夜間、特に寝ているときに膝の痛みを訴える患者さんは、残念ながら思っているよりも多いです。
一日のうちに膝にかかるストレスや負担が蓄積され、ようやくリラックスしてくつろげるようになったと思えば、膝の痛みが襲ってきます。
夜に膝が痛くてなかなか寝付けなかったり、目が覚めてしまったり、落ち着かなかったりと、睡眠の質に大きな影響を与え、ひいては健康や生活の質にも影響を与えかねません。
しかし、なんで夜になると痛みが襲ってくるのかを知っている人は少ないと思います。
ここでは夜間痛のメカニズムについて説明し、どうやったら煩わしい夜間の痛みを和らげることが出来るかを考えていきます。
夜間痛の原因となる膝の疾患
夜間の膝の痛みの原因には、関節炎、滑液包炎、軟骨損傷、膝の関節液、使いすぎ、肥満、痛風、腱の損傷など、さまざまなものがあります。
それでは、夜間に起こる代表的な原因を見てみましょう。
痛風膝
痛風は、尿酸の蓄積により関節内に結晶が形成され、その結果、炎症、耐え難い痛み、腫れが生じます。
痛風膝の原因となる尿酸結晶は比較的低い温度で形成されます。
そのため体温が低下する夜間の就寝中にいきなり傷み始めるのです。
そのため、夜間の強い炎症が朝方まで長引き、思いもよらない膝の腫れや熱感を感じ、朝方になって病院を受診することになります。
変形性膝関節症
正常の膝の場合、夜寝ているときなどのように、膝を動かさないでいる間には少量の関節液が関節の中に分泌されます。
この関節液が潤滑油として働き、車のオイルのように、関節に栄養を与え、クッションとして機能しています。この関節液の量は適量でないといけません。オイルがありすぎても少なすぎてもだめなのです。
しかし、変形性膝関節症の患者さんは関節液の量の調節が出ません。
ただでさえ軟骨が薄くなり、骨棘が形成されて関節の中の空間が狭くなっています。
少量の関節液しか分泌されなければ、一晩で干上がってしまい、膝の骨がお互いに擦れ合うようになります。
逆に、足を使いすぎた日などでは関節の中にいつもよりも多く関節液が分泌されます。
その結果、夜間の膝の痛みや起床時の関節のこわばりなど、変形性膝関節症の典型的な症状が発生します。
炎症
腱炎、靭帯損傷、外傷、滑液包炎、関節リウマチなど、膝関節に腫れや炎症を起こすものは、夜間の膝の痛みにつながります。
膝関節のスペースは限られているため、関節内に炎症や過剰な水分があると圧力が高まり、膝に鈍い痛みが生じます。
体を動かすと関節に流れ込む血流が増加し、腫れが生じます。
炎症は、体を使えば使うほど大きくなるので、夕方にピークを迎える傾向があります。
また、体を動かすことで筋肉に乳酸がたまり、遅発性の筋肉痛になることもあります。
自分では無理な運動をしているとは思っていなくても、夕方から夜にかけて痛みが出てくるのです。
成長痛
成長期には、夜に膝を痛がる子供が増えます。
成長期には、脚の筋肉が伸びるよりも脚の骨が伸びる方が早いため、筋肉や腱に大きな負担がかかり、骨が引っ張られて膝が痛くなります。
寝ているときには重力が緩和されるため、骨の成長が日中よりも多少速くなります。
子供は寝ているときに育つと言いますが、まさにその通りなのです。
そのため、日中よりも強い力で骨が引っ張られる夜間に膝の痛みが発生します。
成長痛は、3~5歳と8~12歳の間に最も頻繁に起こります。
膝の痛みが夜に強くなる理由
忙しい一日の終わりに疲れてベッドに入ると、突然「ドーン」と膝の痛みが襲ってくるほどイライラすることはありません。
一日中頑張って、やるべきことを全部やって、やっと膝を休ませることができたと思ったら、本当に痛くなってしまうのです。でも、なぜでしょう?
夜になると膝の痛みがひどくなる理由については、諸説あります。
気を紛らわすものがない
日中は何かと忙しく、他のことに気を取られて、痛みに気づいたり考えたりする余裕がありません。
しかし、ベッドに入ると、気を紛らわせる刺激や気晴らしが少なくなるため、今まで騒いでいた痛みが急に大きくなり、それを隠すものがなくなります。
痛みから目をそらすものが少なくなり、考えれば考えるほど、意識が高まり、なおさら痛みを感じるようになるのです。
睡眠不足
夜間の膝の痛みは、悪循環を引き起こします。
睡眠不足は、痛みに対する感受性を高め、痛みの閾値を下げ、治癒力を低下させ、疲労を増加させることがわかっています。
これらが互いに影響し合うことで、痛みのレベルが上がり、そのサイクルが続き、夜間の膝の痛みはますます悪化するのです。
二酸化炭素と血管拡張
私たちは呼吸をすることで、空気中の酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出します。
睡眠時には、呼吸数(1分間に息を吸ったり吐いたりする回数)が減少し、ゆっくりと呼吸をするようになります。
その結果、血液中の二酸化炭素濃度が上昇し、血管が拡張(直径が広がる)します。
これにより、血管が拡張すると痛みのもととなる化学物質が放出されやすくなります。
夜間痛の対処法
夜間の膝の痛みを和らげるためには、緩やかな運動、薬、温熱療法、深呼吸など、さまざまなことができます。
ここでは、夜間の膝の痛みに対するおすすめの治療法をご紹介します。
温熱療法
突然の痛みに襲われた場合は膝用のアイスパックを使ってまず冷やしましょう。
その後に、温めます。温め方は色々ですが、温湿布やヒートパッドなどを使うと便利です。
夜の痛みが来ないように寝る前に10~20分程度暖めるとよいでしょう。
足を高くする
就寝前に20分程度、クッションや枕を使って足を高くして休みます。
これにより、膝の腫れを軽減することができます。膝を心臓より高い位置に置いて横になると効果的です。
快適な睡眠ポジションを見つける
横向きで寝る場合は、膝の間に枕を置き、仰向けで寝る場合は、膝の下に枕を置いてみましょう。
就寝前に温かいお風呂に入る
リラックス効果だけでなく、関節の痛みを和らげる効果もあります。
薬
薬は寝る30分くらい前に飲むようにして、鎮痛効果が出てから落ち着いて寝るようにしましょう。
膝の痛みで夜中に目が覚めてしまう場合は、朝まで眠れるように長時間効果のある薬に変更することを医師に相談してください。
健康的な睡眠習慣
寝室にスマホやパソコンを持ち込まない、寝る時間と起きる時間を一定にする、8時間の睡眠時間を確保する、午後と夕方にカフェインなどの刺激物を避けるなど、効果のあることは全て試してもいいくらいです。
歩行補助具で膝の負担を和らげる
杖や松葉杖を使って日中の膝への負担を減らし、痛みが蓄積しないようにすることも大事です。
喫煙しない
喫煙は血液循環に影響を与え、怪我が治る時間を伸ばします。
夜間痛を防ぐ
夜間の膝の痛みに対処する最善の方法は、そもそも痛みが発生しないようにすることです。
夜間の膝の痛みのリスクを減らすために、日中にできることはいくつかあります。
夜間の膝の痛みを防ぐためには、日ごろから健康的な食事、体重管理、定期的な運動を組み合わせて、健康を維持することが大切です。
運動で足の筋肉を鍛えることも大事ですが、運動前のウォーミングアップと運動後のクールダウンをしっかり行うようにしましょう。
重いものを持ち上げたり、繰り返しジャンプしたり、しゃがんだりするなど、膝関節に余分な負担をかける行為は避けましょう。
スポーツをするときに痛みがある場合は、膝サポーターを着用しましょう。
膝への負担を軽減するために、クッション性のある靴を選びましょう。
定期的に運動することは膝を鍛えるだけでなく、ストレスを軽減し、天然の鎮痛剤であるエンドルフィンを生成することができ、痛みに対しての耐性がつきます。