病態

内側半月板後根断裂は半月板逸脱の原因か?結果か?

内側半月板後根断裂は1991年にPagnaniらによって初めて報告された疾患です。その定義は半月板後根付着部から1cm以内の完全な放射状断裂です。

内側半月板後根断裂は、機能的には半月板全切除術と同等のフープストレスに対する抵抗力を失う結果となり、脛骨大腿骨接触圧の大幅な増加膝の安定性の低下、および膝の運動学的変化は、急速な関節軟骨の変性と関節炎の進行を導きます。

今回紹介する論文は下の論文です。この論文は内側半月板後根断裂による半月板逸脱がmeniscotibial ligamentの破綻によって起こされる可能性があるという興味深い論文です。

2020-OJSM-Krych-PRT-MME

Meniscotibial ligament(MT靭帯)は、内側半月板付着部とは別に内側半月板の安定化に重要な役割を果たしています。MT靭帯は脛骨近位部の後内側面に位置し、半月板の後角の下面に固定されています。そのため、内側半月板は外側半月板よりも可動性が低く、MT靭帯などの支持構造物の損傷は、半月板の不安定性と機能不全を悪化させる可能性があります

Peltier 2015 KSSTAより

半月板逸脱は脛骨プラトーの縁を越えて変位していると定義されており、半月板損傷の指標として広く受け入れられています。

内側半月板逸脱は、内側半月板後根断裂とその後の変形性関節症の発症に関連していて、内側半月板後根断裂放射状断裂が逸脱の根本的な原因ではないかと言われていましたが、このような逸脱を起こす断裂形態がなくても半月板逸脱は起こりうるという認識が高まってきています。

さらに、内側半月板後根の修復術(root repair)だけでは、完全に逸脱した半月板を元通りに修正できるとは限らない言われており、内側半月板逸脱は半月板後根断裂や放射状断裂以外の追加要因によって引き起こされる可能性があることを示唆しています。

内側半月板後根断裂の結果として逸脱が起こるのか、あるいは半月板後根断裂は二次的な現象で、半月板を支える構造の損傷に引き続いて逸脱が起こり最終的に半月板後根断裂が起こるかはまだ明らかにされていません。

そのため、MT靭帯の能力内側半月板逸脱、および内側半月板後根断裂との関連をよりよく理解すること、および半月板逸脱の経時的な進行の原因を決定することは非常に意義のあることです。

半月板逸脱が先行する内側半月板後根断裂

この論文では調査した27膝すべてにおいて、MT靭帯の障害とそれに関連した半月板逸脱が内側半月板後根断裂に先行していたことを発見しました。

半月板逸脱とMT靭帯の異常が内側半月板後根付着部のストレスを増加させ、内側半月板後根断裂につながる可能性があるというというものです。

上の図は半月板後根断裂が起こる前にMT靭帯が障害を受け、その後に内側半月板後根断裂が発生するという模式図です。
そのことを、裏付けるMRIが下の写真です。

MT靭帯とは?

Sims AJSM 2004

2005年にpostero-medial cornerの解剖が発表されていて、ここではSemimembranosusとtibial collateral ligamentを中心に形成されていると記載されています。

この論文で言うMT靭帯はSemimembranosusから分岐、形成される靭帯のことを言っているようです

後根断裂修復後の半月板逸脱を治療する

現在、半月板逸脱を修復するcentralizationという手技がありますが、これは逸脱自体を修復する手技でFocusされているのは冠状面での半月板逸脱の修復です。

MT靭帯に半月板逸脱の問題があるのであれば、当然、その部分を修復すればいいのではという疑問がわいてきます。

しかしながら、MT靭帯修復という手技はまだ確立されておらず、今後の新たな治療法に期待したいところです。