原因:腸脛靭帯と膝外側との間に起こる摩擦
症状:膝の屈伸に伴う膝外側の痛み
回復までの期間:一般的には6週間
腸脛靭帯炎は通常、膝の外側面、関節線より上、大腿骨外側上顆より下の部分の触診で痛みを呈します。
足の使い過ぎによる怪我と考えられており、ランナーに多く見られ、股関節外転筋の基礎的な筋力低下と併発することが多いことでも有名です。
腸脛靭帯とは?
腸脛靭帯は、腸骨稜を起始部に持つ大腿部の外側を走り、脛骨に停止する太い筋膜の帯です。
遠位部では、IT Bandは大腿骨外側上顆を覆い、膝蓋骨の外側縁にまで広がっています。
最終的にはGerdy’s結節に付着しています。
腸脛靭帯は大腿筋膜張筋と大殿筋を連結させる結合組織の役割も担っています。
腸脛靭帯はGerdy’s結節に付着していますが大腿骨外側上顆には付着していません。
そのため、膝関節を支える靭帯ではありません。
そのため、膝の屈曲・伸展に伴って、腸脛靭帯は前方・後方に移動します。
腸脛靭帯は膝の前方移動と回旋を制御しているとされており、この力学的な役割は、前十字靭帯再建時の重要な要素の一つである可能性が示唆されています。
腸脛靭帯炎とは?
腸脛靭帯炎は膝外側部痛を呈するランナーの最も一般的な傷害の1つであり、発生率は5%から14%と推定されています。
さらに、腸脛靭帯炎はすべての下肢損傷の約22%に関与していることが示されています。
つまり、腸脛靭帯炎を起こしやすい膝というのは、あらゆる怪我を起こす可能性があるということです。
それでは、なぜ腸脛靭帯炎がおこるのでしょうか?
腸脛靭帯炎の症状
特徴としては、大腿骨外側顆部上に運動関連の圧痛を認めます。
腸脛靭帯炎の有病率は、女性では16~50%、男性では50~81%と推定され、男性に多い疾患です。
腸脛靭帯炎を診断することは難しくありません。スポーツをしている人にとっては馴染みのある疾患のため、自己診断できる数少ない疾患の一つです。
膝の屈伸を伴う反復運動を行うと、外側大腿骨上顆のレベル(またはそのすぐ下)で痛みを生じます。
痛みの程度は焼けつくような痛みの人もいれば痛みの軽い人もいて様々です。この部分に痛みが出れば、その強弱に関係なく腸脛靭帯炎です。
腸脛靭帯炎の主な症状は、膝の外側、特に走っているときにかかとが地面に当たったときの鋭い痛みで、それが大腿部やふくらはぎの外側にまで放散することがあります。
坂道の下りを走っている時や階段を降りる時に痛みが強くなる傾向があります。
腸脛靭帯炎の原因
腸脛靭帯では痛くなる場所が決まっています。それは、炎症が起こる場所が決まっているということです。
摩擦
膝が伸展している時、腸脛靭帯は大腿骨外側上顆の前方に位置します。
膝を30°屈曲させると、腸脛靭帯は大腿骨外側上顆の後方に移動します。
そのため、腸脛靭帯の後縁と大腿骨外側上顆との間に摩擦が生じるのではないかと推測されています。
筋力低下
股関節外転筋の筋力低下は、股関節および膝の内転方向への力を増加させるため、腸脛靭帯炎との関連性が指摘されています。
これは、腸脛靭帯炎を起こしたことがあるアスリートの重要な問題として発見されました。
滑液包炎
他の病因は、腸脛靭帯滑液包の慢性炎症です。これは、少し例外で太ももの外側が痛くなります。
腸脛靭帯炎を起こしやすい人
腸脛靭帯炎はランニングを行う人に多く認めますが、痛みが出る人と出ない人にはどのような違いがあるのでしょうか?
ランニングの場所
このような傾いた坂を使う場合には、床に対する体幹の角度が重要です。大抵の人(特別なトレーニングをしていない人)はこのような坂を走る時には、体のバランスをとるために坂とは反対方向に重心を移そうとします。
こうなることで、足の外側が下がることで腸脛靭帯が伸ばされ、左右非対称な力が反復してかかるため、腸脛靭帯に過度な力がかかります。
体の重心をまっすぐに保つのは至難の業です。右回り、左回りと交互に練習するのがいいでしょう。
このことは、トラック競技をする人だけに見られることではありません。もしも、外でランニングをしている時に、このような重心の乱れが起こっている人は腸脛靭帯炎を起こすリスクが高まります。
股関節外転筋力の低下
股関節を広げる筋力が低下すると骨盤が傾きやすくなり、腸脛靭帯に余計な負荷がかかってしまします。この現象は、長らくスポーツをしていない人が、ダイエットのためにいきなり長距離をランニングすることで表面化します。
股関節の外転筋力など普段から気にする人はいませんから当然です。下の運動がどのくらいできますか?
10回程度で疲れるようであれば、いきなり長距離をランニングするのはやめましょう。
股関節外転筋力エクササイズとランニング距離の目安として、10回:1km 20回:2 km 30回:3 km と考えると距離設定が簡単だと思います。
偏平足
偏平足の人で長距離をランニングする人も腸脛靭帯炎のリスクが高いと言われています。
偏平足の人は、元々、膝が外反(内側を向く)する傾向があります。
下の図のように、腸脛靭帯が緩む傾向があり、これは腸脛靭帯炎を起こすリスクと関連しています。
偏平足の人でランニングをする人は靴選びや、中敷きも重要になってきます。整形外科医師に相談しましょう。
そんな時間はないので、とりあえずインソールを試してみたいという人はこのような偏平足に対応したインソールを買うようにしてください。
治療
まず考えるべきことは、今以上に症状を悪化させないことです。
可能であれば休息期間を設けますが、それが出来ない場合には、悪化させる活動の強度を大幅に低下させることが、出発点となります。
コンディショニングを維持するために、症状を悪化させない他の運動(水泳や筋トレおよびストレッチ)を勧めます。
病院で治療を行うことは、復帰までの時間を減らします。
しかし、これだけでは十分でないことも理解しなければいけません。
最も大事なことは、体のメンテナンスです。ストレッチ・筋トレをしっかりやらないと結局は再発を繰り返します。
超音波療法
0.75~3MHzの周波数範囲(治療する軟部組織の深さに応じて)で、損傷した組織を温熱的または非温熱的に治療する方法が報告されています。
Strauss EJ, Kim S, Calcei JG, Park D. Iliotibial band syndrome: evaluation and management. Journal of the American Academy of Orthopedic Conditions. 2011;19(12):728-36.
Speed CA. Therapeutic ultrasound in soft tissue lesions. British Society for Rheumatology, 2001; 40(12): 1331–1336. https://doi.org/10.1093/rheumatology/40.12.1331
体外衝撃波治療
短期間での症状の悪化、可逆的な局所の腫脹、発赤、血腫などの副作用が少ないため、安全であると考えられています。
体外衝撃波治療は軟部組織の治癒を刺激し、侵害受容器を抑制すると考えられています。
このように、疼痛部位のサイトカイン拡散を増加させ、腱の治癒反応を刺激します。
Weckström K, Söderström J. Radial extracorporeal shockwave therapy compared with manual therapy in runners with iliotibial band syndrome, Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation, 2016; 29(1):161-70. doi: 10.3233/BMR-150612.
注射
コルチコステロイド(デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン)を炎症部位に注射して直接的に炎症を抑えます。