原因:摩擦やストレスによる滑液包の炎症
症状:階段の上り下りでの痛み
回復までの期間:6-8週
鵞足付着部(滑液包)炎は、膝の内側、膝関節の約4~5cm下に痛みを生じます。
一般的には、ランナーや水泳選手などのアスリートが使いすぎることで発症したり、骨盤の広い太った中年女性で滑液包の圧力を高めることで発症したりします(これについては後で解説します)。
鵞足付着部(滑液包)炎の痛みは、突然ではなく徐々に進行し、階段を上り下りしたり、走ったりすると悪化する傾向があります。
ここでは、鵞足付着部(滑液包)炎の原因、症状、治療法をご紹介します。
鵞足付着部(滑液包)炎とは?
鵞足付着部(滑液包)炎とは、鵞足付着部にある滑液包に炎症が起こり、膝の内側に痛みが生じることです。
鵞足付着部とは膝の内側にあり、3本の筋腱が脛骨(すねの骨)に付着している部分です。
鵞足という意味は、3本の腱が合流して1本の腱となり、ガチョウの足のように脛骨に付着していることから、この名前がついています。
前から後ろに向かって、これらは、
縫工筋:体の中で最も長い筋肉で、太ももの前方を横切って走り、膝や腰を曲げる働きをします。
薄筋:股関節の内転(脚を内側に引き寄せる)させる働きをします。
半腱様筋:3つあるハムストリング筋のうちの1つで、膝を曲げる働きをします。
の順番で走行しています。
この結合した腱の下には、液体で満たされた小さな袋である滑液包があります。 この滑液包は、膝を動かす際に腱と脛骨の間の摩擦を軽減するために存在しており、クッションの役割を果たしています。
この滑液包があることで摩擦のない滑らかな腱の動きが可能となります。
しかし、鵞足付着部(滑液包)炎ではこの滑液包に炎症が起こります。
鵞足付着部(滑液包)炎の原因
この部位に繰り返しストレスや摩擦が加わると、滑液包に炎症が起こります。
滑液包は過剰な液体を産生して腫れ、周囲の構造物を圧迫します。
鵞足付着部(滑液包)炎の一般的な原因は以下の通りです。
反復性ストレス
ランニング(特に上り坂)、サイクリング、水泳(特に平泳ぎ)、繰り返し行う左右の動きなど、3つの筋肉が繰り返し使われる動作は、滑液包に摩擦や圧力を与えます。
筋力低下、筋肉の硬さ
股関節や膝の筋肉が弱っていたり、硬くなっていたりすると、鵞足付着部にかかる負担が大きくなり、腱自体が損傷し、滑液包への圧力が高まります。
ハムストリングスの硬さは、鵞足付着部(滑液包)炎のわかりやすい原因となります。
トレーニング方法が悪い
走る距離を急激に増やす、トレーニング強度を急激に増やす、ウォーミングアップ不足、不十分なストレッチなどの間違ったトレーニングのやり方は、腱付着部に過剰なストレスを与えます。
基礎疾患
変形性膝関節症に伴う関節の炎症は、滑液包の腫れを引き起こします。
変形性膝関節症の人の約20%が、鵞足付着部(滑液包)炎を患っているという研究結果があります。
また、2型糖尿病やオスグッド・シュラッター病の方も滑液包炎を発症しやすいと言われています。
性差
鵞足付着部(滑液包)炎は、骨盤の広さや膝関節の角度(広い骨盤+X脚)などから、女性に多く見られます。
Helfenstein M Jr, Kuromoto J. Anserine syndrome. Rev Bras Reumatol. 2010 May-Jun;50(3):313-27.
バイオメカニクスの変化
扁平足などのように、脚の骨や軟部組織の位置が微妙に変化すると、鵞足付着部領域に余分な圧力がかかります。
肥満
体重が増えると膝の滑液包にかかる負荷が増大します。
怪我
鵞足付着部への打撃などの直接的な損傷は、鵞足の腱の損傷や滑液包の腫れにつながります。
鵞足の3本の腱のいずれかまたは複数に小さな損傷を起こすことがあります。これは、付着部炎ではなく、腱炎ということになります。この2つの病態をはっきりと区別するのは難しいですが、原因、症状、治療法は基本的に同じです。
鵞足付着部(滑液包)炎の症状
痛み
鵞足付着部(滑液包)炎の最も多い症状は、膝の内側で関節から約4~5センチ下にある痛みと圧迫感です。
直接的な打撃による怪我を除いて、その症状は、突然起こるのではなく、徐々に進行する傾向があります。
運動したときや階段の上り下り、ハムストリングス(太もも裏の筋肉)を伸ばしたときなどに痛みが増すという人が多いです。
腫れ
滑液包が炎症を起こすと、その部分が腫れたり赤くなったりすることが多く、膝の内側を触ると少し温かく感じることもあります。
夜間の痛み
鵞足付着部(滑液包)炎は夜間に傷みだすことがあり、突然来る激痛で目が覚めてしまうという人もいるくらいです。これは、滑液包の圧迫が原因です。
特に横向きで両足を揃えて寝ると滑液包に圧力がかかります。
また、膝を曲げたり伸ばしたりして寝返りを打つと、痛みで目が覚めることがあります。
膝の間に枕を置いて寝ると、滑液包にクッション性が出て、痛みが楽になります。
筋力の低下、筋肉の硬さ
鵞足付着部(滑液包)炎の痛みのため、積極的に膝を動かさなくなります。
そうすることで、膝の力や可動域が徐々に失われていきます。
筋肉の硬さや弱さが出てきて、悪循環に陥ります。
無理して歩くのではなく、ストレッチをしっかり行いましょう。
膝を直接打った場合は、突然症状が出ることがありますが、急に痛みが出た場合は、内側側副靭帯損傷などの他の可能性も考慮する必要があります。
治療
痛みや炎症を抑えるためにできることはいくつかありますが、主な目的は、鵞足付着部滑液包への圧力を減らし、治癒プロセスを促進することです。
鵞足付着部(滑液包)炎の治療は、痛みや炎症などの症状と、筋肉の緊張や衰えなどの根本的な原因の両方に対処する必要があります。
安静、無理をしない
膝の滑液包炎では、痛みを伴う活動を避けることが非常に重要です。
腫れが落ち着くまでは、活動内容を変更したり、あるいは完全に止めたりすることも必要です。
冷やす
10~15分間のアイシングを2~3時間おきに行います。
膝の内側にアイスパックなどを使用して冷やしましょう。こうするだけで、痛みや腫れを軽減することができます。
内服薬、湿布
イブプロフェンなどの湿布やロキソニンなどの抗炎症薬は、滑液包炎の痛みや炎症を抑えるのに役立ちます。
薬を服用する際は、必ず医師に確認してください。
ストレッチ
鵞足付着部(滑液包)炎は、ハムストリングスの硬さが原因であることが多いので、簡単なストレッチでいいので、しっかりやりましょう。
筋肉の硬さは滑液包を圧迫する原因です。
この圧迫を取り除くことは、治療の過程で非常に重要なことです。
しっかりとやりたい人はストレッチの章をご参照ください。
筋力強化
股関節と膝の筋肉が弱っていると、膝にかかる力が微妙に変化するため、ハムストリングスのストレッチと大腿四頭筋の強化することで、鵞足付着部(滑液包)への圧力を軽減することができます。
しっかりと筋力を鍛えたい人は筋力強化の章をご参照ください。
回復までの期間
ハムストリングスのストレッチと大腿四頭筋の強化を定期的に行うことで、通常、約6~8週間で痛みが緩和されます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID:ロキソニンなど)を追加することで、この時期の痛みをある程度軽減することができます。