病態

膝の滑液包炎

膝の滑液包炎とは

原因:滑液包の摩擦・圧迫、筋肉の硬さ、怪我

症状:膝の腫れ、痛み、こわばり

回復までの期間:効果的な治療を行えば、数週間以内に落ち着く

膝関節滑液包炎は、膝周りの滑液包に炎症が生じた場合に発生します。

滑液包とは、こすれ合う構造物表面の摩擦を軽減する小さな液体で満たされた袋です

これは、骨と筋肉がこすれ合うような場所であれば、体中のいたるところに存在します。

滑液包があることで、筋肉は過度の緊張や摩擦にさらされることなく、収縮したり弛緩したりすることができます。

しかし、この滑液包に炎症が起こると痛みや腫れの原因となります。

膝の滑液包炎が良く起こる場所は膝前膝下膝裏膝の側面です。

ここでは、膝滑液包炎の原因と症状を述べた後に、頻度の高い疾患と治療を説明していきます。

滑液包炎(膝)の原因

膝の滑液包炎の一般的な原因としては、以下のようなものがあります。

反復して圧迫を受ける

膝をついたり、しゃがんだりする動作を何度も繰り返すと、滑液包が何度も圧迫されることになります。

滑液包はこのような頻回の衝撃から膝を守るために、過剰な液体を出して膝を守ろうとします。

滑液包が過剰の液体で満たされることで、滑液包炎という病態を作り出します。

反復した摩擦を受ける

滑液包上での繰り返しの摩擦は滑液包炎の原因となります。

サッカーやバスケットボールの様にキックやジャンプを頻回に行うようなスポーツでは負荷のかかる部分の滑液包に炎症を引き起こします。

筋肉の硬さ

物理的な刺激にばかり目が行きがちですが、その原因となる筋肉の硬さも原因の一つです。

子供のような柔らかい筋肉で滑液包炎は起きません。

筋肉が硬くなるとその下にある滑液包を刺激する力が強くなり、滑液包炎を起こしやすくなります。

膝の怪我

スポーツ中の怪我や交通事故など、直接、大きな打撃を滑液包のある部分に受けた場合でも、炎症を起こすことがあります。

膝の腫れ

膝の腫れが強い人や膝に水がたまりやすい人は、滑液包炎を発症するリスクが高くなります。

怪我で膝が腫れた状態の人や、変形性膝関節症や痛風を基礎疾患に持っている人は滑液包炎を起こしやすい状態となっています。

実際、変形性膝関節症の患者さんでは、膝裏のベーカー嚢胞(半腱様筋の滑液包炎)を起こす頻度が高いです。

滑液包炎の症状

膝の滑液包炎の一般的な症状としては、以下のようなものがあります。

局所的な膝の痛み

滑液包炎による膝の痛みは、一般的には、徐々に発症します。

針を刺すような鋭い痛みではなく、ズッキンズッキンと膝に響くような痛みを生じます。

膝の腫れ

滑液包炎を生じる場所によって形状は違います。

明らかに液体がたまっているとわかる状態(ブヨブヨした状態)もあれば、しこりのようなコリコリした感覚を感じることもあります

膝のこわばり

膝が硬くなったような感覚があり、膝を曲げたり、まっすぐにしたりすると痛みを感じることが多いです。

膝の滑液包炎の症状は、良くなったり悪くなったりを繰り返し、場所によって、症状に一貫性がないため、正確に診断することが難しいこともあります。

他の疾患をすべて除外した後に、滑液包炎という診断がなされることもあるくらい、典型的な症状がなく、痛みも人それぞれです。

しかし、どの部位に滑液包炎が起きやすいかということを知っておくのは診断を進める上で非常に重要です。

次は、部位別に滑液包炎を見ていきます。

滑液包炎に多い5つのタイプ

膝の周りには11箇所の滑液包があり、どの場所でも滑液包炎が起こり得ます。

しかし、その中でも起こりやすい場所があります。

滑液包炎に多い、5つのタイプについて説明します。

膝蓋前滑液包炎

Ferdinando J Ultrasound 2015より

膝蓋前滑液包は膝蓋骨の前面、皮膚のすぐ下にあります。

膝蓋前滑液包炎はよりハウスメイド膝として一般的に知られていて、膝の前部に痛みと腫れを引き起こします。

長い時間、カーペットや床の上に膝をついたまま作業することで、膝前面の滑液包に連続的な圧力がかかります。

このため、滑液包が擦れて炎症を起こします。

鵞足炎

Ferdinando J Ultrasound 2015より

鵞足炎は膝の内側から膝裏にかけて発生します。

鵞足滑液包は、内側側副靭帯とハムストリング腱(半腱様筋、薄筋、半膜様筋の結合した)の間に存在します。

鵞足炎は、鵞足の使い過ぎによる発症が多く、ランナーに多い傾向があります。

半膜様筋滑液包炎(ベーカー嚢胞)

Ferdinando J Ultrasound 2015より

半膜様筋滑液包炎は、膝の後ろに痛みや腫れを引き起こし、ベーカー嚢胞として一般的に知られています。

半膜様筋滑液包はハムストリングス腱の一つである半膜様筋と膝の後ろにある腓腹筋との間存在します。

膝裏の滑液包炎は、通常、変形性膝関節症が原因となることが多いです。

膝蓋下滑液包炎

膝蓋下滑液包炎は膝蓋骨直下に発生し、欧米ではClergyman’s knee(聖職者膝)と呼ばれることもあります。

膝蓋下滑液包は2種類あります。そのため、発症する場所も多少異なります。

表在性膝蓋下滑液包:皮膚と膝蓋腱の間にあります。

膝蓋前滑液包炎とその下に続く表在性膝蓋下滑液包炎
Ferdinando J Ultrasound 2015

深在性膝蓋下滑液包:膝蓋腱のさらに奥に位置し、脛骨との間にクッション性を持たせます。

深在性膝蓋下滑液包炎
Ferdinando J Ultrasound 2015

どちらの炎症による腫れも、総じて膝蓋下滑液包炎と呼ばれています。

腸脛靭帯滑液包炎

Ferdinando J Ultrasound 2015より

腸脛靭帯滑液包炎は膝の外側に発生します。

腸脛靭帯滑液包は、膝の外側、腸脛靭帯と大腿骨外側に挟まれるように存在しています。

膝滑液包炎の治療

膝滑液包炎の治療法は、生じる場所によって多少異なりますが、通常は下の組み合わせで治療を行います。

膝滑液包炎の症状は、効果的な治療を行えば、数週間以内に落ち着きます

安静

無理は禁物です。滑液包を圧迫したり、症状を悪化させるような活動は避けましょう。

冷やす

どのような炎症でも総じて言えるこですが、“炎症は冷やせ”です。

定期的に冷却することで痛みや腫れを軽減することができます。

内服

抗炎症薬(NSAIDs)を服用することで膝の痛みや腫れを抑えることができます。

吸引と注射

滑液包が明らかに腫れている場合は、痛みや炎症を軽減するために、液体を吸引して、同時に局所麻酔薬とコルチコステロイドの注射を打つこともあります。

ストレッチ

筋肉の硬さが膝の滑液包炎の一因になっていることが多いので、周囲の筋肉を伸ばして膝の滑液包を介した圧迫や摩擦を軽減させるのが目的です。

筋力強化

膝の強度、可動域、安定性を向上させることで、膝の滑液包炎の症状を軽減し、将来的な予防効果もあります。

膝パッド・サポーター

どうしても膝をついて床の掃除などを行わないといけない場合は、膝パット・サポーター(ゲル入りを推奨)を使用します。

滑液包炎は一度治っても、再発します。そのため、予防の意味も込めて膝パッド・サポーターを装着します。

手術

まれではありますが、難治性の滑液包炎の場合、手術が行われることがあります。