膝の裏が痛いのはなぜ?主な原因と受診の目安を整形外科医が解説
膝の裏が痛む原因には、ベーカー嚢胞、半月板損傷、内側半月板後根断裂、筋肉や腱の損傷、靱帯損傷、変形性膝関節症などがあります。
膝裏に「張り」や「ふくらみ」がある場合と、スポーツ中に突然鋭く痛んだ場合、中高年の方が立ち上がりや階段などの軽い動作で急に痛くなった場合では、考えられる原因が異なります。
また、膝の裏には血管や神経も通っています。片脚全体の腫れや熱感、呼吸困難、足が冷たい・白いといった症状がある場合は、整形外科疾患以外の緊急性の高い病気も考える必要があります。
早めに医療機関を受診した方がよい症状
- 片脚だけが急に腫れ、熱を持ち、ふくらはぎまで痛む
- 脚の腫れや痛みに、息苦しさ、胸痛、血の混じったせきを伴う
- 突然強く痛み、足先が冷たい・白い・紫色になる
- 転倒や衝突後から体重をかけられない
- 膝が大きく腫れ、曲げ伸ばしができない
- 膝が引っかかり、伸びない状態が続く
- 膝が赤く熱を持ち、発熱や全身のだるさを伴う
- 膝裏のしこりが急に大きくなる、拍動しているように感じる
- 夜間痛が続く、痛みや腫れが徐々に強くなる
痛む場所や症状から考えられる原因
| 主な症状・場所 | 考えられる主な原因 |
|---|---|
| 中央付近の張り・ふくらみ | ベーカー嚢胞、関節水腫 |
| 後内側の急な痛み | 内側半月板後根断裂、内側半月板後方の損傷、腓腹筋内側頭損傷 |
| 後外側の局所的な痛み | 膝窩筋腱障害、ファベラ症候群、膝後外側支持機構の損傷 |
| スポーツ中の鋭い痛み・内出血 | ハムストリング損傷、腓腹筋損傷 |
| ひねった後の引っかかり・腫れ | 半月板損傷 |
| 強い外傷後の不安定感 | 後十字靱帯損傷、複合靱帯損傷、関節包損傷 |
| 片脚全体の腫れ・熱感 | 深部静脈血栓症、破裂したベーカー嚢胞など |
痛む場所は診断の手がかりになりますが、場所や動作だけで病気を断定することはできません。同じ症状を起こす病気が複数あり、同時に存在することもあります。
膝の裏が痛む主な原因
1.ベーカー嚢胞
ベーカー嚢胞は、膝関節内で増えた関節液が、膝裏にある滑液包へ入り込んで膨らんだものです。多くは、半膜様筋腱と腓腹筋内側頭の間にできます。
成人では、変形性膝関節症、半月板損傷、関節リウマチなど、膝関節内の病気に伴って生じることが多くあります。
- 膝裏に柔らかいふくらみがある
- 膝を深く曲げると張る
- 長く立ったり歩いたりすると重だるい
- 膝全体の腫れやこわばりを伴う
嚢胞があっても症状がない人もいます。嚢胞そのものだけではなく、関節症や半月板損傷など、関節液が増える原因を確認することが大切です。
破裂したベーカー嚢胞に注意
ベーカー嚢胞が破裂すると、関節液がふくらはぎへ広がり、急な痛みや腫れを起こすことがあります。深部静脈血栓症と症状がよく似ているため、外見や自己検査だけで区別することはできません。
2.半月板損傷
半月板の後方が傷むと、関節の奥や膝裏に痛みを感じることがあります。スポーツ中のひねりで発症する場合と、年齢に伴う変化によって明確な外傷なく発症する場合があります。
- ひねり動作や深いしゃがみ込みで痛む
- 膝が腫れる
- 引っかかる、クリックする
- 膝が伸びきらない
- 膝が動かないロッキングがある
半月板損傷があっても、すべて手術が必要になるわけではありません。一方、断裂した半月板がずれて膝の動きを妨げている場合は、早期の専門的評価が必要です。
3.内側半月板後根断裂
内側半月板後根断裂は、内側半月板の後方にある付着部が切れる損傷です。中高年の女性に多く、激しいスポーツ外傷ではなく、階段、立ち上がり、しゃがみ込み、小走りなどの日常動作で発症することがあります。
- 膝の後内側に突然鋭い痛みが走る
- 「ブチッ」「ポキッ」という感覚がある
- その後、歩行や体重をかける動作が痛い
- 数日休んでも改善しにくい
放置すると半月板が外側へ押し出され、関節軟骨への負担が増える可能性があります。中高年の方に明確な大けががないのに急な後内側痛が出た場合は、早めに整形外科を受診してください。
4.ハムストリング・腓腹筋の損傷
太ももの裏にあるハムストリングと、ふくらはぎの腓腹筋は膝をまたいで付着しています。ダッシュ、ジャンプ、急停止、方向転換などで筋肉や腱に急な力が加わると、膝裏からふくらはぎにかけて痛むことがあります。
- 運動中に突然痛くなった
- 膝を曲げたり、地面を蹴ったりすると痛い
- 押すと限られた場所が痛い
- 腫れや内出血を伴う
- 重症では歩くことが難しい
軽い筋損傷と、腱の断裂、深部静脈血栓症、破裂したベーカー嚢胞は症状が似ることがあります。片脚全体が腫れる場合や、外傷のきっかけがはっきりしない場合は受診してください。
5.膝窩筋腱障害
膝窩筋は膝の後外側にあり、膝の回旋や安定に関わります。ランニング、下り坂、急な方向転換、膝をひねる動作などで負担がかかることがあります。
- 膝の後外側が局所的に痛む
- 下り坂や走行で悪化する
- ひねる動作で痛む
- 外傷後に痛みが出た
単独の膝窩筋腱損傷は比較的まれであり、半月板損傷や膝後外側支持機構の損傷との区別が必要です。
6.後十字靱帯・関節包の損傷
後十字靱帯は、すねの骨が後方へずれすぎないように支える靱帯です。曲げた膝の前側を強く打つ、曲げた膝から転倒する、膝を強く反らすといった外傷で損傷することがあります。
- 交通事故やスポーツ外傷の後から痛む
- 膝が腫れる
- 下り坂や階段で不安定に感じる
- 膝裏に深い痛みを感じる
強い外力が加わった場合は、ほかの靱帯や血管、神経も傷んでいることがあります。膝の変形、強い不安定感、足先の冷感やしびれがある場合は、緊急の評価が必要です。
7.変形性膝関節症
変形性膝関節症では、関節内の炎症や関節液の増加、骨や軟骨の変化によって、膝の前や内側だけでなく、膝裏に張りや痛みを感じることがあります。
- 動き始めが痛い
- 長く座った後にこわばる
- 長時間の歩行で痛む
- 膝が腫れる
- 曲げ伸ばしがしにくい
長時間座った後の痛みは変形性膝関節症でも起こりますが、「座っている間に関節液がなくなる」ことが原因ではありません。関節のこわばりや、関節周囲組織への負荷など複数の要因が関係します。
8.ファベラ症候群
ファベラは、膝後外側の腓腹筋外側頭付近にみられる小さな種子骨です。ファベラがあっても通常は症状を起こしませんが、周囲組織への刺激が生じると膝後外側痛の原因になることがあります。
- 膝を伸ばしきると後外側が痛む
- 後外側の限られた場所を押すと痛い
- 歩行や運動で悪化する
比較的まれな原因であり、半月板損傷、関節症、腱障害など、より一般的な原因を除外してから診断します。
9.深部静脈血栓症
深部静脈血栓症は、脚の深い静脈に血のかたまりができる病気です。膝裏だけでなく、ふくらはぎや脚全体に痛みや腫れを生じます。
- 片脚だけが腫れる
- ふくらはぎや太ももが痛む
- 皮膚が熱を持つ
- 赤みや色の変化がある
- 最近の手術、入院、長時間移動、安静、がん治療などの危険因子がある
症状だけでは診断できず、症状がない場合もあります。足首を反らして痛みを見るような自己検査では、深部静脈血栓症を診断したり除外したりできません。
血栓が肺へ移動すると肺塞栓症を起こすことがあります。突然の息苦しさ、深呼吸で悪化する胸痛、血の混じったせき、失神などがある場合は、直ちに救急要請してください。
10.まれですが見逃したくない原因
膝裏には膝窩動脈という重要な血管が通っています。頻度は高くありませんが、膝窩動脈瘤、血管損傷、腫瘍などが膝裏の痛みやしこりの原因になることがあります。
- 拍動するしこりがある
- 突然激しく痛み、足が冷たい・白い
- 足先の感覚が低下する
- 安静にしても悪化する夜間痛がある
- しこりが徐々に大きくなる
このような症状がある場合は、自己流のマッサージをせず、速やかに医療機関を受診してください。
膝を曲げる・伸ばすと痛む場合
膝を曲げるときの痛みは、ベーカー嚢胞、関節水腫、半月板損傷、筋肉や腱の問題などで起こります。膝を伸ばしきるときの痛みは、半月板損傷、ファベラ症候群、膝後方の関節包や腱の問題などで起こります。
ただし、「曲げると痛いからベーカー嚢胞」「伸ばすと痛いから半月板損傷」というように、動作だけで病名を決めることはできません。
自宅でできる対処
外傷や急な痛みがあり、危険な症状がない場合は、まず悪化させる動作を減らします。
- 走る、跳ぶ、深くしゃがむ動作を一時的に控える
- びっこを引く場合は歩行量を減らす
- 腫れや運動後の熱感がある場合は10~15分程度冷やす
- 脚を少し高くして休む
- 痛みを確認しながら、長時間同じ姿勢を避ける
膝裏にしこりや片脚全体の腫れがある場合は、原因が分かるまで強いマッサージをしないでください。また、急性期に強いストレッチを行うと、筋損傷や腱損傷を悪化させることがあります。
整形外科ではどのような検査をしますか?
診察では、痛みが始まったきっかけ、痛む場所、腫れやしこり、関節の可動域、半月板の症状、靱帯の安定性、神経や血流の状態などを確認します。
X線検査
外傷後に骨折が疑われる場合や、慢性の膝痛で変形性膝関節症などを確認する場合に行います。半月板、靱帯、筋肉、血栓は通常のX線には直接写りません。
超音波検査
ベーカー嚢胞、筋肉・腱、関節水腫など、表面に近い組織を確認できます。深部静脈血栓症が疑われる場合には、静脈超音波検査が重要です。
MRI検査
半月板、靱帯、軟骨、筋腱、骨内部の病変などを詳しく確認します。ロッキング、持続する関節水腫、強い外傷、内側半月板後根断裂などが疑われる場合に検討します。
膝裏の痛みはどのように治療しますか?
治療は原因によって異なります。
- ベーカー嚢胞:関節症や半月板損傷などの原因治療、活動調整、薬、必要に応じて穿刺や注射。手術は通常、最初の治療ではありません。
- 半月板損傷:活動調整、運動療法、薬、損傷形態や症状に応じた手術。
- 内側半月板後根断裂:年齢、軟骨、脚の形、活動性などを評価し、荷重調整、装具、運動療法、修復術などを検討。
- 筋肉・腱の損傷:急性期の負荷調整後、可動域と筋力を段階的に回復。
- 靱帯損傷:装具、リハビリテーション、損傷度や併存損傷に応じた手術。
- 変形性膝関節症:運動療法、体重管理、薬、注射、装具、必要に応じて手術。
- 深部静脈血栓症:整形外科的なセルフケアではなく、迅速な検査と抗凝固療法などの専門治療。
よくある質問
膝裏にしこりがあります。ベーカー嚢胞ですか?
ベーカー嚢胞は代表的な原因ですが、血管やほかの軟部組織の病気でもしこりができます。急に大きくなった、強く痛む、拍動する、足が冷たい場合は早めに受診してください。
膝裏が痛くても歩いてよいですか?
軽い痛みで、歩き方が変わらず、歩いた後や翌日に悪化しない場合は、距離を短くして様子を見られることがあります。びっこを引く、腫れが増える、体重をかけると強く痛む場合は、歩行量を減らして受診してください。
ストレッチをすれば治りますか?
筋肉のこわばりが関係する場合には役立つことがありますが、すべての膝裏痛に適するわけではありません。筋損傷の直後、血栓、破裂したベーカー嚢胞、半月板や靱帯の損傷では、強いストレッチが適さない場合があります。
足首を反らすセルフテストで血栓が分かりますか?
分かりません。この方法だけで深部静脈血栓症を診断したり、ないと判断したりすることはできません。片脚の腫れ、痛み、熱感がある場合は、医療機関での評価が必要です。
MRIは必ず必要ですか?
すべての膝裏痛にMRIが必要なわけではありません。診察、X線、超音波で原因が分かる場合もあります。半月板や靱帯、骨内部の病変が疑われる場合にMRIを検討します。
どのくらいで治りますか?
軽い筋肉や腱の使い過ぎは数週間で改善することがあります。筋断裂、半月板や靱帯の損傷、関節症では数か月以上かかる場合があります。ベーカー嚢胞は、原因となる関節内の病気によって再発することがあります。
まとめ
膝の裏が痛む原因には、ベーカー嚢胞、半月板損傷、内側半月板後根断裂、筋肉・腱・靱帯の損傷、変形性膝関節症などがあります。
片脚全体の腫れや熱感、呼吸困難、足の冷感、強い外傷後の不安定感などがある場合は、深部静脈血栓症、肺塞栓症、血管損傷なども考え、速やかに受診してください。
「曲げると痛い」「しこりがある」といった症状だけで自己判断せず、痛みが続く、悪化する、日常生活に支障がある場合は整形外科で原因を確認しましょう。
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※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の診断や治療を代替するものではありません。

