原因:膝裏の滑液包の摩擦や圧迫、筋肉の硬さ
症状:嚢胞が大きくなると、膝裏に痛みや張りが出現
治療:根本的に治そうと思えば手術が効果的
ベーカー嚢胞は、膝の後ろの腫れ、痛み、張りを原因に外来受診する患者さんの一般的な原因です。
膝の後ろには、筋肉(腓腹筋と半膜様筋)と骨の摩擦を減らすための小さな液体で満たされた袋(滑液包)があります。
1877年にベイカー医師によって、この滑液包の炎症が初めて報告されました。そのため、この滑液包に水が溜まって大きくなる病態をベイカー嚢胞(Baker’s cyst)と名付けられました。
ベイカー嚢胞は40歳以上に多く、男性よりも女性(1:4)に多い傾向があります。
ここでは、ベイカーズ嚢胞の原因とおもな症状、治療法、炎症を予防するための方法について見ていきます。
ベーカー嚢胞の原因は?
ベーカー嚢胞は、女性で、膝に水がたまった人、さらに滑膜ヒダがある人に多く発生すると言われています。
膝の軟骨の摩耗が膝の水の増加につながる変形性関節症ではよく見かける疾患です。
実際には、変形性膝関節症患者の40~50%でベーカー嚢胞を認めます。
過剰な水(関節液)は、関節内から後方に向かって膝裏の小さな袋(半膜様筋滑液包)に入り込みます。
関節液が滑液包に入ると、滑液包が腫れて滑液包炎になります。さらに厄介なことに、この袋への通り道はチェックバルブ機能となっており、一方通行です。
ベーカー嚢胞の症状は?
ベーカー嚢胞で最初に感じる症状は、膝の後ろに小さな膨らみがあるという気にならない程度の違和感です。
軽い腫れがあるだけで、たいていの場合はそれほど気になることがありません。
しかし、嚢胞が大きくなると(直径3cm以上)、膝の裏に痛みが出たり、特に膝を曲げたり伸ばしたりするときの膝裏の“張り”が出現します。
ベーカー嚢胞に伴う痛みは、活動しているときや長時間立っているときに悪化する傾向があり、安静にすると緩和されます。
ベーカー嚢胞の診断
Mehmet Eurasian J Med 2019より改変(青矢印:ベーカー嚢胞)
ベーカー嚢胞を疑うのは、整形外科医であれば容易です。
疑わしい場合は、超音波検査やMRI検査を行うことで、ベーカー嚢胞の診断を確定することができます。
嚢胞が破裂したときの痛みは深部静脈血栓症(DVT)の症状によく似ているため注意が必要です。
ふくらはぎの痛み、腫れ、発赤、熱感を伴う場合は、すぐに医師の診察を受けてください。
治療
ベーカー嚢胞の治療には多くの選択肢がありますが、その根本的な原因と関連する状態によって異なります。嚢胞の自然治癒、または自然に症状の軽減が得られる場合もあります。
ベーカー嚢胞のサイズが大きくなり、症状(膝裏の痛みや張り)を呈するようになれば、袋にたまった液体を抜くことが出来ます。また、液体を抜くだけでなくステロイドの注射を同時に行うこともあります。
ベーカー嚢胞穿刺排液+関節内ステロイド注射
変形性膝関節症と症状のあるベーカー嚢胞を持つ患者17名に、嚢胞を吸引した後、関節内にコルチコステロイドを注入した研究です。4週間後の追跡調査では、膝の痛みと腫れが有意に減少し、嚢胞の大きさが有意に減少しました。袋の壁の厚さは43%の患者で有意に減少し、66%の患者で可動域の改善が認められています。嚢胞サイズの減少は可動域の増加と関連していました。
ベーカー嚢胞穿刺排液+ステロイドの直接注射
コルチコステロイドをベーカー嚢胞に直接注入します。6ヶ月後の経過観察では、嚢胞の体積は再発前と比較して減少し、膝の痛みは全体的に減少することが分かっています。
再発しやすいベーカー嚢胞
ベーカー嚢胞穿刺排液+ステロイドの直接注射を行っても再発しやすいタイプもありあます。
それは、MRI診断時にベーカー嚢胞が一つの大きな袋でできていない、多数の部屋に分かれているタイプです。
多数の隔壁を有する嚢胞は、隔壁のために吸引やステロイド注入が困難な場合があり、これが治療成績に影響を与える可能性があります。治療前に嚢胞を分類しておくことが治療の指針となると考えられる。このような嚢胞では手術的治療が優先されることがあります。
手術治療
症状のあるベーカー嚢胞の外科的介入の第一の目標は、基礎となる関節内の痛みを解決し、慢性的な滲出液を減少させることです。つまり、膝関節内に多量の液体を排出する滑膜炎の治療も一緒にやってしまおうというものです。
滑膜炎を有している患者さんに対して滑膜切除を行わなかった場合、術後1~3年経過した16例のうち、11例に嚢胞が残存していたとの報告もあるため、滑膜炎が重度の患者さんでは滑膜切除も同時に行うことが推奨されています。
現在主流となっている低侵襲手術(内視鏡手術)は術後の痛みも少なく、術後早期に歩行もできるという利点があります。退院時期も早いです。
この手術は、関節内と嚢胞をつなぐ一方通行の道(チェックバルブ機構)を広げて対面交通させてやろうという手術です。
Alyssa Orthopedics 2014より
青矢印:関節内とベーカー嚢胞の交通(一方通行部分)
この手術の成績は大変良好ですが、サイズが縮小し、完全に消失するには1年程度を要します。
患者さんの不安(手術したのに治ってない)を解消するためにも、術前にしっかり説明してあげることが大切です。
再発防止
ベーカー嚢胞は、膝関節内の水の貯留が継続的にみられる人において頻繁に再発します。
膝の筋力トレーニングと膝のストレッチをすることで、嚢胞が再発しにくくする効果があります。
大腿四頭筋の筋力が強くなれば膝関節内にたまる水を減少させ、ハムストリングのストレッチをすることで筋肉の間にある袋の摩擦力を低減させることが出来ます。
考えられる合併症
まれですが、ベーカー嚢胞が破裂することがあります。嚢胞の中の液体は、膝裏からふくらはぎのエリアに漏れてきます。
破裂した液体は徐々に体内に再吸収されますが、これには1ヶ月ほどかかることがあります。
嚢胞が破裂した後の不快感や痛みは深部静脈血栓症に似た症状を呈することがあるため、ベーカー嚢胞のある患者さんでふくらはぎの痛みや不快感を認めれば自己判断せずに病院に行くことをお勧めします。
ベーカー嚢胞の名前の由来は?
ベーカー嚢胞の名前は、この病気について最初に報告した外科医、ウィリアム・モーラント・ベイカー医師(1838-1896)に由来しています。彼はイギリスの医師であり、外科医でした。ベーカー嚢胞は、液体で満たされた嚢胞で膝窩嚢胞としても知られています。
ベーカー嚢胞は危険ですか?
ベーカー嚢胞は不快なものですが、一般的に危険なものではありません。
嚢胞は、膝の中の余分な水分が膝裏にある小さな嚢の中に押し出されることで起こります。
ベーカー嚢胞が破裂する原因は何ですか?
過度の腫れや圧迫により、ベーカー嚢胞が破裂することがあります。
ベーカー嚢胞が破裂すると、液体がふくらはぎにしみ込み、ふくらはぎに違和感や痛みを引き起こします。また、ふくらはぎが赤く腫れることもあります。