病態

ジャンパー膝

ジャンパー膝とは

原因:スポーツ中に膝蓋腱に繰り返しかかる過度の力

症状:運動中に膝蓋骨下に生じる鋭い痛みやズキズキする痛み

回復までの期間:3か月

ジャンパー膝は、膝蓋腱炎としても知られており、膝蓋骨のすぐ下にある膝蓋腱の損傷によって起こります。膝の下に痛みや圧迫感が生じ、活動が制限されます。

キックやジャンプなどの反復的なスポーツ活動は、腱に大きな負担をかけ、微細な断裂や炎症を引き起こし、徐々に痛みが発生・進行していきます。

膝蓋腱炎が悪化して腱が完全に断裂してしまわないように適切な時期に適切な治療を行う必要があります。

ここでは、ジャンパー膝の一般的な原因症状危険因子ステージ分類、ジャンパー膝に最適な治療法についてご紹介します。

ジャンパー膝の原因

膝蓋腱は、膝の前部の膝蓋骨のすぐ下にあり、膝蓋骨と脛骨を繋いでいます。

腱の幅は約2cmで、非常に強く、大腿四頭筋と協力して足をまっすぐにするのが膝蓋腱の役割です

ジャンパー膝は、通常、スポーツ中に膝蓋腱に過度の力がかかることが繰り返されると発症します。力が強ければ強いほど、ダメージは大きくなります。

ジャンプして着地すると、体重の約10倍の力が膝蓋腱にかかります。

ジャンプするためには、大腿四頭筋がふくらはぎの筋肉と協力して体を地面から離す必要があり、着地の際には、大腿四頭筋が再び働いて脚を安定させる必要があります。

ジャンプ以外の原因としては、体重の約7倍の力がかかる蹴りの繰り返しが挙げられます。

スポーツ選手など、蹴ったり跳ねたりすることが多い人は、膝蓋腱への負担が大きくなり、腱に微細な断裂が生じます。

最初は痛みを感じないことが多いですが、進行して断裂が増えると、膝の痛みがだんだん強くなってきます。

この微細な断裂により、腱の強度が低下し、さらに損傷を受けやすくなります。重度の膝蓋腱炎では、腱が完全に切れてしまうこともあります。

炎症か変性か?

以前は、ジャンパー膝の主な原因は炎症であると考えられていたため、膝蓋腱炎と呼ばれていました。

しかし、最近の研究では、炎症が起こることは非常に稀であり、むしろ変性(腱の摩耗)で起こることの方が多いとされています。

ロキソニンなどの非ステロイド系抗炎症剤がジャンパー膝の症状にほとんど効果がなく、むしろ治癒を遅らせて事態を悪化させることがあるのは、このためです。

ジャンパー膝では体が腱の変性を回復させるべく組織の損傷を修復するコラーゲンが生成されます。

しかし、これはゆっくりとした過程であり、十分なコラーゲンが産生され、完全に成熟して腱が完全な強度を取り戻すまでには約3ヶ月かかります。

ジャンパー膝の症状

ジャンパー膝は、突然、膝蓋腱を酷使することで発生する(急性ジャンパー膝)こともありますが、時間の経過とともに繰り返し発生する(慢性ジャンパー膝)ことの方が圧倒的に多いです。ジャンパー膝では、以下のような症状が見られます。

運動中の痛み

ジャンパー膝の選手は、運動や競技中に膝蓋骨の下鋭い痛みやズキズキする痛みを感じることがあります。

最初のうちは、運動すると痛みが悪化し、休むと痛みが引いていきます。

痛みを放置すると、休息時にも痛みが続くようになります。

痛みは、蹴ったり、走ったり、膝を曲げたりしたときに最も強くなります。

膝の腫れ

ジャンパー膝では、膝関節に軽い腫れが生じます。膝が腫れると膝の可動域が低下します。

日常生活での違和感

膝蓋腱は、階段を上る、しゃがむなどの日常動作に必要な構造物です。

ジャンパー膝が進行した選手は、日常生活の中でさえも膝の痛みが増すことがあります。

ジャンパー膝の危険因子

ジャンパー膝は、普段から膝に負担をかけているアスリートが発症するリスクがあります。また、ジャンパー膝を発症する可能性を高める要因としては、以下のようなものがあります。

トレーニングの準備不足

時間をかけて激しい運動をしていない選手は、予期せぬ衝撃でジャンパー膝になりやすいです。

体重増加

太っている選手は、太っていない選手に比べて膝にかかる力が大きくなります。健康的な体重を維持することで、運動時の膝蓋腱への圧力や衝撃を軽減することができます。

初期段階での不適切な治療

ジャンパー膝の初期症状が出た後、膝蓋腱が適切に治癒する時間がないと、ジャンパー膝を慢性的に発症する可能性が高くなります。

ジャンパー膝のステージ分類

膝蓋腱炎は4つの段階を経て進行します。

Stage 1: 痛みは活動後のみで、機能には影響しない

Stage 2: 活動開始時に痛みがあり、ウォーミングアップをすると痛みが消えるが、運動後に痛みが戻る。通常、パフォーマンスに影響はない。

Stage 3: 運動中や運動後に痛みが長引き、満足のいくパフォーマンスができなくなる

Stage 4: 外科的修復が必要な腱の完全断裂

ジャンパー膝の治療

ジャンパー膝の治療には、腱の緊張を和らげ、膝周りの筋力を向上させるためのさまざまな治療法があります。治療は以下のものを組み合わせておこないます。

相対的な休養

膝蓋腱炎は、「no pain no gain」という言葉が当てはまらないケースのひとつです。

病態の本質が炎症ではなく、変性であることを考えると、痛みを伴う活動から完全に離れ、腱のコラーゲンを回復させることが非常に重要です。

ジャンパー膝の末期の場合、しっかり治そうとすればスポーツに復帰するまでに3ヶ月程度かかることもあります。

膝サポーター

ジャンパー膝の初期段階では、膝蓋腱を通るストレスを軽減し、症状を緩和するために、膝ベルトが非常に有効です。膝蓋腱の断面積を小さくし、ベルトによる圧力で膝蓋腱を通る力を軽減します。


膝を定期的に氷で冷やす

運動の後に、10~15分程度、アイスパックを使用すると痛みが軽減されます。

どうしても試合に出なければならない場合は、試合前にアイスパックを10~15分使用すると痛みは改善します。


膝のストレッチを毎日行う

臀部、大腿四頭筋、ハムストリングスが硬いとジャンパー膝になるリスクが高くなるので、これらの筋肉を伸ばすことが重要です。これにより、膝の痛みやこわばりが改善されるだけでなく、運動を再開したときに症状が再発する可能性を減らすことができます。

膝のストレッチのページを参照してください。あなたの筋肉が平均よりも硬いかどうか判断するための簡単なテストもあります。

筋力アップ

太ももの前面にある大腿四頭筋を強化することで、膝蓋腱炎に大きな変化をもたらすことができます。

大臀筋が弱いと、膝の位置に影響を与え、膝蓋腱を通過する力が大きくなり、ジャンパー膝を起こしやすくなります。

しっかりと筋力を強化しましょう。

手術

ジャンパー膝が6~12ヶ月のリハビリで治らない場合、最後の手段として手術が行われます。手術では、変性した組織を除去し、治癒を促進するために患部の血流を増加させます。

膝蓋腱が断裂(完全に切れてしまう)してしまった場合は、腱を縫い合わせて修復する手術が必要となります。手術後は、腱が弱くなっているため、慎重なリハビリが必要で、スポーツ復帰には通常3~6ヶ月の理学療法が必要です。

ジャンパー膝に似た症状

ジャンパー膝と密接な関係にあるのが、大腿四頭筋腱炎です。この2つの疾患は、しばしば密接に関連しています。

ジャンパー膝は、ランナー膝オスグッド・シュラッター病膝蓋軟骨軟化症などと誤診されることが多いのですが、膝蓋腱炎の最も特徴的な症状は、膝蓋骨のすぐ下にある膝蓋腱を押したときの圧痛です