内側側副靭帯(MCL)損傷とは、膝の内側にある靭帯が伸びたり、部分的に切れたり、完全に切れたりすることです。特にスポーツにおいて最も一般的な膝の怪我の1つであり、主に膝にかかる外反の力によって起こります。
MCL損傷はスポーツ経験のある人であれば聞いたこともあれば、実際にこの怪我をした人も多いのではないでしょうか?
スポーツの世界では比較的身近な怪我のため、怪我をしても軽視されることがあります。
今回はそんな、わかってそうで良く知らないMCL損傷について様々な論文をもとに解説していきます。
MCL の解剖と役割
内側側副靭帯は、膝の内側にある大きな靭帯です。内側側副靭帯(MCL)は、膝関節の力学的安定性を維持するのに重要な4つの靭帯の1つです。靭帯は、膝の内側から後面まで、膝の内側全体に広がっています。さらに、MCLは浅い層(青色丸)と深い層(赤丸)に分けられます。
MCLの機能は、膝の外側から加わる力に抵抗し、ストレスによって関節の内側が広がるのを防ぐことです。
靭帯は、多くのコラーゲン繊維と少量の弾性繊維で構成されており、関節の動きを制限することで過剰な動きを抑制する機能を持つだけでなく、プロプリオセプション(自己受容感覚)の源でもあります。
プロプリオセプションとは、自分自身の身体が空間のどこにあるのか、その位置を把握できる身体能力です。
発症様式
MCLの損傷は、多くの場合、足が地面に接していて固定された状態で膝の外側に衝撃が加わることで起こります。
膝の内側にあるMCLは、衝撃によってストレスを受け、屈曲・外反・外旋の複合的な動きによって繊維が断裂します。MCL損傷をおこすと、強烈な痛みと伴にバキッという音を感じたりすることがあります。
ほとんどの場合、靭帯の深層(deep MCL)が最初に損傷し、これが内側半月板の損傷や前十字靭帯の損傷につながると言われています。
MCL 損傷の症状
他の靭帯損傷と同様に、MCLの損傷はI、II、IIIのいずれかに分類されます。
グレードIの断裂は、コラーゲン繊維の10%未満の断裂で、圧痛はありますが、不安定感はありません。ほとんどの患者さんは、膝を少し曲げて外側から力を加えると痛みを感じますが、それ以外の症状はないことが多いです。 [MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review]
グレードIIの断裂は症状によってさらに2つに分けられています。
これは、グレードII-(グレードIに近い)とグレードIIIに近いII+に分類されますが、どちらも圧痛はあるものの不安定性はありません。[ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]
膝にストレスを加えると、膝の内側の痛みを訴え、関節の弛緩が観察されます。
グレードIIIの断裂はMCLの完全な断裂であり、不安定性を実感します。多くの場合、膝を曲げるのもつらく感じます。グレードIIIの断裂は不安定性をもたらし、膝にストレスをかけると関節の弛緩が生じます。
グレードIIIでは、30°外反ストレステストにおける内側関節裂隙(関節の隙間)が大きく開きます [ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]。
グレードIおよびIIの損傷は、外反ストレステストで明確なエンドポイントがありますが、グレードIIIの断裂は、外反ストレステストでエンドポイントははっきりしません。[Outcome of knee injuries in general practice: 1-year follow-up]
鑑別診断
膝のMCL損傷と同じ症状を引き起こす可能性のある損傷を除外するためには、鑑別診断が必要です。
鑑別診断として重要なものは以下の通りです。
- 内側半月板損傷
- 前十字靭帯損傷
- 脛骨高原骨折
- 大腿骨骨折
- 膝蓋骨脱臼
- 膝内側の打撲
- 小児の骨端線損傷
- 膝後内側支持機構の損傷
内側半月板断裂
グレードIのMCL損傷は、内側半月板断裂と区別するのが困難です。
鑑別には、MRIを使用するか、数週間の観察が必要です。
MCL損傷の場合、圧痛は通常、時間とともに消失しますが、半月板損傷の場合は圧痛が持続します。[ Clinical guide to sports injuries. Human Kinetics]
膝内側の打撲
圧痛があっても、異常な外反ストレスによる内側の弛緩がない場合は、膝内側の打撲の可能性もあります。
膝蓋骨脱臼
圧痛が膝蓋骨に隣接する膝蓋骨内側や内転筋結節付近にある場合は、膝蓋骨脱臼や亜脱臼の可能性が高いです。膝蓋骨の不安定性は、膝蓋骨アプリヘンションテストでMCL損傷と区別することができます。結果が陽性であれば、膝蓋骨の不安定性があることを意味します。[ Clinical guide to sports injuries. Human Kinetics ]
小児の大腿骨遠位端骨折(骨端線損傷)
患者が子供の場合は、MRI検査でMCL損傷ではなく大腿骨遠位端骨折(骨端線損傷)の可能性をしっかりと見極める必要があります。[ Clinical guide to sports injuries. Human Kinetics ]
どのように診断を進めていくか
どのようにして怪我をしたか、痛みがどこにあるかを知るための問診は決しておろそかにしてはいけません。
痛みの場所を特定した後は、圧痛や軟部組織の腫れがあるかどうか確認します。
多くの場合、痛みは膝の内側に集中しています。また、軟部組織の腫れも見られます。
前に説明したように、MCL断裂には3つのグレードがあります。
グレードは、痛みの程度や、患者さんの膝関節の外反ストレステスト時の関節の開く範囲によって決まります。
問診
まず、問診をして怪我したときの情報を揃えることから始めます。
観察
次に、両足を比較できるように、対側の膝(怪我をしていない膝)の状態を確認する必要があります。
膝の検査では、腫れの有無を判断し、その部位を特定することが重要となります。MCL損傷の場合、通常、局所的な腫れが膝の内側に見られます。MCLを膝の内側に沿って触診し、圧痛を評価し、最大の圧痛の場所(大腿骨側か脛骨側か)を確認することが重要です。[Sports knee injuries – assessment and management]
損傷メカニズムの把握
第三に、MCL以外の構造が損傷しているかどうかを確認するために、損傷のメカニズムに注意を払うことが重要です。[Management of medial-sided knee injuries]
外反ストレステスト
MCL損傷を強く疑う場合、2つの肢位で外反ストレステストを用いて評価することが出来ます。
まず、膝を完全に伸ばした状態で、膝に外反ストレスをかけます。次に、同じテストを行いますが、膝は30度屈曲させます。
膝を0°と30°の両方に屈曲させた状態でテストするという目的は、MCL損傷以外の構造物が損傷を受けていないかを確認するためです[ Management of medial-sided knee injuries ]。
膝を0°にした状態で、外反ストレステスト陽性の場合は、複合的な損傷の可能性があります。
この場合、十字靭帯または後内側支持機構の損傷の可能性が高いと報告されています。[ Management of medial-sided knee injuries ]
MRI検査
MRIは、MCLの損傷を検査するための重要なツールでもあります。
現在のところ、形態的および機能的な関節障害を視覚化できる唯一の診断機器です。
グレード分類を行う理由
3つのグレードは、すべての靭帯損傷として扱います。しかし、グレードの違いは患者さんの予後や治療法の選択に関与します。
MCL損傷とセットでよく見られる怪我は、前十字靭帯(ACL)損傷、骨折、外側側副靭帯損傷(LCL)、外側・内側半月板断裂、さらには後十字靭帯損傷(PCL)です。
ACL断裂は、高グレードのMCL断裂との関連が最も多いとされています。
MCL単独損傷の大部分は、重症度にかかわらず、非手術的治療で非常によく治ります。
グレードIおよびIIのMCL損傷とグレードIIIのMCL損傷の治療には違いがあります。[ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]
グレードI の MCL 損傷
グレードIの損傷では、内側の弛緩を伴わない痛みが生じます(関節裂隙の開きはに3mm以下と定義されます)。
手術をすることなく治療が可能です。 [ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]
グレードII の MCL 損傷
グレードIIの損傷は、5~10mmの内側の弛緩を伴うことが多く、より痛みを伴います。
ほとんどの症例で 手術をすることなく治療が可能です。 [ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]
グレードIII の MCL 損傷
グレードIIIの損傷は、通常、Grade IIと同等またはそれ以上の痛みを伴うことが多いですが、靭帯が完全に断裂しているために痛みが少ない場合があり、その場合はテストでかなりの弛緩(10mm以上)が認められます。[Sports knee injuries – assessment and management]
グレードIIIの損傷の場合、非手術的治療の結果は、報告によりさまざまであり明確ではありません。
治療法は、損傷がMCLに限局しているか、他の靭帯損傷と複合しているか、その位置(靭帯の脛骨側か大腿骨側か)、後方構造への関与などによって異なります。
MRI画像では、損傷の正確な位置を特定することができ、治療方針を決定する上で非常に重要です。[ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]
そのため、複数の靭帯が関与している損傷では、急性期に再建または補強が必要になることがあります。
複合的な損傷を認識しなかったり、膝の内側の治癒が不完全であったりすると、慢性的な回旋不安定性が続き、機能的な限界が生じます。特に、後斜靱帯複合体(POL)が関与している場合はなおさらです。
グレードIIIのMCL損傷を非手術で治療したところ、良好な結果が得られたと報告している論文もありますが、その結果はグレードIやIIの断裂ほど安定していません。
グレードIII単独損傷のほとんどは、大腿骨側の損傷がほとんどであり、必ずしも手術は必要ありません。
手術が必要かどうかを確認する重要なテストは、後斜角靱帯(POL)と後方関節包が損傷しているかどうかを確認することです。 [ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]
表層と深層の両方のMCLが完全に損傷している場合も、手術での治療が適しています。 [ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]
また、膝伸展位での外反ストレステストで不安定なGrade IIIの損傷も、手術を推奨するカテゴリーに入ります。 [ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]
・後斜角靱帯(POL)と後方関節包が損傷している
・表層と深層の両方のMCLが完全に損傷している
・膝伸展位での外反ストレステストで不安定
リハビリを行う意義
内側側副靭帯の単独損傷の場合、手術が必要になることはほとんどありません。
内側側副靭帯は、関節外の靭帯のため血流が豊富であり、非常に活発な治癒能力を持っています。[ MCL Injuries of the Knee: Current Concepts Review ]
非手術的治療を行っても不安定さが残る場合や、ACLやPCLの再建後も不安定さが続く場合には、MCL断裂を外科的に修復したり、再建したりすることがあります。[Management of medial collateral ligament injuries in the knee]
ほとんどのMCL単独損傷は、装具やギプスを用いて非手術で治療することができます。
MCL損傷に対するリハビリテーションの意義は以下の通りです。[The management of injuries to the medial side of the knee]
- 腫れをコントロールする
- 負傷後数時間から数日の間に、大腿四頭筋の活性化を開始する
- 可能な限り早期に膝関節の可動域を回復させる
グレード Iの治療法
グレードIの傷害に対する治療は、主に非手術的なものです。
最初の48時間は、PRICE を行います。一般的に、MCLの部分断裂の場合は、一時的に固定し、痛みを抑えるために松葉杖を使用します。
痛みや腫れが治まってから数日以内に、等尺性、等張性、最終的には等速性の漸進的な抵抗運動を開始します。
できるだけ早く体重をかけることが推奨されますが、その速度は痛みのレベルに応じて決定されます。[Isolated medial collateral ligament tears]
グレード II/IIIの治療法
グレードII/IIIの損傷治療では、靭帯断裂部分を保護し、これ以上断裂が広がらないようにすること重要です。また、損傷部分が適切に治癒するように、損傷後3~4週間までは自己の治癒能力に大きなストレスをかけないようにしなければなりません。
グレードIIIの損傷に対する治療は、その損傷が単独であるか、他の靭帯損傷と組み合わさっているかによって異なります。 [The management of injuries to the medial side of the knee]
グレードIIIのMCL損傷と他の損傷(例えば、ACL断裂)が組み合わさった場合、一般的な治療方針は、まずMCL損傷のリハビリテーションを行い、MCL損傷が治癒したことを示す臨床的または客観的評価ができれば次のステップ(ACL再建)に進みます。
順調に回復すれば損傷から5~7週間後に、ACL再建手術を受けることが出来ます。 [The management of injuries to the medial side of the knee]
リハビリを段階的に行う
手術をしない治療の場合のリハビリは、4つの段階に分けられます。
第1段階(1週間から2週間)
2時間ごとに15分間氷(アイスパック) を当てて膝の腫れを抑えます(最初の2日間)。
残りの日数は、1日3回までアイスパックで冷やす回数を減らすことができます。
アイスパックでの冷却は症状に応じて適宜使用してください。
最初のうちは松葉杖を使う必要があります。それは、早期に体重かけることが推奨されているからです。
松葉杖への依存度は痛みに応じて徐々に減らすことができます。その後、松葉杖を1本にし、正常な歩行ができるようになってから松葉杖の使用をやめていきます。
この段階のもう一つの目的は、膝を0°から90°までまっすぐにしたり曲げたりする能力を維持することです。
膝の可動域を確保するためには、完全伸展を重視し、許容範囲内で屈曲を進めていくことが重要です。
同時にハムストリングス、大腿四頭筋、ふくらはぎの筋肉(特に)の痛みのないストレッチをおこないます。
最後に治療用のエクササイズを行います。(痛みが許す限り)静的な強化運動から始めることが推奨されています。
また、患者さんが我慢できるようになったら、固定式自転車に乗って膝の可動域を広げることが推奨されています。そうすることで、治癒が早まります。
固定式自転車に乗る時間と強度は、耐えられる範囲で増やしていきます。もちろん、患者さんはそれぞれ異なりますし、無理そうであれば必ずしもこの訓練は行う必要はありません。[The management of injuries to the medial side of the knee]
第一段階で重要なのは、すべての痛みを伴う活動を休止し(必要に応じて松葉杖を使用)、MCLを十分に保護することです(安定化した膝装具を着用)。
第2段階(3週間から4週間)
可動域の目標は第1段階と同じです。第2段階では20分間の自転車運動に進みます。
自転車の強度は許容できる範囲で増やしていきます。自転車は治癒を促進し、筋力を回復させ、有酸素運動によるコンディショニングを維持します。
この時点ではレッグカール、レッグプレス(ダブルレッグ)などのエクササイズを行うことができます。
念のため、3週間ごとに医師の診察を受け、靭帯の治癒を確認する必要があります。[The management of injuries to the medial side of the knee]
第3段階(5週間から6週間)
第3段階は5週目からスタートします。
この段階での主な目標は負傷した膝に完全な体重負荷をかけること。
完全に体重をかけて歩くことができ、歩行がスムーズに行われれば、装具の使用を中止します。さらに、この時点で可動域が完全に達成され、負傷していない方の膝と同等になっている必要があります。
運動は、第2段階と同じです。
この段階では、バランス感覚とプロプリオセプターの訓練を開始することができます。
必要に応じて、ストレスX線撮影を行うことができます。[The management of injuries to the medial side of the knee ]
第4段階(7週間から)
ここまでくれば、歩行時の装具の装着は必要ありません。
ただし、競技シーズンを通して、少なくとも3ヶ月間は装具を装着して競技することが推奨されています。
スポーツに復帰しても、 アイスパック は練習の後に継続して行う必要があります。
第4段階に来て初めてスポーツに特化した動きや日常的な動きにより焦点を当てています。
強化エクササイズの強度を上げ、両脚のエクササイズだけでなく片脚のエクササイズも取り入れる必要があります。
また、自分が心地よいと思われるペースでランニングを再開することができます(急に方向転換は行わない)。 [The management of injuries to the medial side of the knee ]
まとめ
内側側副靭帯(MCL)損傷とは、膝の内側にある靭帯が伸びたり、部分的に切れたり、完全に切れたりすることです。
この損傷は3つのグレードに分類されます。I、II、IIIの3段階に分類されます。カテゴリーは、膝関節の痛みや機能低下の度合いによって異なります。
MCLを損傷した場合、段階的にリハビリを進めていきますが、最も重要なのはリハビリ期間を通して無理をしないということです。痛みがある時には安静にすることが大切です。安静にすることで、MCLは自己回復します。