前十字、ってよく聞くんですけど、切れるとヤバイんですか?
えー、手術しなければいけない膝の怪我No.1です。
必ず手術?ですか。。
個人的には手術したほうがいいと思います。
でも、世界にはリハビリだけで治そうと頑張っている施設があるのは事実です。
手術せずに治るのであれば、そっちがいいです!
それは、そうですよね。私もそう思います。
でも、保証が出来ないというか、リスクが大きいというか。。。
じゃあ、何で手術しないといけないんですか?
手術のメリットを教えてください!
えーっと、手術したほうがあなたの将来のためになるからです。
そうなんですね!
(何が将来のためになるんだろう。。。)
前十字靭帯損傷はスポーツを頑張ってやっている中高校生に多い膝の怪我です。
中でも、チームの中心選手で体を張って頑張っている人に起こりやすい傾向があることも分かっています。
この、前十字靭帯が何をしているかというと、急激なストップモーションやターン、段差を駆け降りる時に膝がぐらつかないように動きを制御する役割を担っています。
それだけ? と思うかもしれませんが、止まる・方向転換・階段を下りる動作は簡単ではありません。
スポーツは勿論ですが、日常生活でも前十字靭帯がないと膝の不安定性を感じます。
そのため、手術する・しないにかかわらず、膝の不安定性を補うための筋力強化が必要になります。
この章では前十字靭帯の解剖、手術、リハビリ、復帰時期を一通り説明し最後に私が名医と思っている四天王と呼ばれている先生方について話します。
始める前に一つだけ触れておきます。
前十字靭帯に関する知見はセンシティブな部分もあるため、今までわかっていることを中心に書きたいと思います。
そのため、最新のデータはあえて含んでいません。
前十字靭帯についての知見は毎週のようにアップデートされます。
アップデートされる数が多すぎて何が正しいのかを見誤るほどです。
それに、特にアメリカでは企業との癒着がひどく、有名ジャーナル中の論文には企業の息がかかっていることがあり、利益相反の有無をしっかり見る必要があります。
日本は企業との癒着については非常に厳しい国のため、企業の意図する方向に論文を作成する人はいないです(そう強く思っています)。
解剖
前十字靭帯(上の画像のACL)は大腿骨と脛骨を連結させている関節の中にある靭帯です。
脛骨の真ん中やや内側から大腿骨外側顆部(上の画像のLFC)に付着しています。
膝の靭帯は関節の中に2本(ACL:前十字靭帯、PCL:後十字靭帯)、関節の外に2本(内側側副靭帯と外側側副靭帯)存在します。
実は前十字靭帯や後十字靭帯が関節内にあるということが重要で、これは治療にも直結してきます。
膝の中はほぼ真空状態で酸素濃度も待機中と比べると低い状態です。
おまけに、関節の中の血管は限られており怪我をしてら治りにくいという特性を持っています。
大腿骨付着部
これは大腿骨を縦割した像です。
大腿骨付着部はこのように三日月のような形をしています。
天井部分に当たるのがresident’s ridgeとよばれる骨の隆起です。
この骨の隆起に近い部分(斜線部分)がdirect insertionといって人体と骨が強く結合している部分です。
ちなみに、その下の部分はindirect insertionといって骨に結合はしているけど、フワッと結合している部分です。
さらに、前十字靭帯の実質部は2本(~3本)で構成されていると言われています。
短いしめ縄のように捻りを持ちながら大腿骨に付着しています。
実質部が2本に分かれているので付着部も2つに分けることが出来ます。
下の図のAMとPL部分です。
AMは前内側繊維と言い、PLは後外側繊維と言います。
脛骨付着部
大腿骨とは反対サイドにある付着部です。
少しわかりづらいですが、上が前方・下が後方になります。
前十字靭帯(ACL)は脛骨の中心より前方内側に付着しています。
大腿骨と同様に脛骨にもAMとPL線維が付着しています。
大腿骨がdirect insertionとindirect insertionという分け方が出来たのと同じように、脛骨も分けることが出来ます。
大腿骨と少し違うのはAM線維の前内側が骨と強く結合している部分になります。
実質部
前記したように前十字靭帯は2本の線維(前内側線維:AM、と後外側線維:PL)に分類されます。
矢状面で見た時の角度は43-57度
関節内の長さは25-45㎜
です。
手術
前十字靭帯の手術は全国で受けることが出来ます。
しかし、膝専門の医師がいる病院に限ります。
膝専門の医師がいない場合でも、大学やその他の医療機関と連携して前十字靭帯手術ができる医師を派遣して、地域の需要を補っています。
手術のできる医師が手術をするので、「手術失敗」ということはあり得ません。
あとで述べますが、手術失敗と再断裂は意味合いが全く異なるので初めに触れておきます。
手術はこのように関節鏡を使用して行います。
関節鏡を使いながら、修復術ではなく、再建術を行います。
修復と再建の違いは「縫い合わせる」か「入れ替える」かです。
どこから入れ替える材料を取ってくるかというと、これまた、術者の好みや、怪我をしたスポーツの種類にもよりますが、色々とあるんです。
関節鏡での再建手術ですが、移植腱は手術を受ける本人から採取します。
移植腱の採取は関節鏡は使いません。
・ハムストリング腱
・膝蓋腱
・大腿四頭筋腱
今の主流を大きく分けるとこんな感じです。
海外ではこれに死体膝からとった腱が含まれますが、日本の場合はこの3種類が多いと思います。
移植腱を取ったら、それを靭帯の代わりとして関節の中に埋め込む必要があります。
詳細は省きますが、上で説明した解剖を再現するように手術が行われます。
これは、穴を2つ開けるやり方です。
前十字靭帯は2本の線維の塊からできているのでその2本を別々に作ってしまおうというコンセプトです。
海外ではあまりやられません。(難しいからです。手術の繊細さは日本人の方が圧倒的に上です)
海外ではこの1つ穴が一般的です。
次に脛骨も穴をあけていきます。
ここでも、同様に解剖通りに穴を2つ開けます。
大腿骨の穴が1個の場合は当然、脛骨も1個の穴となります。
この、2つ穴がいいか、1つ穴で十分かの議論の決着はついていません。
ただし、臨床成績にほとんど差は無いようです。
2つ穴は日本人の職人気質が影響しているのかもしれませんね。
リハビリ
リハビリの最大の目的は、手術する・手術しないにかかわらず、対象とするスポーツや希望するパフォーマンスレベルに到達するというものです。
ここで説明するリハビリは手術後(前十字靭帯再建術後)を想定しています。
術後のリハビリは細かいやり方は各病院で違うと思います。
しかし、リハビリの進め方はほとんど一緒です。(学会で他大学・他病院の報告を聞く限り)
術後~7日:装具で固定し足を伸ばした状態を保つ、足をついて歩かない
8日~14日:理学療法士が膝の曲げ伸ばし訓練を開始する、足をついて歩かない
15日~21日:少しずつ足をついて歩き始める
22日~28日:全体重を乗せて歩き始める
3か月:ジョギング
5か月:ジャンプ動作
注)半月板の手術も一緒に受けた場合は、プラス1週で数えなおしてください。最初の術後~7日が術後~14日に変わります。 その後、1週間ずつずれていきます。
病院で行うリハビリは非常に大事なので理学療法士と良好な関係を築いてください。
これって、意外と大事なことなんです。
復帰時期
スポーツ復帰を成功させるためには、競技や再受傷のリスクが異なるため、複数の要因を考慮する必要があります。
スポーツのレベルによっては、自分の思い描くパフォーマンスレベルに到達するために、高頻度・高回数で多くのトレーニングを必要とする人もいます。
また、同じレベルのスポーツに復帰することが目標ではなく、スポーツレベルを落として復帰を目指す人もいます。
そのため、スポーツ復帰が成功するかどうかは、患者さんによって異なります。
さらに、ピボット動作をするかしないか、接触プレーの多いスポーツかどうかといったスポーツの側面によっても、再受傷のリスクには大きな違いがあります。
人によって目標は様々なのでこのくらいしか言えません。
と、ここで終わると、このブログを書いている意味がなくなるので、他の章であらためて書かせていただこうと思います。
なぜなら、スポーツ復帰時期については、伝えるべき内容のボリュームがありすぎるからです。
JOSKAS 四天王
整形外科医で膝・スポーツを専門にしている人であれば、このJOSKAS(日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会)という学会のことはみんな知っています。
日本で膝スポーツを専門でやろうとする者にとってこの学会は避けて通れません。
そんな学会の中に四天王が存在します。
この四天王が一般の人が呼ぶ名医に該当するかどうかは分かりませんけど、少なくとも私は名医だと思っているし、日本の膝スポーツ科学を引っ張て来られたという意味で、最大の敬意を払うべきだとも思っています。
名前を直接出すと問題がありますので、興味のある人は主治医の先生に尋ねるのもいいかもですね。
もしかしたら、名前を教えてくれるかもしれません。