病態

内側半月板の変性水平断裂に対する半月板切除術と保存療法の比較研究

半月板水平断裂は変性断裂に含まれ、中年後期に多く見られます。内側半月板後角は内側半月板の他の部位に比べて動きが少ないため、断裂しやすい部位です。そのため、内側半月板後角の水平断裂は、半月板変性断裂の最も典型的で基本的な構成要素となっています。

水平断裂は半月板の内縁から始まり、外周に向かって伸び、2枚の葉(leaf)を形成します(superior leafとinferior leaf)。

Nguyen et al. musculoskeletal imaging 2014

水平断裂は断裂が半月板のouter lesionまで広がっている場合には切除手術が有効であるとされていますが、半月板部分切除後の症状の残存は再手術の割合が高く、次に行われる治療は必然的に亜全摘術や全摘術のような結果を招きます。

これまでの研究によると、保存療法に比べて半月板除術後には早期の変形性膝関節症が起こりやすいとされています。しかし、これまでの研究は後ろ向き研究がほとんどであり、医者側の客観的なデータと患者さんの主観的な訴えとの相関が乏しいことが多く、結果をどのように解釈していいのか難しいところでした。

今回紹介する論文は、変性水平断裂について関節鏡下半月板切除術と非手術の臨床成績を比較したエビデンスレベルIの研究です。少し古いですが、信頼のおける良い論文だと思います。(AJSM 2013)

2020.11.12_5Comparative-study-of-meniscectomy-and-nonoperative-horizontal-tear

どのように経過フォローしたか

半月板水平断裂に対して、保存療法群と半月板部分切除群に分けて前向きに検討していますが、経過フォローをどのように行ったかが大事です。

保存療法は3か月間、週に3回、理学療法士の監視下でリハビリを行い、自宅でのセルフリハを8週間行っています。一方、半月板部分切除群では翌日退院の自宅でのセルフリハを8週間おこなっています。

つまり、保存療法群は3週間のしっかりしたリハビリを行ったあとは個人任せです。手術群は術後から個人任せのリハビリを行っています

どうなったかというと、3か月時点では手術群が成績がいいのですが、2年経過した場合の臨床成績は変わらないという結果になりました。

結果

上の二つは患者さんによる申告を元にスコアを出しています。
上のVAS scoreからわかることは、3か月経過した時点でどちらの治療を行ったとしても、全体的に痛みが楽になっているということです。
下のスコアは活動評価ですが、3か月時点では手術群に分がありますが、2年後には変わらなくなっています。
このLysholm scoreはわかりやすいスコアですが、変性を伴う中高年に行った場合は解釈に注意が必要です。できればKOOS(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score)を使ってもらいたかった。。

最終2年経過したときの患者さんの満足度ですが、保存療法群と手術群において満足度は面白いように一緒でした。

痛みを持っている患者さんに2年はつらいですが、手術しても大きなメリットは得られないということをこの論文は示しています。

これまで、水平断裂の術後は半月板を部分的に切除してボリュームを減少させるので関節にかかる負担が大きくなり、変形性膝関節症を助長するということでした。しかし、この論文では、変形の進行はどちらの治療を選択しても変化はないことがわかりました。

2年という短い期間ですが、手術による関節症性変化に影響がないということは大きな結果でした。

考察

半月板水平断裂は頻繁に起こり、無症状の場合もあります。このタイプの断裂はフラップ断裂を起こす可能性があるが、通常は機械的に安定しているのが特徴です。

伝統的に内側半月板断裂は関節鏡下半月板切除術によって治療されてきましたが、内側半月板水平断裂を含む変性変化に対する半月板部分切除術の有効性を支持する科学的根拠はありませんでした。

この論文では変性内側半月板断裂を有する患者における半月板部分切除術と非手術的管理の効果を評価しています。結果として、内側半月板後角の変性水平断裂に対する関節鏡下手術では、保存療法と比較して優れた転帰は得られませんでした。

半月板切除術群が有意に高い膝スコアを示した唯一の時点は3ヵ月後でした。その他の研究でも同様に関節鏡視下半月板切除術が3ヵ月後に改善を示したと報告があります。

3か月先の話で言うと、手術したほうが楽になるけど、2年後を見たときにはどちらでも大差ないという結果です。この情報は知っておくべき情報ですが、手術の決断は患者さんに委ねないといけない、なんともむず痒い結果です。

内側半月板後角の変性水平断裂を切除した場合、非手術時と同様の結果が得られるということは、一般的に水平断裂は円周方向線維の機能的連続性が損なわれておらず、半月板の機能がほぼ維持されていたからかもしれないと考察されています。

結論

内側半月板後角の水平断裂は主に変性変化に関連しており、本研究が示すように、半月板部分切除術と保存療法の両方で満足のいく臨床結果を得ることができる。

しかし、変性水平断裂の内側半月板の治療のために関節鏡下半月板切除術を行っても、強化運動による非手術的管理と比較して、2年後の膝痛の軽減、膝機能の改善、患者の満足度の向上という点で、メリットはないことがわかりました。