変形性膝関節症

変形性膝関節症 痛みの原因は何?

膝の痛みは、高齢者の障害の最も一般的な症状であり、この”痛み”は変形性膝関節症全般に起因する障害の主な原因となっています。

面白いことに、変形性膝関節症の人は、膝の痛みを何も感じない人から、固定化して障害が強く出る人まで様々です。これは、運がいいからとか運が悪いからということではありません。ちゃんと理由があるのです。

変形性膝関節症における痛みは、いくつかの神経に由来している可能性があります。神経が痛みを感じているということはわかると思いますが、どんな病態で神経が痛いと感じるのかを説明します。

今回参考にした論文は下の通りです。

この論文の目的は、関節軟骨、軟骨下骨(萎縮、嚢胞、骨髄病変、骨棘)、半月板(断裂と亜脱臼)、滑膜(滑膜炎/滑液貯留)などの特定の膝組織の悪化が、重度の膝痛と関連しているかどうかを調べることです。

2020.11.26_OARSI-The-relationship-between-specific-tissue-lesions-and-pain

研究の参加者

参加者143名(女性78%)

平均年齢は70±10歳(変形性膝関節症で最も手術移行率が高い年齢)

BMIは31±6kg/m2(ちょっと高め)

K/Lグレード:0-II: 64人 III: 44人 IV: 35人

日本でよく外来にかかるような人をターゲットにしていると思います。K/Lグレードというのは変形性膝関節症のレントゲンの分類です。変形が強くなるほど大きくなり、最高はグレードIVです。

パシフィックニュース
【Japan Medical Journal 日本医事新報社、Jmed27号「むくみと膝関節痛」、P27から引用】

痛みと関連した膝の病態

この研究では年齢と体重(BMI)を調整してデータを標準化しています。

結論から言うと骨萎縮骨髄病変滑膜炎関節液、および半月板断裂がそれぞれ膝痛の重症度に関連していました。

骨棘や軟骨病変の進行はあまり痛みと関連しておらず、半月板亜脱臼または逸脱(半月板が少しずれていること)は痛みとの関連はありませんでした。

骨萎縮とは何らかの原因で長期臥床を余儀なくされたり、骨折後に長い間ギプスで固定することによって、骨に刺激が伝わらなくなり、骨が弱ってしますことです。(低栄養状態やステロイド治療などの骨量減少を促進する要因が合併している場合も骨萎縮が起こると言われております。)レントゲン写真の骨萎縮夜間痛との関連性は他の論文で報告されています。この研究では骨髄病変が存在するには骨萎縮の存在が必須であることを示していました。つまり、骨の強度が弱くなった状態(骨萎縮)で骨髄浮腫が発生し、強い痛みになる可能性が高いです

骨髄病変とは軟骨に覆われた骨の中に病変が及ぶことです。軟骨がすり減ると下の骨が露出してきます。また、怪我をしたときにも骨の奥まで力が及んで骨髄まで傷がつくことがあります。これはレントゲンでは診断できず、MRIを撮像することで初めてわかる病態です。歯にできた虫歯が表面だけの時は痛みは感じないですが、虫歯が深くなると神経に当たるイメージです。この神経まで行った虫歯が骨髄病変ととらえるとわかりやすいと思います。

滑膜炎は何らかの理由で膝に炎症が起きることです。これによって溜まってくる水を関節液と言います。

半月板断裂は文字通り半月板が切れた状態です。

骨棘とはその名の通り”骨のトゲ”です。変形性膝関節症が進んでくると、この骨棘が色々な場所にできてきます。原因は様々なことが言われていますが、結論はでていません。生物学的な要因や物理的な要因が関係しています。骨棘のできる機序は少し説明しただけでは、かえってわかりにくいと思うので、あらためて書こうと思います。

骨棘

標準医療情報センター 変形性膝関節症(膝OA)より

半月板亜脱臼・半月板逸脱とは何らかの原因(変性・怪我による断裂)を理由に半月板が所定の場所から外れてうまく機能しなくなることを言います。
変形性膝関節症が進行すると関節の隙間が狭くなり、その隙間にある半月板が外側へ押し出されます。また、半月板断裂によって半月板機能不全になっても同じようなことが起こります。変形性膝関節症のように徐々に進行する病態では半月板も徐々に潰され、少しづつ外へ押し出されるので、この半月板逸脱は痛みと関係ないようです。

東京医科歯科大学 臨床研究「逸脱を伴う膝半月板損傷の滑膜幹細胞による治癒促進」への参加を希望される患者さんへ から修正引用

膝の痛みの重症度に関連する病態

・強く関連する:骨萎縮、骨髄病変、滑膜炎・滲出液、および半月板断裂
・弱く関連する:骨棘と軟骨病変
・関連しない:半月板脱臼(半月板逸脱)

まとめると、変形性膝関節症の人の膝の痛みの重症度は、骨萎縮骨髄病変滑膜炎/関節液、および半月板断裂と関連していました。

痛みが強く出る人は骨萎縮から発生する骨髄病変である可能性が高いです。