階段を降りるとき、そして上に戻るときの膝の痛みは、本当に厄介なものです。
階段を上り下りすると、膝関節と膝蓋骨(膝の皿)に大きな力がかかります。
階段を上る:体重の2.5倍
階段を下りる:体重の3.5倍
意識していないかもしれませんが、階段を上り下りする時には、筋力、可動性、膝の柔軟性、バランスとコントロールをうまいこと組み合わせて行動しています。階段昇降には絶妙な技が必要なのです。
2足歩行ロボットの性能の進化も著しいものがあると思いますが、この階段昇降に限っては人並みにできるわけではないようです。
もしも、膝関節が何らかの原因で痛みを感じ、膝の腫れを伴ったりすると、階段を上り下りすることが非常に困難な動作となります。さらに、痛みや腫れを我慢して階段昇降を続けていると、膝の症状は見る見る悪化していきます。
そのため、膝に症状を抱えている人が階段を上り下りすることに対して、不安や嫌悪感を感じるのも不思議ではありません。むしろ階段を降りるときに膝を通る力(体重の3.5倍)を考えると、多くの人が痛みを訴えるのは当然のことです。
例)体重60㎏の人が階段を降りるときには、わずか12cm2の接触面積を持つ膝蓋骨(膝の皿)を210㎏の力が通過します。
この章では、初めに階段の上り下りのやり方を解説します。その後に自分の膝の状態を把握し、どのようなエクササイズが必要かを解説します。
階段の上り下り
階段を上り下りする方法は大きく2つの方法に分かれます。
一つは1足1段と呼ばれるもので、1段1段をスイスイと上り下りする方法です。健康な人はみんなこのやり方ですね。
もう一つは2足1段と呼ばれるもので、1段を進むのに1回1回、足を揃える方法です。一歩ずつ進むだけでなく、どちらの足を先に動かすかを考えることも大事です。階段を上るのか降りるのかによっても違ってきます。
下の写真にもあるように、上る時は痛くないほうの足を先に出します。
反対に下りるときは、痛いほうの足を先に出します。(下の画像では左足が痛いほうです)
上り:健康な足→痛い足
下り:痛い足→健康な足
この順序で階段を上り下りすると、膝の曲がりが少なくなり、余計な力を入れずに済みます。膝が痛い状態で無理に力を入れようとすると、膝がカクっと抜けるような感じになり階段を下りるときには特に危険です。
杖を使用した階段の上り下り
階段に手すりがない場合や、片側にしかない場合は、杖を使用すると便利です。杖を使うことで、膝を通る圧力を減らすことができます。実際、杖を使用することで膝の内側を通る力を15~45%減らすことができると言われています。
足の動かし方は2足1段での階段昇降と同じです。
(上り;健側→患側)(下り;患側→健側)
しかし、これに杖が加わると少し難しくなります。杖を動かすタイミングを考えましょう。
まず、杖は健側(痛みがないほうの足側)に持ちます。
上り:杖→良いほうの足(痛みの少ない)→悪いほうの足
まず杖を階段の1段目に載せます。その後に健側の足を杖の横に持っていき、体勢を整えて、患側の足を階段の1段目に持ち上げます。
これを繰り返して上ります。
下り:杖→悪いほうの足→良いほうの足(痛みの少ない)
上りと違って、最初は怖いと思いますが、まず初めに杖を1段下の段に置きます。その後、良いほうの足と同じ方に持った杖で体を支えながら悪いほうの足をあまり曲げることなく下におろします。(曲げすぎると、膝折れをして危険です)その後に良いほうの足を下の段に下ろします。
手すりがある人は杖と反対側の手で手すりを持ちながら降りるようにしましょう。
上り:杖→良いほうの足(痛みの少ない)→悪いほうの足
下り:杖→悪いほうの足→良いほうの足(痛みの少ない)
階段を上り下りする前に
膝を使わないと、どんどん固くなり血流も悪くなり締め付けられるような感じになります。この現象は膝を怪我をした後や、変形性膝関節症の患者さんによく見られます。
車にオイルが必要なのと同じように、私たちの関節にも潤滑油が必要です。膝が動くと、関節の潤滑に役立つ液体(滑液)が関節内に送り出されます。私たちがじっと座っていたり、横になっていたりすると、「天然の油」が乾いてしまい、立ち上がったときに膝がこわばって痛くなったり、階段や段差ではさらに状態が悪く感じたりします。
朝起きて一歩を踏み出す時や、長時間座ったり横になったりした後の一歩を踏み出す時に強い痛みを感じることがあります。これは、膝の関節が「乾燥」してしまって、硬くなっているからです。
階段に向かう前に1~2分だけ膝を曲げたり伸ばしたりするだけで、膝の痛みが楽に感じるようになります。
こうすることで、膝関節に潤滑油が供給され、階段でも膝が自由に動けるようになります。そのため、このような準備運動(膝の曲げ伸ばし)は非常に重要です。
膝の筋力を鍛える
膝を支える筋肉が弱っていると、階段で膝を痛める可能性が高くなります。筋肉がきちんと膝を支えることができなければ、より多くの力(上り:体重の2.5倍、下り:体重の3.5倍)が膝の骨や膝蓋骨(膝の皿)を通ることになり、それが膝の状態と痛みに対する負のサイクルを作ります。
ここで、考えてみましょう。
あなたはどのカテゴリーに入りますか?自分のカテゴリーに適した筋力強化をすることが大切です。
階段を上る | 階段を下りる | |
すぐに痛くなる | 瞬発力・可動域 | 瞬発力 |
時間がたつにつれ痛くなる | 持久力・可動域 | 持久力 |
瞬発力:どれだけ早く、強い筋肉の収縮を行うことができるか
持久力:どのくらいの時間、筋力を発揮し続けることが出来るか
可動域:膝の曲げ伸ばしの範囲
瞬発力を鍛える
階段での膝の痛みを軽減する、簡単な機能的エクササイズです。
椅子に座り、両足を床に平らにし、両腕を体の前か横に出します。
頭と肩を体の前方に移動し、足に力を入れて体を押し下げてまっすぐ立ち上がります。
膝を曲げて腰を下げお尻を椅子に下ろします
あなたが1分で何レップを行うことができるか試してみてください
レベルダウン:腕のある椅子を使用します。椅子の腕を両手で押し下げながら立ち上がります。足に力が入っていることを意識してください。
レベルアップ: 低い椅子を使う
: スピードを上げる
: 座る時にドスンと座るのではなく、椅子に少しだけお尻がついたら、すぐにまっすぐ立ち上がってください。
慣れてきたら、1分間でできる回数を増やしていきましょう。
持久力を鍛える
階段の段差に向かって立つか、低い台の下で両足を合わせて立ちます。
良い方の足を台にのせて、次に悪い足を同じ台の上に持ってきます。
悪い足で下りて後退して、良い足を下ろします。
これを1分間繰り返します。
レベルダウン: 手すりや杖を使用します
レベルアップ: スピードを上げる
可動域を上げる
階段を普通に上るためには、膝がある程度曲がる必要があります。一般的に、階段を普通に上る(段差10-15㎝)ためには、膝は90~110度曲げる必要があります。段差が高ければ高いほど、膝を曲げる角度が大きくなります。
膝を伸ばすことも同様に大事です。曲がった膝で体重を支えようとすると、本来かかる力よりもさらに大きな力を膝で受けなければなりません。
膝の屈曲角度が110度以下であったり、膝を十分に伸展させることができない場合は、階段で膝を痛めやすく、階段を普通に使用することは難しいかもしれません。そのため、膝の可動域を改善することは本当に重要なことなのです。膝がまっすぐに伸びて正座ができるようになる必要はありません。日常生活で必要な膝の可動域は0~110度です。0~110度を目指しましょう。
膝を曲げる訓練
仰向けに寝て良いほうの膝を曲げて悪いほうの足をまっすぐにします。
かかとをお尻に向かってスライドさせ、膝をできる限り曲げます。
3秒間キープし、足をまっすぐ下にスライドさせます。
20~30回繰り返し、反対の足も同様に行います。
膝を伸ばす訓練
うつ伏せで寝た状態で悪い方の膝を曲げ、さらに膝上に畳んだタオルを挿入します。良いほうの足はまっすぐに伸ばします。
堅くなった膝をゆっくりとまっすぐにして、ベッドの端から出して宙に浮いた状態とします。
力を抜いて、重力に任せて徐々に膝を下げていき、膝がまっすぐになるようにイメージします。
この体勢を30秒キープし、膝を上下に数回曲げて緩めてから10回繰り返します。
あきらめない
膝の筋肉が強くなり可動域が良くなると、階段の上り下りが楽になることに気づくはずです。階段での膝の痛みが少なくなったり、早く上がれるようになったり、手すりに頼ることが少なくなったりするかもしれません。
自分の膝が大きく変化したことに気づくには、4週間ほどかかるかもしれません。その後、数か月の間、なだらかに改善をしていきます。
可動域が良くなり、筋肉がつくスピードはゆっくりですが、痛みは確実に改善していきますので、決してあきらめないでください。