原因:幼少期の膝蓋骨癒合異常
症状:98%は無症状。レントゲンでたまたま見つかることが多い
治療:ほとんどの場合は手術なしで治療。手術しても数ヶ月以内に完全回復
二分膝蓋骨とは、膝蓋骨(お皿の骨)が2つの別々の骨で構成されている状態で、幼少期に癒合に失敗したものです。
人口の1~2%にしか発症しない稀な疾患です。
お皿に痛みを自覚しない限り、自分が二分膝蓋骨と気づかずに生活を送ることになります。
膝蓋骨以外の場所が痛くて、レントゲンを撮ったら、たまたま発見されるということも珍しくありません。
しかし、時々、特にしゃがんだ時に多いのですが、膝の前側に痛みが出たり、痛みで膝をしっかり曲げられないこともあります。
ここでは、二分膝蓋骨の原因は何なのか、どのように分類されているのか、どのような症状が出るのか、どのように治療するのかを見ていきたいと思います。
二分膝蓋骨の原因は?
膝蓋骨は三角形の形をした骨です。
驚くかもしれませんが、生まれた時には、膝の前面(膝蓋骨がある場所)には骨はありません。
つまり、生まれたばかりの赤ちゃんに膝蓋骨はないということになります。
赤ちゃんの膝蓋骨は骨ではなく、軟骨と血管で構成されています。幼児期には、成長に伴って膝蓋軟骨が徐々に膨らんでいきます。
4歳頃になると、軟骨が骨化し始め、小さな骨が部分的に形成されます。これらの小さな骨は徐々に癒合し、12歳までに1つの膝蓋骨が形成されます。
骨が癒合していく過程で、骨が完全に癒合せずに、大きな骨片と小さな骨片に分かれてしまうことがあります。
これが二分膝蓋骨と呼ばれるもので、なぜこのようなことが起こるのかは今のところ分かっていません。
2つの骨は癒合せずに、線維軟骨組織によって接続されています。
二分膝蓋骨は男性に多く、男女比は9:1です。
二分膝蓋骨を分類する
二分膝蓋骨は、1921年にSaupeによって初めて分類されます。彼は骨片の位置を利用して、この状態を3つのタイプに分類しました。
Classification of bipartite patella according to Saupe (1921)
Type I: 膝蓋骨の下側(底部)に骨片があります。発生率は約5%です。
Type II: 膝蓋骨の外側に骨片があります。発生率は約20%です。
Type III: 膝蓋骨の上側(上側、外側)部分に骨片があります。発生率は約75%です。
お分かりのように、圧倒的に多いのは、膝蓋骨の上部、外側に小骨片をもつType IIIです。
40~50%の確率でもう一方の膝にも二分膝蓋骨を認めます。
二分膝蓋骨の症状
二分膝蓋骨の約98%の人は完全に無症状です。
これは、膝蓋骨が完全に癒合していないことによって起こる違和感のようなものがないからです。膝蓋骨以外の場所が痛くて、レントゲンを撮ったら、たまたま発見されるというパターンが多いように思います。
しかし、2%のケースで、痛みと伴に表在化します。
これは骨と骨の間を接続している線維軟骨組織が損傷したり、炎症を起こすことで起こります。
転倒して膝の前面を強打したり、膝に反復的な強い負荷(スポーツのやりすぎなど)がかかったりすることで起こります。
一般的に原因となる活動は、スキー・バスケットボール・バレーボールなどのように、膝を曲げたり、跳んだり、しゃがんだりすることが繰り返されるものです。
二分膝蓋骨の人が経験する症状は以下の通りです。
- 痛み: 大抵の場合は、膝の外側にあります。スクワット動作など大きな力が膝蓋骨を何度も通ることで痛みが起こります。
- 圧痛点: 小さい骨の部分を押すと痛みがでます。
- 膝の腫れ: 局所的に腫れる程度です
- 不安定性: 痛みがある時は膝折れしやすくなります
- 骨のふくらみ: 皮膚表面から、わずかに隆起した骨の一部を確認できることもあります。
- 大きい膝蓋骨: 通常の膝蓋骨よりも若干サイズが大きめです。
二分膝蓋骨の診断
膝のレントゲンやMRIを取ることで診断は容易にできます。
膝蓋骨の癒合していない部分がはっきりと見えます。
これは線維軟骨組織が骨化に失敗した部分に隙間ができるからです。
救急外来を受診し、整形外科以外の医師がレントゲンを見ると90%以上の確率で骨折と診断されます。
間違って骨折と診断しないように次の点に注意しましょう。
- 骨のエッジが丸い: 膝蓋骨骨折では骨のエッジがギザギザしています。
- 場所: 膝蓋骨の上外側に隙間があるのは、骨折ではなく二分膝蓋骨の特徴です。
- 両側性: 両膝のレントゲンで似たような所見が見られる場合は、骨折ではなく二分膝蓋骨である可能性が高いです。
Maria CORR 2008より
治療の選択肢
痛みが出てもほとんどの場合は、保存的治療、つまり、手術なしで治療することが多いです。
二分膝蓋骨の治療は通常、以下のように行われます。
安静
症状を悪化させるような活動は一旦、すべて休止することが大切です。
炎症を起こした場所が治るまでには時間が必要です。
膝のサポーター
もう一つは、膝のサポーターを装着して膝蓋骨に負荷をかけないようにし、膝の上外側を通過する力を減らすことです。
ステロイド注射
痛みや炎症を抑えるために、局所麻酔薬にコルチコステロイドを混ぜた注射をすることがあります。
注射直後から劇的に痛みが取れますが、効果は限定的です。
注射をすれば治るというものでもありません。
内服薬
NSAIDsなどの抗炎症薬を内服することで、膝の痛みや炎症を抑えることができます。
理学療法
理学療法は、痛みや炎症を抑えたり、膝周りの筋力低下に対処したりするのにも役立ちます。
炎症を軽減し、治癒を促進するために超音波を使用することもあります。
症状は通常、これらの治療を行えば、症状は2~3ヶ月で落ち着きます。
しかし、6ヶ月以上痛みが続く場合は、手術が必要になるケースもあります。
手術
二分膝蓋骨の手術には3つの選択肢があります。
- 骨片の切除: 小さい方の骨片を切除する方法です。これは最も一般的な外科的治療法です
- 骨癒合術: 骨片を保持するためにネジを挿入します(骨折に準じた手術方法)。この方法は、大きな骨片がある場合に行われることがあります。
- ラテラルリリース: 外側の構造物や外側広筋によって膝蓋骨が過剰に外側へ引っ張られる場合に行われます。こうすることで、膝蓋骨が正常の位置で動けるようになり、力の通り道を正常化することが出来ます。
通常、手術から数ヶ月以内に完全回復します。
膝の強度と可動性を取り戻すためには、最初の数ヶ月間は筋力強化とストレッチの両方を行うことが重要です。
無症状の二分膝蓋骨はどうすればいい?
二分膝蓋骨に関連する症状がないのであれば、治療の必要はないので、放っておいた方が良いでしょう。