病態

Sinding-Larsen-Johansson 症候群

Sinding-Larsen-Johansson症候群

原因:硬い筋肉の緊張によって骨が強く引っ張られる

症状:膝蓋骨のすぐ下の痛み 運動で悪化

回復までの期間:数ヶ月(成長がとまれば症状はなくなる)

聞きなれない名前ですが、子供の骨端症(牽引性骨端症)でオスグットシュラッダー病と並んで子供の膝に多い病態です。

これは、お皿(膝蓋骨)の下の部分の炎症です。外傷によるものではなく、使いすぎによる膝の病態です。

この症候群は、通常、成長期である思春期に発症します。局所的な痛みを伴い、運動によって悪化します。

通常、局所的な圧痛と膝周囲の腫れを認めます。また、周囲の筋肉、特に大腿四頭筋、ハムストリングス、腓腹筋が硬くなっているのが特徴です。

このような筋肉の硬直は、通常、膝関節の柔軟性を失わせ、膝蓋大腿関節にかかる負担を変化させます。

通常、レントゲン写真では膝蓋骨の下部に石灰化を示します

この章ではオスグットシュラッダー病とは別の牽引性骨端症について見ていきます。

解剖と病態

Sinding-Larsen Johansson症候群は、牽引により膝蓋骨の遠位部で膝蓋靭帯が断裂または剥離するものです。

膝蓋腱は、大腿四頭筋の一つ、大腿直筋腱の遠位部の続きに相当します。この腱は膝蓋骨を越え、脛骨結節に付着しています。

大腿直筋の起始部は下前腸骨棘です。

この症候群は、腱の炎症や、石灰化を引き起こす可能性があります。

石灰化は、カルシウムが沈着によるものですが、この状態になると、膝蓋腱断裂のリスク、回復時間の遅延、手術後の合併症の頻度が高くなります

疫学・病因

1921年と1922年、Sinding-LarsenとJohanssonはそれぞれ独立して、青年期に膝蓋骨の下極の圧痛と膝蓋骨の断片化のX線をもとに、この症候群を報告しました。

これはSinding-Larsen-Johansson病(SLJD)と呼ばれ、膝蓋骨下極の限局性の痛みに下極の断片化または下極の石灰化を伴う症候群の包括的な用語として使用されています。

ほとんどの場合、繰り返される微小な外傷によって引き起こされます。

この症候群は、通常までの子供に発症します。

Sinding-Larsen-Johansson症候群は、通常、急速な成長期の後(10歳から15歳)に子供に現れるものです。

また、1つのスポーツに特化している思春期の女性は、リスクが高いようです。

しかし、中~長距離を走ったり、ジャンプやスクワットを多用するスポーツをしている活動的な成人にも発症する可能性があります。

青年期には、大腿四頭筋の収縮により膝蓋骨の遠位極が繰り返し牽引されることで、膝蓋骨の先端にこのような滑膜が形成されます。この状態が慢性化すると、石灰化や骨化が進みます。

青年期の痛みは、主に繰り返される微小な外傷の後に現れる滑膜部の異常な動きによって引き起こされます。

症状

超音波(エコー)やMRIでは、膝蓋骨下極の骨片化が見られることもあれば、不規則で、軟骨の変化や膝蓋腱の挿入部の肥厚が見られることもあります。

通常の歩行や階段昇降など、日常生活を送るだけでも、症状の重さによっては痛みが増すことがあります。

しかし、重症度が低い場合は、何キロも走るような長時間の運動の後でないと痛みを感じないこともあります。

痛みは、膝を深く曲げる、膝をつく、ジャンプする、階段を上る、しゃがむ、走るなど、重力に逆らって膝をまっすぐにする場合に生じることが多いです

患者さんや患者さんの親の訴えで多いのは次のような訴えです。

  • 10~13歳の活動的な少年
  • 膝の前側が痛い
  • 膝の前側が腫れている
  • おさえるとすごく痛い
  • 運動、階段昇降、しゃがむ、膝をつく、跳ぶ、走るなどの動作で悪化する
  • 運動後に足を引きずる


症状は片側または両側にも表れることがありますが、安静にしていれば痛みは和らぎます

Sinding-Larsen-Johansson症候群は、膝蓋骨の成長板が閉じれば、完全な回復が期待できます。

Sinding-Larsen-Johansson症候群の症状は数か月間残ることがありますが、保存的治療で予後不良となる患者はほとんどおらず、一般的に外科的介入は必要ありません

鑑別診断

Sinding-Larsen-Johansson症候群と似た症状を持つ他の疾患としては、Hoffa症候群、ランナー膝膝蓋下腱の粘液性変性などがあります。

臨床症状は、Sleeve(膝蓋骨下極)骨折、骨軟骨炎、膝蓋骨のストレス骨折、ジャンパー膝オスグッド・シュラッター病などの他の損傷や疾患との違いがわかりにくい場合があります。


スリーブ骨折、骨軟骨炎、ストレス骨折は、X線写真で鑑別する時は難しい場合があります。問診を注意深く聞き診断する必要があります。

Sinding-Larsen-Johansson症候群はオーバーユースに起因するのに対し、スリーブ骨折は、膝を曲げた状態で大腿四頭筋が急激に収縮することによる急性外傷です。このメカニズムにより、膝蓋骨の骨膜、軟骨が剥離します。

同様に、骨軟骨炎はSinding-Larsen-Johansson症候群と同じようにオーバーユースに関連しています。

一方、ストレス骨折とは、低い力での繰り返しのストレスにより、骨の一部または全部が骨折することを言います。

これら3つの損傷(Sinding-Larsen-Johansson症候群、骨軟骨炎、ストレス骨折)の病因には、明確な違いはありません。

腱鞘炎(ジャンパー膝)とSinding-Larsen-Johansson症候群は同時に発症することがあります。

検査

Sinding-Larsen-Johansson症候群は、スリーブ骨折、膝蓋骨の骨軟骨炎、膝蓋骨のストレス骨折、ジャンパー膝などの損傷とX線写真の外観が似ています。特に、スリーブ骨折、骨軟骨炎、ストレス骨折は、X線写真を見てもほとんど区別がつきません。

そのため、これらの損傷を区別するためには、MRI撮像が必要です。

前述したように、この症候群は膝蓋腱の牽引によって引き起こされ、これが炎症の原因となります。Sinding-Larsen-Johansson症候群は、膝蓋骨に骨髄浮腫が見られることで、ジャンパー膝と区別することができます。

MRIでは、膝蓋腱近位部の肥厚と信号増加、膝蓋骨下極の不規則な骨化とその下の骨髄水腫が示されています。

Sinding-Larsen-Johansson syndrome

治療

Sinding-Larsen-Johansson症候群の治療は、症状を悪化させる活動を完全に中止することから始めます。

一般的には、ジャンプやキックを多用するスポーツが該当します。

安静にしていないと、膝蓋腱の損傷が進み、病状が悪化します。

PRICE

Protect(保護)、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compress(圧縮)、Elevate(挙上)の頭文字をとったもので、治療の第一段階です。

症状が落ち着くまでは、悪化させるような活動を控え、スポーツに復帰したら、その前後に膝にアイスパックを当てるのも効果的です。

膝ストラップ

これは必需品です。

膝当てストラップを膝蓋腱(膝蓋骨の下、脛骨結節の上)に直接装着すると、痛みが軽減され、骨から緊張を取り除くことができるため、スポーツへの復帰が容易になります。

使用方法は簡単で、非常に効果的です。


鎮痛剤

痛みを和らげるために、カロナール(熱が出た時にもらう解熱剤)を使用します。

ロキソニンなどのNSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬)は、痛みや炎症を抑えるのに役立ちますが、子どもには必ずしもお勧めできません。

必ず医師に確認してください。

ストレッチ

エクササイズは、リハビリの過程では欠かせないものです。

痛みの強い時期は安静にして症状を落ち着かせた後、ゆっくりと運動を始めましょう。

まずは、大腿四頭筋の緊張を和らげ、脛骨結節にかかる負担を軽減させることから始めます。

Quadricep (Thigh) Stretches Overview

大腿四頭筋が伸び始めたら、痛みや活動レベルの低下によって失われた膝周りの筋力を回復させます。

ただし、これらのエクササイズは、再発を起こさないようにゆっくりと進める必要があります。

ギプス

症状が重い場合、3週間程度の確実な安静を確保するために、膝をギプスで固定することもあります。

しかし、これは剥離骨折に至り、手術が必要になりそうな人にのみ行います。

Sinding-Larsen-Johansson症候群にならないための予防策

Sinding-Larsen-Johansson症候群は悪化すると治癒が遅れる病気ですので、予防に努めることが大切です。

膝のストレッチ

Sinding-Larsen-Johansson症候群は成長期に筋肉の長さが骨の成長に追いついていないために起こります。

太ももの筋肉を伸ばすことで、この問題を解決し、脛骨結節の緊張を緩和することができます。

Quadricep (Thigh) Stretches Overview

筋力アップのエクササイズ

太もも以外の筋肉(お尻や腹筋、ふくらはぎ)の筋力を鍛えることも大事です。

大腿四頭筋に余計な負荷がかからに様に、全身をバランスよく保つことが大事です。

レジスタンストレーニングを避ける

16歳未満における脚の重りの使用は、柔らかくて若い骨に負担をかけすぎます。

過剰なトレーニングを避ける

長時間のトレーニング(2、3時間以上)や頻繁なトレーニングは避けましょう。

トレーニングとトレーニングの間には1日休みを取るようにしましょう。