原因: 膝をついた状態での長時間の作業、転倒などで膝の前を打つ
症状:膝前面の腫れ、痛み、赤み
回復までの期間:正しい治療を行えば数週間で落ち着く
膝蓋前滑液包炎は膝の滑液包炎の中で最も多く外来で遭遇する滑液包炎です。
滑液包は、体の至る所にあり、通常、わずかな液体の入った袋状の構造物です。滑液包の仕事は、骨と柔らかい組織(筋肉、腱、皮膚、靭帯)間の摩擦を防ぐことです。
滑液包に多くのストレスがかかると、滑液包は通常よりも多くの液体でいっぱいになります。これを滑液包炎といいます。
膝蓋前滑液包は膝蓋骨(お皿)と皮膚の間にあります。
長時間の摩擦や圧力によって膝蓋前滑液包が刺激を受けると、膝蓋骨を守ろうとして、いつも以上の液体を袋の中にため込みます。
この膝の前面が炎症を起こして腫れる病態を膝蓋全滑液包炎(Housemaids knee)と言います。
原因
原因として最も多いのが、長時間、何度も膝つき動作を行うことです。
滑液包が徐々に炎症を起こして腫れ、痛みを伴うようになり、周囲の構造物を圧迫していきます。
最近では西洋風の生活様式が多く取り込まれましたが、畳での生活は依然強い人気を保っています。そのため、膝をついて掃除をしなければいけない状況も残存しています。
また、膝蓋前滑液包炎は、膝の前面を強打したりすることでも生じます。中には感染症が原因で起こることもあります。
関節リウマチなどの炎症性疾患を持っている場合は、膝の滑液包炎を生じるするリスクが高くなります。
症状
膝蓋骨前滑液包炎の症状で最も多いのは、膝前面の腫れです。
初めは痛みと赤みが主な症状で足を曲げたり、膝をついたり、歩いたりすることが難しくなります。
その後、時間経過とともに段々と膝の前側が腫れてきます。
さらに時間がたつとブヨブヨしたジェルのような感覚になります。
その典型的な腫れ方を見れば整形外科医にとってレントゲンなどをとる必要もありません。
しかし、腫れは典型的でも異常な痛みや熱感を伴う場合にはレントゲンやMRIを撮像する場合があります。
細菌感染の報告もあるため熱感や痛みが強い場合には抗生剤も使用することがあります。
治療
膝蓋前滑液包炎の治療法にはいくつかの選択肢があります。 これらには以下のようなものがあります。
PRICE
Protect, Rest, Ice, Compress, Elevateの略です。
PRICEは、滑液包炎の痛みや腫れを軽減し、回復を早め、しかも誰にでもできるものです。
安全で効果的な使用方法については、PRICEのセクションをご覧ください。
内服薬(痛み止め)
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、膝蓋前滑液包炎の痛みだけでなく腫れや赤み(炎症)を抑えるのにも役立ちます。
穿刺排液
ブヨブヨした状態の腫れが残存している場合は、注射して液体を抜くことがあります。
ステロイドの注射
穿刺を行うと同時に、炎症を抑えることを目的としてステロイドを使用することがあります。
しかし、感染が疑わしい場合にはステロイドは使用しません。
抗生剤
滑液包炎に感染が合併している場合は抗生剤の注射や内服をすることがあります。
頻度は少ないですが、感染を起こすと中々治りません。
自己判断で病院に行かないということは避けましょう。
サポーター
ゲルバッド付きのサポーターは再発防止に有用です。
膝つき動作をしなければならない人には装着をお勧めします。
手術
非常にまれですが、再発を繰り返す場合には滑液包を切除するという手術を行うことがあります。
しかし、本当にまれです。
回復の期間
一般的に、滑液包炎は正しく治療すれば、数週間以内に落ち着きます。
再発を防ぐために、ゲルパッドサポーターなどを使用して、直接硬い場所に膝をつかないようにすることをお勧めします。