反かつ脛骨を内旋させる動きに関連しています。つまり、変形性膝関節症が進行することによって症状が出やすくなります。
腓骨神経に近すぎると、しびれ、下垂足、鶏歩の原因になります(歩行中に足を持ち上げている間、足が垂れ下がり、足の指が床を擦らないように足を高く上げなければなりません)。
診断
ファベラは、触診、レントゲン、超音波検査、MRIなどで検出することができます。
身体診察
膝の後外側面の腫脹/圧痛が認められることがあります。
大腿二頭筋腱の内側で、直径約1cmの硬い結節が確認されればファベラの可能性が高いです。
D Dalip Cureus.2018
膝の完全伸展位と最終屈曲位の痛み(後外側)は感度の高い検査法として報告されています。
画像診断
レントゲン写真や超音波検査はファベラの診断に有用ですがMRIを撮像することで膝痛の他の原因を除外することが出来ます。
MRIでは、ファベラの炎症、外側腓腹筋腱の肥厚、大腿骨後外側顆部上の関節軟骨障害などのファベラ症候群関連した変化を示すことがあります。
*MRIでは大腿骨顆部後方の異常陰影のように見えることがあり、これは骨軟骨欠損や軟骨遊離体と誤診されることもあります。しかし、この遊離体は膝が屈曲すると大腿骨外側顆部から離れるため、ファベラとの鑑別は難しくありません。
Travis J, LaPrade 2020 OJSM
1,診察:膝の圧痛、完全伸展での痛み、最終屈曲位での痛み
2,レントゲン・超音波検査
3,MRI
(炎症、外側腓腹筋腱の肥厚、大腿骨後外側顆部の軟骨障害)
治療
ファベラ症候群は初めは保存的に治療されます。
しかし、症状が持続する場合には、ファベラを外科的に切除することこともあります。
保存的な治療として、局所麻酔注射やステロイド注射も効果的な場合があります。
注射を含む非外科的治療としては、サポーターによる固定、一時的な活動制限、物理療法、理学療法、鎮痛剤などがあります。
保存療法でも良くならない場合は、外科的治療を行うこともあります。
ファベラ切除は筋肉切開手術でも関節鏡下手術でも行うことが出来、その有用性は多く報告されています。
術後
ファベラ切除後は可動域(ROM)に制限はなく、術後すぐに屈曲・伸展運動を開始します。
サポーターなどは必要ありません。足を引きずることなく歩けるようになるまでは、松葉杖を使用します。通常、術後2週間は松葉杖が必要なことが多いです。
新しい治療
体外衝撃波治療は、その有効性、非侵襲性、適用性の高さから、様々な筋骨格系の問題に対する新しい治療法として注目されています。
体外衝撃波のメカニズムは、無髄化した感覚神経の破壊、過刺激性鎮痛効果、および退化した組織の血管新生を促します。
ファベラ症候群に対する対外衝撃波治療の有効性も報告されており、治療直後から痛みの減少を認め、この痛みの軽減は2ヶ月後のフォローアップでも維持されていたようです(D Dalipet al.Cureus.2018)。