原因:直接的な膝の怪我、使い過ぎや反復的な活動および膝の基礎疾患
症状:鋭い痛みや刺すような痛みではなく、鈍い痛みが多い
回復までの期間:6~8週間
滑膜ヒダ障害は、膝関節の中にある滑膜ヒダの炎症によって引き起こされる疾患です。
痛みは、特に階段の上り下りで悪化し、膝の不安定感を感じるようになり、時には引っかかるような感覚やロックするような感覚が生じます。
滑膜ヒダとは、膝関節を取り囲んでいる薄い膜のことです。滑膜炎の一つである滑膜ヒダ障害は、発生する場所によって4種類に分類されます。最も一般的なのは内側の滑膜ヒダの炎症です。
滑膜ヒダの炎症は、膝の怪我や使い過ぎなどで、滑膜ヒダが膝の骨と骨の間に挟まってしまうことで起こります。
ここでは、滑膜ヒダ障害がどのようにして発症するのか、その原因と症状を見ていき、最後に治療法を紹介します。
滑膜ヒダって何?
滑膜ヒダとは、膝の中にある正常な組織で、関節中にあるカーテンのようなものです。
上から下に垂れ下がっている様子を創造するとわかりやすいと思います。
純粋なカーテンと違うところは上としたが固定されている点です。(カーテンは上の部分だけが固定されています)
胎児の第1期には、結合組織が膝を3つの部分に分けています。
妊娠中期になり、胎児の動きが活発になるにつれて、この組織は小さくなり始め、出生前には徐々に吸収され、膝関節を取り囲む薄い膜(滑膜)だけが残ります。
しかし、90%の人で結合組織は完全には吸収されずに残ります。
膝を構成する滑膜の一部に小さな「ひだ」が残り、これを「滑膜ヒダ」と呼んでいます。滑膜ヒダは、しなやかで薄い構造をしています。
滑膜ヒダと呼ばれる「ひだ」はゴムの様に弾性があるため、通常は正常な膝の動きを妨げることはありません。ただし、ヒダの大きさには個人差があります。
ほとんどの場合、滑膜ヒダ自体が悪さすることはなくは完全に無症状です。
しかし、使いすぎや怪我などで滑膜ヒダが炎症を起こすと、滑膜ヒダ障害が発症し、膝の痛みや不安定感を引き起こすのです。
滑膜ヒダはどこにある?
発生の過程で、人によっては、内側、膝上、膝下、外側と、膝の異なる部分に最大4つの滑膜ヒダがある場合があります。
滑膜ヒダ障害は、これらの4つのいずれにも発症する可能性があります。
ただし、まったく滑膜ヒダがない人もいます(10%)。
内側滑膜ヒダ
内側の滑膜ヒダは、4つの中で最も滑膜ヒダ障害に発展する可能性が高いです。
つまり、最も痛みが出やすい場所ということになります。
内側の滑膜ヒダは膝の内側に垂れ下がるように存在しています。
内側滑膜ヒダは、膝蓋骨の内側下部から大腿骨内側顆を越え、脛骨内側の滑膜まで続いており、膝蓋靭帯や膝蓋下脂肪体と融合しています。
棚(タナ)のような構造をしているので、特別に「タナ障害」ということもあります。そのため、タナ障害は通常、内側滑膜ヒダを意味します。
内側滑膜ヒダの位置は、その構造上の特徴から、膝蓋骨と大腿骨の間に挟まれているので、ここに過度の摩擦が起こったり、強い打撃を受けた場合には炎症を起こしやすい場所なのです。
膝蓋上滑膜ヒダ
膝蓋上滑膜ヒダは、膝蓋上嚢(suprapatellar pouch)にあり、膝蓋骨の後ろ、大腿四頭筋腱の後ろまで伸びています。
膝蓋上滑膜ヒダは、通常、ドーム状の三日月形をしており、内側滑膜ヒダの一部とつながっていることがあります。
膝蓋上滑膜ヒダ障害の症例のなかには、炎症が強く起こった場合、膝蓋上滑膜ヒダと膝蓋骨および大腿骨顆部が癒着(くっつく)を起こし、膝の動きを制限することがあります。
膝蓋下滑膜ヒダ
膝蓋下滑膜ヒダは、別名「ligamentum mucosum」とも呼ばれ、紐のような形をしていたり、鐘のような形をしていたりします。
膝関節の中央部に位置し、前十字靭帯の前方に垂れ下がって、膝下脂肪体に付着しています。
膝蓋下滑膜ヒダは4つのヒダの中で最も多く見られますが、膝蓋下滑膜ヒダが炎症を起こすことは少なく、膝蓋下滑膜ヒダ障害はまれです。
しかし、膝前方の痛みの原因として考えるべき疾患の一つです。
外側滑膜ヒダ
外側滑膜ヒダは、4つの滑膜ヒダの中で最も頻度が低く、実際には非常にまれです。
外側板は膝の外側に位置し、膝蓋骨の外側を通って、膝蓋下脂肪パッドに付着しています。
滑膜ヒダ障害の原因
滑膜ヒダ障害は、滑膜ヒダが刺激を受けて炎症を起こすことで発症します。
これは、直接的な膝の怪我、使い過ぎや反復的な活動、または滑膜の柔軟性に影響を与える膝の基礎疾患が原因で起こります。
滑膜ヒダは、膝蓋骨と大腿骨の間に挟まったり、大腿骨に引っかかったりします。
こういうことが何度も続くと、滑膜ヒダは炎症を起こし、徐々に厚くなり、放置すると硬くなってしまいます。
直接的な怪我
膝への打撃(例:膝から落ちた場合や、膝が車のダッシュボードにぶつかった場合)
反復的な膝の動き
ランニング、サイクリング、階段の上り下りなど、膝の曲げ伸ばしを繰り返すような動作は、滑膜ヒダ障害の原因となることが多いです。
急激に運動量を増やす
急激に運動量を増やすと、滑膜の負担が大きくなり、炎症を起こすことがあります。
長時間の正座や足を曲げた状態が長時間続く
長時間座っていたり、膝を曲げたまま寝たりすると、膝を伸ばした時に滑膜ヒダが引っかかるような感じとともに、痛みを感じることがあります。
筋力低下
滑膜ヒダ(膝蓋上と内側滑膜ヒダ)は大腿四頭筋に間接的に付着しているため、大腿四頭筋の筋力低下は滑膜ヒダを通過する力を増大させ、炎症や損傷を引き起こします。
関節内血腫
膝の靭帯損傷、半月板断裂など、膝関節に出血を伴うもの。
膝の基礎疾患
離断性骨軟骨炎、膝蓋下脂肪体の炎症、滑膜炎(リウマチ、変形性膝関節症)などを基礎疾患に持っている人は滑膜ヒダにも炎症を起こしやすいです。
滑膜ヒダ障害の症状
滑膜ヒダ障害の症状は、怪我で突然発症する場合と、使いすぎで徐々に発症する場合があります。滑膜ヒダ障害の典型的な症状は以下の通りです。
膝の痛み
滑膜ヒダ障害の痛みは、鋭い痛みや刺すような痛みではなく、鈍い痛みのことが多いです。
痛みの場所は、どの滑膜が炎症を起こしているかによって異なります。
滑膜炎の痛みは、炎症が蓄積する夜間に悪化することが多いです。
活動時に悪化
階段の上り下り、しゃがみ込み、椅子の乗り降りなど、膝を曲げたり伸ばしたりする活動をすると、痛みが生じます。
コリコリ音やパキパキ音
膝を曲げたり伸ばしたりしたときに音がでることがあります。これは内側滑膜ヒダ障害に多いです。
膝のロッキング
座りっぱなしの状態から立ち上がった時などに、膝が引っかかるような感じがすることがあります。
不安定さ
特に坂道や階段の上り下りの際に、膝が折れそうになると訴える人が多いです。
腫れ
滑膜ヒダのある場所やその周辺に局所的な腫れが生じることがあります。
膝の動きが悪くなる
滑膜が厚くなると弾力性がなくなり、膝の動きが制限されます。
適切な治療を行わないと、滑膜ヒダが硬くなり、症状を繰り返し、手術しないといけなくなる人もいます。
滑膜ヒダ障害の診断
4つの滑膜ヒダ障害のうち内側滑膜ヒダ以外の診断は正直難しいです。
それは、症状が他の多くの膝の疾患に似ているためです。
実際、膝の痛みについて質問し、病歴を聴取したあとに半月板断裂や腱炎など、他の膝の疾患を除外して診断されることが多いです。
それでは、実際に外来ではどのような検査が行われるか見ていきましょう。
滑膜ヒダ障害を診断しようとすれば、これらすべての検査を必要とします。
身体診察
まずは、身体診察ですね。
他の膝の疾患の有無を確認します。
初めから滑膜ヒダ障害を疑っていない場合は、半月板断裂などを考えて診察を始めます。
滑膜ヒダ障害の中でも比較的判断しやすいのは内側滑膜ヒダ障害(タナ障害)です。
これは、身体診察だけで目星を付けることが出来ます。
レントゲン検査
これによって滑膜ヒダ障害を見抜くことはできません。
しかし、痛みで外来を受診する患者さんのほとんどの場合は骨に異常がありますので、この検査は必須です。
例え滑膜ヒダ障害であったとしてもレントゲンで変形性膝関節症などの疾患が見つかれば、そちらを直さなければ根本的な治療にはなりません。
MRI検査
上記二つで目星をつけたうえで行います。
やたらめったにMRIを撮っても、診断に行きつくための道が見えてないと多くの情報を見逃すことがあります。
滑膜ヒダ障害を疑うことが出来ていれば、診断にグッと近づきます。
さらに、滑膜ヒダの大きさや分厚さなどを計測することが出来ます。
このことは、治療者側にとっては有益な情報となります。
MRIは問題となり得る構造物を発見するためには優れた装置ですが、その構造物が痛みと一致するかどうかについてはMRIだけでは判断できません。
治療
滑膜ヒダ障害の治療は、滑膜の炎症を抑えることが中心です。
ほとんどの人は、リハビリを含めた適切な治療を受けることで6~8週間で良くなり、手術は必要ありません。
安静 無理をしない
炎症がが落ち着くまでは、サイクリングやランニングなどの症状を悪化させる活動を控える必要があります。
アイシング
痛みが強い時などはアイスパックによる冷却が効果的です。
痛みや炎症を抑えることができます。
抗炎症薬
イブプロフェンなどの湿布やNSAID(ロキソニンなど)は、痛みや炎症を抑える効果があります。
ストレッチ
大腿四頭筋とハムストリングスをストレッチすることで、滑膜ヒダを通過するストレスを軽減することができます。
筋力トレーニング
大臀筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋を鍛えることで、膝の痛みを和らげることができます。
ステロイドの注射
痛みのために生活に支障が出る場合は、滑膜ヒダに直接ステロイド注射をすることがあります。
注射は一時的に症状を改善するだけです。
痛くないからといって、決して無理をしてはいけません。
理学療法(リハビリ)
膝の状態に合わせて治療できるというメリットがあります。
膝蓋大腿部のトラッキングとアラインメント、足のバイオメカニクスとバランス、プロプリオセプションに注目します。
また、強化とストレッチのエクササイズのプログラムを提供します。
難しいことを言いましたが、時間がある人は理学療法師に任せるのが一番です。
手術
手術は関節鏡で行います。
原因となっている滑膜ヒダを切除します。手術自体は簡単ですが、麻酔を使用するので入院が必要になります。
できるだけ、手術なしで治したいですね。何度も無理をして難治性になれば手術しかありません。
初期対応がとても重要です。
術後のリハビリも特別なことはしません。
手術しない場合のリハビリとほとんど同じです。
あえて違いを言うのであれば、術後の腫れが引くまでは安静が必要ということぐらいです。
回復までの期間
滑膜ヒダ障害からの回復は、患者さんの年齢、症状が出てからの期間、どの滑膜ヒダに問題があるか、理学療法を受けているかどうか、他の関連する膝の問題の有無など、様々な要因に左右されます。
滑膜ヒダ障害の症状が出た人が、無理をせず、アイシングをしてストレッチおよび筋力トレーニングを同時に行ってくれれば6週間~8週間で痛みのない元の状態に戻れる可能性が高いです。
それでも痛みがある人は病院へ行きましょう。