スポーツ障害・外傷

子供に起こる、”かかと”の痛み    (原因・治療・予防)

スポーツ傷害は若いアスリートに多く見られ、活動レベルの低下を引き起こしたり、スポーツの中止を余儀なくされることもあります。

かかとの痛みは、学校の内外でのスポーツ活動が活発になるにつれて、8歳から13歳までの子供にも起こります。身体活動、特にジャンプやランニングは、かかとの成長中枢に炎症を起こします。子供の運動量が多いほど、この状態になる可能性が高くなります。かかとの骨(踵骨)が完全に発達するのは、少なくとも13歳までです。それまでは、かかとの後ろの弱い部分である成長板で新しい骨が形成されています。成長板に過度の反復的なストレスがかかると、炎症が発生することがあります。これは子供のかかとの痛みの原因として最も多いもので、片足または両足に発症することがあります。

今回は3つの文献をもとに考察してみました。

・Slow velocity of the center of pressure and high heel pressures may increase the risk of Sever’s disease: a case-control study
BMC Pediatrics 2018 Rodríguez-Sanz et al.

・Aspects of Treatment for Posterior Heel Pain in Young Athletes
J Sports Med 2010 Thomas et al.

・Effectiveness of interventions in reducing pain and maintaining physical activity in children and adolescents with calcaneal apophysitis (Sever’s disease): a systematic review
J Foot Ankle Res. 2013 Alicia et al.

かかとの痛みを生じやすいスポーツ

・サッカー

・トラック競技

・ダンス

・バスケットボール

サッカーなどの頻繁なランニングやジャンプが含まれる協議は、かかとが痛くなる可能性があります。

頻度

足と足首は若いアスリートの身体の中で最も負傷しやすい部位の一つであり、スポーツ医学クリニックへの受診の30%を占めます。

7~16歳の351人の子供を対象とした研究では、

かかとの痛みが11.3%、アキレス腱の痛みが3.8%と報告されています。

解剖

かかとの骨は、アキレス腱と足底筋膜の接着部位としての役割を果たします。十分な回復時間のない一定の反復的なストレスが持続すると慢性的な損傷を起こします。つまり、一旦発症すると、踵の骨の骨端線が閉じるまではオーバーユース損傷による痛みが頻発します。十分な治療や予防、筋力トレーニングが行われない場合、Sever病が発生します。

Sever病

若いアスリートにおいて、かかとの後側の痛みを伴うオーバーユースによる損傷として文献に最も多く記載されています。子供の成長期に入る前または成長期に最も多く見られ、通常、男児では10~12歳女児では8~10歳で発症します。アキレス腱炎や足底筋膜炎(足の裏が痛くなる)が二次的に発症することもあります。今日では、危険因子の数を減らし、かかとの痛みの原因となる使いすぎによる怪我を最小限に抑えることが推奨されています。





適切な治療を行えば、ほとんどのSever病患者は数週間から2ヶ月以内にスポーツに復帰できることが可能となります。15歳頃までは再発の可能性が高いですが、限定的な症状であり、子供の成長が止まれば消失するとされています

しかし、大事な試合でベストパフォーマンスが発揮できない状態になり、何のために練習しているかわからなくなるので、治療はした方がいいでしょうね。

話は変わりますが、Sever病と診断された患者の半分(48%)がオスグッド・シュラッター病を発症(これは中学高学年から高校生になって発症することが多いです)しています。これは、スポーツをしている青少年の発症率(21.2%)の2倍以上です。かかとが痛くなった子供は成長につれて膝の前側が痛くなる可能性が高いです。こうならないためにも、治療できるときに治療したほうがいいでしょう。

Sever病

・男児では10~12歳、女児では8~10歳で発症
・15歳頃までは再発の可能性が高い
・数週間から2ヶ月以内にスポーツに復帰できる

こんな症状があれば病院受診を勧めます

・起床時にはないが、スポーツ活動時に増加し、安静時には改善する。

・かかとの裏や底の痛み。

・足を引きずる。

・つま先で歩く。

・走る、跳ぶ、または通常の活動やスポーツに参加するのが困難。

・かかとの側面が圧迫されたときの痛み。

かかとが痛くなる原因

下の図を見てください。

Aが正常でBがSever病の子供です。

赤くなっている部分ほど高い圧力がかかっています。最上段は普通に立っているときです。中段は立脚期20%(歩き始め)、最下段が立脚期35%(足を踏み返す)の状態です。注目してほしいのはSever病で踵に高い圧力が持続的に発生していること。もう一つは立脚期35%の時に母指球に圧力が高くなっている(足の親指に力を入れることが出来なくなっている)ことです。

左から2番目が中段の状態。左から4番目が最下段の状態。


力や力の繰り返しが臨界レベル以下にまで減衰しない場合、組織の損傷が生じ、治癒反応がさらなる構造変化につながります。これらの変化は、歩行中に踵にかかる力を変化させ、反復的な微小外傷を引き起こす可能性があります。

治療

ストレッチ

症状が、かかとから来ているか、アキレス腱から来ているかに関わらず、 ふくらはぎのストレッチは重要と言われてきました。しかしながら、ストレッチが筋肉の力を発生させる能力に悪影響を及ぼす可能性があることも判明しています。

つまり、十分な評価が必要であり、足関節の可動域障害(足関節を上に持ち上げる範囲が反対側と比べて低い)がある場合にのみストレッチを治療法として検討する必要があります。

筋力強化

足首の足底屈筋(地面を踏むときの足首の動き)は、歩行、ランニング、ジャンプ活動中に足首の背屈の量を制御し、体を前方/上方に推進しながら、プッシュオフの際に活動します。ふくらはぎの筋肉は日常生活の中で同心的にも偏心的にも活動しているため、両タイプの筋収縮を利用した強化を行うことが重要であると考えられます。

スタートポジションは、床に平らに立っているか、平らな面からかかとを持ち上げるのが苦痛な場合は、かかとの下に本を敷いてもいいです。

ヒールリフトとインソール

サッカーのように靴が非常に平らなスポーツでは、ヒールリフトの使用は、高いヒールを持つランニングシューズと比較して、より大きな利点があるかもしれません。生体力学的な不整列が存在する場合には、オーダーメイドのインソールも良いかもしれません。

練習や試合に出るための基準があるの?

実際に我々がどのような基準で運動の許可を出しているかについて説明します。

興味がなければ、サッと読み飛ばしてください。

実際にはこれだけです。

あくまで、本人の痛みが指標となるのですが、本人、親、コーチの要望に応える必要もあり優先順位がどこにあるかを的確に設定することが大事となります。

あるアスリートにとって適切なトレーニングレベルが、別のアスリートにとっては高すぎるかもしれず、そのアスリートは使いすぎによる怪我のリスクが高くなります。したがって、このような患者さんのトレーニングに復帰する際には、個々のアスリートの症状や痛みをモニタリングすることが非常に重要になります。トレーニングの頻度、強度、活動の種類に関しては、保護者やコーチと相談しながら、各患者に合わせて徐々にトレーニングを進めていく必要があります。