原因:スポーツのやり過ぎ、間違ったトレーニング、筋肉のアンバランス
症状:膝蓋骨の直上の痛み(運動すると痛みが増強)
回復までの期間:2~6ヶ月
大腿四頭筋腱炎は、運動による膝前方の痛みが特徴的です。
主な症状は、膝蓋骨上部の痛みと圧痛で、運動をすると増強します。
一般的にはスポーツのやり過ぎ、間違ったトレーニング、筋肉のアンバランスなどによる使い過ぎの怪我ですが、スポーツ選手以外にも発症する可能性があります。
大腿四頭筋腱炎の膝の痛みは、早期に発見できれば数週間で完治することもありますが、炎症から変性まで放置してしまうと、怪我をする前の状態に戻るのに6ヶ月かかることもありますので、早期の治療が重要です。
大腿四頭筋とは?
大腿四頭筋は、太ももの前部にある4つの筋肉集合体で、立ちあがる時に膝を伸ばしてまっすぐにしたり、膝の曲げ伸ばしをコントロールしたりします。
この筋肉は、走ったり、椅子から立ち上がったり、階段を上ったり、跳んだり、しゃがんだり、蹴ったり、等々あらゆる動作に重要な役割を果たします。
大腿四頭筋は、大腿直筋、内側広筋、中間広筋、外側広筋の4つの筋肉から構成されます。
これら4つの筋肉は、太ももの下側で共通の腱を形成(大腿四頭筋腱)し、膝蓋骨を包み込み、脛骨の上部まで伸びています。
膝蓋骨より上の腱と下の腱でそれぞれ名前がついています。
大腿四頭筋腱:大腿四頭筋と膝蓋骨をつなぐ
膝蓋腱:膝蓋骨と脛骨をつなぐ
大腿四頭筋腱炎とは
大腿四頭筋腱炎とは、大腿四頭筋腱が膝蓋骨とつながっている部分の炎症のことです。
大腿四頭筋腱炎の初期段階では、体の柔軟性がなかったり、使い過ぎが原因で腱に小さな裂け目ができます。
体は、その部分の血流を増やして、治癒に必要な酸素、化学物質、栄養素を取り入れることで、自己治癒を試みます。
しかし、十分な休息期間がなければ、さらなる断裂が生じ、腱は継続的な摩耗に対応して徐々に破壊され、厚くなっていきます(大腿四頭筋腱症)。
腱症と腱炎という言葉はしばしば同じ意味で使われますが、両者は異なるものを指しています。
- 大腿四頭筋腱炎: 腱に障害が生じた初期の段階で、主な特徴はその名の通り炎症です。
- 大腿四頭筋腱症: 大腿四頭筋腱炎がうまく治癒しなかった場合は腱が太くなり、膝蓋骨に骨棘が出来たりします。変性と瘢痕化が主な特徴です。(ちなみに、私もこの大腿四頭筋腱症です)
大腿四頭筋腱炎の原因
大腿四頭筋腱炎は典型的な使い過ぎの怪我で、通常はアスリートに多いのですが、アスリート以外の人に発症することもあります。
大腿四頭筋腱炎の一般的な原因は以下の通りです。
- スポーツ:ダッシュ、ストップ、ターン、ランニング、ジャンプを伴うもの
- 間違ったトレーニング:頻度、時間、強度などのトレーニングレベルの急激な上昇
- ウェイトトレーニングのやりすぎ:重いウェイトを繰り返し持ち上げること
- 靴:サポート力とクッション性の不足
- 筋肉の硬さ:ハムストリングスと大腿四頭筋の柔軟性の低下
- バイオメカニクスの変化:姿勢の悪さ、足、膝、腰の位置の変化、膝蓋骨のトラッキング障害
- 筋肉のアンバランス:腰から足にかけての筋肉のアンバランス
- 反復動作:しゃがむ、ひざをつく、ジャンプするなど
- 加齢:年をとると腱の柔軟性が失われ、治癒に時間がかかるようになる
- 肥満:スポーツ選手以外の人が大腿四頭筋腱炎になる場合によく見られる要因です。
原因は多々ありますが、なりやすい人となりにくい人がいます。
[box05 title="大腿四頭筋腱炎の危険因子"]・若年
・高身長
・高体重[/box05]
大腿四頭筋腱炎と関連性の高いスポーツは以下の通りです。
- バレーボール
- バスケットボール
- ハンドボール
- ラグビー
- サッカー
中でもバレーボールとバスケットボールは、大腿四頭筋腱炎による膝の痛みを引き起こす可能性の高いスポーツとして知られています。
大腿四頭筋腱炎の症状
大腿四頭筋腱鞘炎の症状は、通常、急に現れるのではなく、時間をかけて徐々に現れます。
運動に関連した痛み:運動すると痛みが増強します。特徴的なものは膝蓋骨の直上の痛みということです。
初期症状は軽い:大腿四頭筋腱炎の初期段階で膝蓋骨の上端を押したときに痛みに似た違和感が生じます。これは、腱の微小断裂によるとされています。
膝の腫れ:パッと見ただけではわかりずらいですが、膝蓋骨上で腱が付着している周辺に熱をもって、腫れてきます。
膝のこわばり:特に朝起きたときや、しばらく座っていた後に急に立ち上がる時に痛みと動かしにくさを感じます
筋力低下:ランニングやジャンプをする時の「押し出し」の力(ハムストリングや殿筋など)が低下すると症状が出やすくなります。
太ももの前と後ろの筋肉のアンバランスはアスリートにとっては致命的です。
大腿四頭筋炎の分類
- Stage 0: 痛みなし
- Stage 1: 激しいスポーツをした後にのみ痛みが出る。パフォーマンスに影響なし
- Stage 2: スポーツ時の中程度の痛み パフォーマンスに影響なし
- Stage 3: スポーツ時の痛みのためパフォーマンスが若干低下する
- Stage 4: スポーツ時の痛みのためパフォーマンスが大幅に低下する
- Stage 5: 日常生活にも支障をきたし、スポーツ活動に参加できない
Stage 2までに診断と治療が出来れば6週間程度で復帰できる可能性が高まります。
治療
大腿四頭筋腱炎の早期治療は、早期回復につながります。
前にも述べたように、この病態の原因は多岐にわたります。
そのため、’ここを治せば良くなる’というものではなく、個人によっても異なります。
以下の項目を目指して総合的に治療することが必要です。
- 痛みと炎症の軽減
- 筋肉のアンバランスを改善する
- 大腿四頭筋の柔軟性をあげて、低下した筋力を取り戻す
大腿四頭筋腱炎の治療法は、保存的(非手術的)なものと手術的なものの2つに分類されます。
まずは、代表的な保存治療を説明します。
保存治療
大腿四頭筋腱炎の痛みに悩まされている人は、ほとんどの場合、これから説明する治療に反応します。
プレーに復帰したいという気持ちが強いのはわかりますが、早期にしっかりと治すことが本当に大事なのです。
安静
わかってます。
アスリートやスポーツを真剣にやっている人はこれが一番難しい。でも、急がば回れです。
まずは、膝の痛みを引き起こすような運動を避けることが重要です。トレーニングの頻度や時間を減らしたり、自転車や水泳などに切り替えるなど、症状を悪化させないようにトレーニングを変更します。
大抵は自分でコントロールできる範囲の安静ということになりますが、重症の場合は、膝の装具を使って安静度を積極的に上げる必要があります。
氷で冷やす
痛みのあるうちは徹底的に行ってください。
特にスポーツの前後に、アイスパックを10~15分程度定期的に当てることで、炎症や痛みを抑えることができます。
目的は炎症を広げないことです。
冷やすという行為は血管からの炎症性物質の拡散を防ぐことに繋がります。特に、アスリートの人にとっては手遅れは許されません。初期段階でしっかりとコントロールしましょう。
理学療法
リハビリで体のバランスの改善や柔軟性の獲得および筋力を鍛えます。
超音波療法や、鍼治療、電気刺激なども使用します。
マッサージ
これは、慢性的に痛みを持っている人(大腿四頭筋腱症)においてのみ有効です。
慢性的な大腿四頭筋腱症には、腱の深部を横方向に滑らせるようにマッサージすることが有効です。
これは、癒着を解消することで、腱のコラーゲン繊維を整え、自分の力で腱が治ろうとするのを補助することに繋がります。
急性期にはお勧めしません。かえって炎症を広げかねないからです。マッサージをするのであれば、理学療法士やアスレチックトレーナーの指導の下行ってください。
テーピングもしくはサポーター
腱に過剰な負荷がかからないように、また日常生活での痛みを防ぐために、テーピングをしたり、サポーターで保護したりすることがあります。
特にスポーツ復帰の際には、行った方がいいでしょう。
靴
靴の装具は、アーチサポートなど、大腿四頭筋腱炎の原因となっている生体力学的な問題を解決するのに役立ちます。
ストレッチ
ふくらはぎ、ハムストリングス、大腿四頭筋の柔軟性を高め、腱にかかる緊張を和らげます。
筋力強化
大腿四頭筋、特に膝蓋骨の動きを制御する内側広筋、ハムストリングス、臀部の筋肉を強化することで、腱の負担を軽減することができます。
大腿四頭筋のエキセントリックトレーニングは特に効果的で、これは筋肉が収縮するのではなく伸長する際に筋肉を強化するものです。
薬
炎症を抑え痛みを緩和させるのを目的でNSAIDsを使用することがあります。痛みがひどい時に使用します。
注射
より症状が強く、難治性の場合、炎症を抑えるためにステロイドの注射を打ちます。
ステロイド注射ではなく、炎症を抑え治癒を促進するとされているPRP注射が近年注目されるようになってきています。
手術
大腿四頭筋腱炎の症状が3ヶ月以上の保存療法で改善しない場合や、腱が完全に断裂している場合は、手術をする場合があります。
大腿四頭筋腱炎の手術では、損傷した腱の部分を取り除き、修復し、血行再建と呼ばれる腱への血液供給を回復させます。
大腿四頭筋腱が完全に断裂している場合は、伸筋機構を回復させるために手術が必要となります。
手術後は、大腿四頭筋腱が治癒するまでの間、膝の固定具を装着して、膝を曲げないようにします。
膝が硬くならないように、痛みが落ち着けば6~8週間の理学療法を開始します。
回復までの期間
急性の大腿四頭筋腱炎の膝の痛みは、保存的治療を行うことで6~12週間以内に落ち着きます。
慢性の大腿四頭筋腱炎(大腿四頭筋腱症)の場合は、3~6ヶ月と時間がかかります。症状に気づいたときに早く治療を始めれば、それだけ早く回復することができます。
出来るだけ早く復帰するために、柔軟性を上げて、膝以外の筋力を鍛える必要があります。
理学療法に加えて、筋力トレーニング(膝以外:ハムストリングやお尻の筋肉)とストレッチを行う必要があるでしょう。
筋力、柔軟性、持久力が向上すれば難易度の高いエクササイズに進みます。
段階的に強度を上げることが大事です。
大腿四頭筋腱炎の症状が落ち着いてきたら、徐々にスポーツに特化したトレーニングを再開することができますが、最初は低頻度、低強度、短時間のトレーニングから始めましょう。
膝が痛くなってきたらやりすぎのサインなので、少しずつ戻していきましょう。
再発を起こすことのないような自己管理が最も大切です。