診断

あなたの膝裏の痛み、大丈夫?

膝の痛くない人が通常歩行を行っている場合、膝の裏が痛くなることはありません。これは歩行の経済的効率性から学びました。まだ見ていない人はこちらをどうぞ。

では、なぜ膝の裏が痛くなるのでしょう?

膝裏が痛くなる疾患

・ベーカー嚢腫
・肉離れ
・内側半月板後根断裂

ベーカー嚢腫

膝の関節包の裏側に本来ないはずの袋状の構造物ができ、中に液体(滑液)がたまることがあります。これをベーカー嚢腫といい、膝の裏が腫れたり、曲げづらい、膝を伸ばすと痛むなどの症状が現れることがあります。一般的に変形性膝関節症の患者さんに多い疾患です。
症状は比較的緩徐におこり、鋭い痛みというよりおもだるい痛みを訴える患者さんが多いです。

肉離れ

イメージはつきやすいと思いますが、肉離れとは急激に筋肉が収縮した結果、筋膜や筋繊維の一部が損傷することです。 これがひどくなり、断裂してしまう症状が筋断裂です。 発症は、よくスポーツをする年代で起こりますが、普段運動をしない人が急に激しい運動をすると起こることもあります。

内側半月板後根断裂

本題です。
この病態は比較的最近になって認識されるようになったものです。

膝関節には半月板というクッションの役割をする構造物があります。一般的に整形外科を受診して先生から聞く”軟骨がすり減る”というのは大腿骨の軟骨と半月板(これも軟骨です)を含めた関節のスペースが狭くなることを意味します。さらに、半月板には内側と外側に1つずつありますが、スポーツ選手が外側に受傷が多いのに対して、年齢を重ねるにつれて内側の半月板損傷が多くなります。その理由を説明します。

内側の半月板は骨にしっかりとくっついていて(外側は可動性があります)、大腿骨(膝上の骨)と脛骨(ひざ下の骨)を安定させる機能があります。さらに、上からの力を外へ逃がす加重変換装置の役割も果たします。人が活動しているときは、この半月板が大きな役割を果たしているのです。
下の図は膝関節を上から見た図で大腿骨は切り取られています。

日本整形外科学会HPより抜粋

歩いているときは、主に半月板の前から中間ぐらいに荷重がかかりますが、日本人を含む東洋人の習慣である”正座”をすると後ろの方に非常に大きな圧力がかかります。年齢とともに半月板全体も年を取っていきます。わかりやすく言えば、買ったばかりの輪ゴムを若い人と例えるなら、古い輪ゴムは年を取った半月板です。強く引き伸ばすと切れてしまいます。さすがに輪ゴムのようにすぐには切れませんが、切れやすくなるということです。
正座を多くする習慣がある人は常に半月板が後ろに引き延ばされて段々と脆くなるのです。限界を迎えた内側半月板の後ろ側が、些細な動作をきっかけに切れてしまうことを内側半月板後根断裂と言います。

内側半月板後根断裂は、中高年(50 ~ 60 歳台)の女性によく発生し、急激に膝関節の機能が悪化する半月板の特殊な断裂です。階段の利用ハイキング犬の散歩段差や溝を飛び越える際の着地といった本当に何でもない動作で急激な痛みを膝の後ろに感じます。
この痛みは急激で激しい痛みですが、整形外科を受診しても見落とされることが多いのが現状です。1か月から3か月で骨の捻挫をおこし、ひどい状態になると小さな骨折を起こし膝骨壊死を起こすこともあります。その後は急激なスピードで変形性膝関節症が完成してしまうという恐ろしい病態です。

診断確定するには経験ある医師の診察とMRI検査が必要です。勘違いしている人も多いと思いますが、レントゲンを代表とする画像診断というものは画像を見る医師の画像診断能力に依存します。MRIも同様のことが言えるのでMRI検査で問題ないというのは、あくまで、診察をした医師が見て大丈夫ということなのです。(違う医師が見れば何か病気が見つかるといったことはよくあります)

膝裏の痛みを感じたらできるだけ早く病院を受診してください。それも、救急外来ではダメです。整形外科を受診してください。早期診断・早期治療は最も良い結果をもたらします。

私が以前働いていた病院で作成したパンフレットを載せておきます。
https://iwakuni.hosp.go.jp/files/000104062.pdf