2000年ころから、血管の研究者の中では、「血管には正常な血管と、病気の原因になってしまう異常な血管がある」ということがわかってきたようです。
ガンや炎症が起こると異常な血管が作られてこれが痛みの原因となることがあります。これに着目して研究を行った日本の先生がいます。現在は開業されている奥野祐次先生です。慶應義塾大学大学院でこの血管について研究され、この研究をもとにカテーテル治療を用いて異常血管の治療を行っています。基礎研究は臨床業務に役立てるために行うものです。私も、大学院で基礎研究を行った経験がありますが、奥野先生のようにはっきりとしたvisionのもと研究を行っている研究者はそれほど多くないと思います。日常的に外来を行っている中で、説明のつかない膝の痛みを持っている患者さんには時々遭遇します。
今回はそのような説明のつかない膝の痛みを血管痛という観点から考察してみようと思います。もちろん、参考文献は奥野先生の論文です。
Midterm Clinical Outcomes and MR Imaging Changes after Transcatheter Arterial Embolization as a Treatment for Mild to Moderate Radiographic Knee Osteoarthritis Resistant to Conservative Treatment.
Okuno Y et al. J Vasc Interv Radiol. 2017
Transcatheter arterial embolization as a treatment for medial knee pain in patients with mild to moderate osteoarthritis.
Okuno Y et al. Cardiovasc Intervent radiol.
良い血管と悪い血管
血管には「動脈」と「静脈」と「毛細血管」という3つの種類があります。
しかし、この「毛細血管」の中には良い血管と悪い血管があります。悪い血管の周りには小さな神経が増えてきてこれが痛みの原因になるようです。
血管は「酸素や栄養を運んできてくれる、良いもの」として認識されています。そのため、血管が多ければ栄養が豊富になり、血流がたくさんあると、怪我したときに傷の治りが早くなる。と思いがちです。
車を運転していることを想像してください。大きな幹線道路を走っていて渋滞に巻き込まれました。地道に詳しい人は抜け道を走ることがあるかもしれません。そうするとどうでしょう。抜け道も大渋滞。結局、大きな道路を走っていた方が良かったと後悔した経験を持っている方もいるのではないでしょうか。
毛細血管も同じような感じで大きな道路が整備されていて、車がスイスイ走行しているときに抜け道は使わないですよね。何らかの原因(舗装工事や事故など)で車が渋滞する抜け道を使用しますが、みんなが一斉に抜け道を使えば、抜け道も大渋滞。
小さな血管増えすぎてしまうと、もはや栄養を供給することはできなくなり、代わりに炎症を助長してしまいます。
血管が病気を悪化させてしまうのです。これらの血管は「痛み」と非常に関係しています。不要な血管(悪い血管)が多いところに痛みが出てしまうのです。
膝の痛みは構造的な原因がほとんど
勘違いしてはいけないのは、膝の痛みの全てが、ここで紹介した悪い血管からくるというものではありません。ほとんどの人の痛みの原因には何らかの構造変化が伴います。その、構造的な変化を検出するためにレントゲンやCTやMRIを使用します。代表的な膝の痛みの原因は変形性膝関節症や半月板損傷ですが、構造的な異常が原因で痛みが出ているかどうかについては専門的な判断が必要です。
専門医が精密検査を行い、それでも痛みの説明がつかない時には、一つの選択肢に悪い血管の存在を考えたほうがいいでしょう。
膝の血管はたくさんある
奥野先生の論文の図を参考に説明します。
膝の主要血管は膝裏にあります。そこから、小さな血管が色々な方向に向かって伸びていきます。(左は後ろから見た図、右は横から見た図)
外来で患者さんが訴える痛みの部位は②の血管あたりが多い印象です。実際に変形性膝関節症の人は内側が痛くなる人がほとんどです。
血管内カテーテル治療
これは我々、整形外科では治療できない分野ですが、整形外科で説明のつかない痛みを抱えている人については選択肢の一つになる治療となる可能性があります。
下の図は論文中で紹介されている血管内治療の様子ですが、見事です!
左は治療前の図です。→が異常血管です。このようにモヤモヤとした感じで映ります。右は治療後で、モヤモヤとした血管がなくなっているのがわかります。
詳しくは、奥野先生のクリニックのホームページや奥野先生が書かれている本をご覧ください。