治療

スポーツ活動中の熱中症の症状を知り、予防と対策を考える

熱中症とは暑熱環境で発生する障害の総称で、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病などに分けられます。この中でもっとも重いのが熱射病で死亡事故につながります。

今年(2020年)に熱中症予防ガイドブックが6年ぶりに改訂されたので新しく改訂されたガイドブック(日本スポーツ協会発行)をもとに解説していきます。

今回の熱中症ガイドブック改定のポイントは4つです。

1、熱中予防運動指針をより分かりやすく記載
2、最新データに更新
3、実践に近い、身近な情報を追加
4、身体冷却や暑熱順化について記載

以上の4つが新たに改訂されましたが、”熱中症とはどのようなものか”を含め、解説していこうと思います。

熱中症の4病型

熱失神

炎天下にじっと立っていたり、立ち上がったりしたとき、運動後などに起こります。皮膚血管の拡張と下肢への血液貯留のために血圧が低下、脳血流が減少して起こるもので、めまいや失神(一過性の意識消失)などの症状がみられます。びっくりするかもしれませんが、足を高くして寝かせると通常はすぐに回復します。

熱けいれん

汗には塩分も含まれています。大量に汗をかき、水だけ(あるいは塩分の少ない水)を補給して血液中の塩分濃度が低下したときに起こるもので、痛みをともなう筋けいれん(こむら返りのような状態)がみられます。下肢の筋だけでなく上肢や腹筋などにも起こります。生理食塩水(0.9%食塩水)など濃い目の食塩水の補給や点滴により通常は回復します。

熱疲労

発汗による脱水と皮膚血管の拡張による循環不全の状態であり、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などの症状がみられます。スポーツドリンクなどで水分と塩分を補給することにより通常は回復します。嘔吐などにより水が飲めない場合には、点滴などの医療処置が必要です。

熱射病

過度に体温が上昇(40℃以上)して脳機能に異常をきたした状態です。体温調節も働かなくなります。種々の程度の意識障害がみられ、応答が鈍い、言動がおかしいといった状態から進行すると昏睡状態になります。高体温が持続すると脳だけでなく、肝臓、腎臓、肺、心臓などの多臓器障害を併発し、死亡率が高くなります。死の危険のある緊急事態であり、救命できるかどうかは、いかに早く体温を下げられるかにかかっています。救急車を要請し、速やかに冷却処置を開始します。

熱中症の4病型

・熱失神:足を高くして寝かせる
・熱けいれん:水ではなくスポーツ飲料の摂取
・熱疲労:スポーツ中止、スポーツ飲料の摂取
・熱射病:身体冷却を行い、救急車を呼ぶ

このように熱中症は4つに分類されるのですが、ほとんどの場合は冷却と水分補給で改善します。しかし、熱疲労と熱射病は重篤になるケースがあるため、もう少し解説を加えます。

危険な2つの症状(熱疲労と熱射病)

熱疲労は、熱中症のなかでも一般によくみられる病型です。一方、熱射病は死の危険性が高い緊急事態で、熱疲労とは区別しなければなりません。判断に迷うような場合には、必ず熱射病として対処します。

 暑熱環境で長時間の運動をすると、大量に発汗するため、水分と塩分を失い、循環血液量が減少し、重要臓器への血流が不足します。過度の脱水とそのための循環不全が熱疲労の病態です。
熱疲労の症状は、「頭痛、めまい、吐き気、嘔吐、脱力感、倦怠感など」がみられます。

これは大事なことですが、体温は正常もしくは軽度上昇するものの、40℃を超えることはありません。また、通常は意識障害もなく、治療により回復し、命にかかわることはありません。熱疲労の症状に気づき、ペースを落とす、もっとドリンクを飲む、身体を冷やすなどの対処をし、熱射病への進展を防ぐことが何よりも大事です。

熱疲労と思われても、そのまま無理に運動を続け病態がさらに進行すると、脱水と血清浸透圧上昇のために、皮膚血管拡張や発汗が抑制されます。その結果、熱放散量が減少し、体温がさらに上昇する悪循環に陥り、40℃以上の高体温(脳のオーバーヒート)に至ります。
そのため、脳の機能が障害され、意識障害や体温調節機能不全(発汗停止)をきたしたものが熱射病です。ただし、運動時の熱射病では、発汗が続いていることもあります。なお、熱疲労の病態を経ずに、短時間(1時間以内)に体温が過度に上昇し、熱射病に至ることもあります。

重症の昏睡だけではなく、応答が鈍い、何となく言動がおかしい、日時や場所がわからないなどの軽いものも意識障害と評価し、熱射病として対処してください。

いずれにしても、いったん熱射病を発症すると、迅速適切な救急救命処置を行っても救命できないことがあるため、熱疲労から熱射病への進展を予防することが重要です。

言い換えれば、熱疲労は無理な運動を避けるための防御反応とみなすこともできます。

熱射病が疑われる場合の身体冷却方法

現場での身体冷却法としては氷水に全身を浸して冷却する方法「氷水浴/冷水浴法」が最も効果的とされています。マラソンレースの救護所などでバスタブが準備でき、医療スタッフが対応可能な場合には、冷(氷)水浴法が推奨されます。

学校や一般のスポーツ現場では、水道につないだホースで全身に水をかけ続ける「水道水散布法」が、次に推奨されます

それも困難な場合や学校現場などでは、エアコン(最強で)の利いた保健室に収容し、氷水の洗面器やバケツで濡らしたタオルをたくさん用意し、全身にのせて、次々に取り換えてください。扇風機も併用します。また、氷やアイスパックなどを頚、腋の下、脚の付け根など太い血管に当てて追加的に冷やすのもよいでしょう。

 熱射病が疑われる場合には身体冷却を躊躇すべきではなく、その場合には「寒い」というまで冷却します。運動時の熱射病の救命は、いかに速く(約30分以内に)体温を40℃以下に下げることができるかにかかります。現場で可能な方法を組み合わせて冷却を開始し、救急隊の到着を待ってください。

現場での処置によって症状が改善した場合でも、当日のスポーツ参加は中止し、少なくとも翌日までは経過観察が必要です。

熱射病が疑われる場合

・体温を測る
・最良の方法は氷水の風呂
・氷水の風呂がない場合、水道水を全身にかける
・水道水ホースがない場合エアコンの効いた部屋で水タオル+扇風機
・寒いというまで冷やす
・発症して30分以内に体温を40度以下に下げる

熱中症予防のための身体冷却法・タイミング・冷却時間

スポーツの成績は体温上昇に強く影響されます。暑い環境下でも体温の過度な上昇を抑えることで熱中症の予防、持久性運動能力や認知機能低下の抑制、多量の発汗による脱水予防などができます。したがって、暑熱下のスポーツ活動時では積極的に身体冷却を実施することが重要です。

実際に身体冷却を実施するには、❶冷却方法、❷タイミング、❸冷却時間を考慮して行うとよいでしょう。これら3つの変数の組み合わせによって、得られる効果が異なります。

身体冷却

冷却方法 × タイミング × 冷却時間

冷却方法

冷却方法は大きく2つに分けることができます。バスタブなどを用いた冷水浴(アイスバス)やアイスパック、送風などを用いて皮膚などの身体の外部から冷却する身体外部冷却と、冷たい飲料などを摂取し身体の内部から冷却する身体内部冷却とがあります。

外部冷却は伝導や対流による非蒸発性熱放散と発汗による蒸発性の熱放散のしくみを利用して身体を冷却するものです。一方、内部冷却は皮膚や筋肉の温度を大きく低下させることなく身体の内部(核心部)を冷却できることが特徴です。

最近は氷と飲料水が混合したシャーベット状の飲料物であるアイススラリーの摂取が注目されています。スポーツ飲料でアイススラリーを作ると、身体冷却に加え、水分、電解質、糖質も同時に補給できるので効果的な方法といえます。

冷却のタイミング

冷却のタイミングは、運動前(プレクーリング)、運動中ハーフタイムなどの休憩時、運動後のリカバリーに大別できます。

プレクーリングはあらかじめ運動前に体温を低下させておけば、運動中の体温の許容量(貯熱量)を大きくでき、運動時間を延ばそうとするものです。

運動中や休憩時の冷却は、体温や筋温の過度な上昇を防ぎ、疲労感や暑さなどの主観的な感覚を和らげます。

また運動後の冷却は、上昇した体温や筋温による疲労の軽減、筋損傷や炎症反応を抑えることができます。いつまでも体温上昇が続くと余分なエネルギーを消耗してしまうため、運動後に身体を冷却することで、リカバリー効率の向上につながります。

冷却時間

冷却時間では、体温や筋温を適切な状態に保つために、選択した冷却方法とタイミングにより冷却時間を調整することが重要です。

例えばサッカーのハーフタイム時にアイスパックを用いて筋温を過度に低下させるとその後の運動能力に悪影響を及ぼす場合があるので、冷却の温度や時間に気をつける必要があります。

具体的にどうすればいいか

結論から言うと、外部冷却と内部冷却を絶え間なく行うことです。

<外部冷却>
練習や試合中氷の入ったバケツにタオルを浸し、頭や首筋を冷やす。
休憩時や運動後アイスパックで首や太ももなどのクーリング。

<内部冷却>
運動前アイススラリーで基礎体温を低下させておく
運動中冷えたスポーツ飲料を摂取
休憩時間アイススラリーを摂取する

子供は汗っかきではない?

最後に大人より子供の方が熱中症にかかりやすい理由を説明します。

熱放散量は身体サイズに影響されます。立方体の物理特性として、体積(サイズ)が小さくなるにつれ表面積は相対的に大きくなっていきます。したがって、子どもの体表面積は体重比にすれば大人より広くなります
産熱量は体重に比例するので、子どもは熱産生量に比し相対的に広い放熱面積を持つことになります。つまり、子どもの体は物理的に熱しやすく冷めやすい特性を持っているのです。

 一方、子どもの発汗機能は未発達で、大人より発汗量が少なく、その差は多くの汗を必要とする条件ほど顕著になります。

子どもは発汗能力で劣る分、頭部や躯幹部の皮膚血流量を大人より増加させて熱放散を促進する特性を持っています

外気温が皮膚温より高く、夏季の炎天下のような場合、熱が体の中に入ってくるようになり、子どもの広い体表面積はかえって不利になります。
またこのような環境条件では汗が唯一の熱放散手段になるので、子どもの未発達な発汗機能が深部体温をさらに上昇させます。

 子どもは決して「汗っかき」ではありません。真っ赤な顔をして汗っかきにみえる場合でも、それは熱ストレスが大きくなっているからなのです。

思春期前の子どもにとって、高温環境でのスポーツ活動は、大人以上に過酷な熱ストレスになり、特に持久的運動には不向きです。

暑さに慣れる(暑熱順化)

暑い環境下において運動トレーニングを繰り返し行うと、暑さへの抵抗力(耐性)が高くなります。このように体が暑さに慣れることを暑熱順化と言います。

暑熱順化すると、暑熱環境における安静時および運動時の体温上昇や心拍数増加などの生理的ストレスを軽減することができます。また循環血液量が増加し、汗をかき始める時間も早くなります。そのため同一体温あたりの汗の量も増え、より効果的な体温調節ができるようになり、運動をより長く続けられ、また熱中症の危険性も少なくなるのです

本格的な夏のトレーニングや競技会に備え、気温が高くなり始めたら、暑さに慣れるまでの順化期間を設けましょう
順化期間の最初は運動量を落とし、次第に負荷を高めて行きます。ただし現場では、環境条件や各個人の状態も異なるため、個々の選手の状態をよく把握して順化を進めていくことが大切です。
また、普段の冷房使用に関しても、本格的な暑さの前に冷房に頼りすぎると暑さへの慣れを遅らせることにもなるので、注意したいところです。

暑熱順化に必要な期間および持続性

●トレーニング開始から順化の効果が表れるまで5日間を要する

●トレーニングを中止した場合、短い場合は1週間、長くても1か月でその効果は消失する

●順化のためのトレーニングは、3日間以上間をあけない

これから梅雨が明けるに従い気温がどんどん上昇してきます。この時期は熱中症患者が増える季節です。

しっかりとした知識を持ち、予防と対策を十分に行いましょう。