病態

膝窩筋腱損傷

膝窩筋腱損傷とは

原因:非接触の強制外旋

症状:靴を脱ぐときの膝裏の痛み

回復までの期間:部分損傷であれば1か月半

膝関節の裏側を斜めに走っているのが膝窩筋です。

この筋肉は下肢を回転させ、膝を曲げる(屈曲させる)役割を担っています。

この膝窩筋は、膝の裏側を安定させる役割も担っており、スキーのダウンヒル長距離走などで負傷することが多いです。

ここでは、膝窩筋腱の解剖と損傷が起こった時の症状、さらに、診断手順を説明していきます。

膝窩筋と膝窩筋腱の解剖

膝窩筋は、膝裏で腱成分になり大腿骨外側に付着しています。一方、遠位では、筋肉が直接脛骨に付着しています。

膝窩筋腱は膝窩筋腱溝を通り大腿骨顆部外側に付着します。関節鏡で見ると膝の外側後方に腱が見えます。これが、膝窩筋腱です。

膝窩筋腱は腓骨頭大腿骨顆部外側に付着していますが、膝窩筋腱溝で外側半月板の後節と一部癒合しています(一部の報告では膝窩筋腱と外側半月板の癒合部分がないことが報告されています)。

Sports injuryより

膝窩筋腱は膝屈曲時に半月板を後方に引っ張っており、これは半月板の保護作用に繋がっていると言われていますが、半月板に対する保護作用については結論が出ていません。

膝窩筋は脛骨神経(L4-L5、S1)によって神経支配されています。

膝窩筋腱損傷

膝窩筋は脛骨を内旋させる役割を果たしています。

このため、膝窩筋断裂は急性または慢性期での膝の不安定につながります

膝窩筋腱の単独損傷まれで、通常は膝の広範囲に損傷が及ぶことが多く、前・後十字靭帯損傷や外側側副靭帯損傷や半月板損傷のいずれか、または複数を伴うことがほとんどです。

完全断裂

膝窩筋腱損傷は非接触の外旋により発生します。

病変として、軽度屈曲した膝へ突然の外旋の力が加わった時や、大腿骨を固定した状態での強制外旋などが報告されています。

部分損傷

膝窩筋腱部分断裂(膝窩筋腱の捻挫)は使い過ぎ加齢による変性が原因と考えられます。

特徴的な症状

膝を曲げたときに脛骨が外旋するといった不自然な症状を呈します(正常膝では膝屈曲に伴い脛骨は内旋します)。

また、膝裏の筋肉の腫脹、内出血などの一般的な症状を呈することが多いです。

• 膝の真裏というよりやや外側が痛くなります。

• 膝屈曲に抵抗する力を加えると膝裏に痛みを生じます

• 膝窩筋腱の圧痛

鑑別診断

  1. 大腿二頭筋の損傷
  2. 外側半月板損傷

診断手順

膝の安定性が保たれているのに急性の関節血腫や膝外側の痛みがあれば、稀ではありますが、膝窩筋腱の単独損傷を考える必要があります。

Physiopediaより

急性の膝の腫脹と後外側部の圧痛および膝屈曲に抵抗する痛みがあれば、膝窩筋腱損傷の可能性が高くなります。

損傷の程度を評価するために、膝のMRIを行う必要があります。わかりにくい時は膝の関節鏡検査で診断を確定する場合もあります。

Sports and Arthroscopyより

完全断裂では膝窩筋の収縮によって腱成分が遠位に引っ張り込まれるため、関節鏡検査で膝窩筋腱を確認することが出来ません。

診断テスト

膝を伸ばした状態で膝窩筋腱を直接圧迫して痛みがあれば、膝窩筋腱損傷を疑います。

ここでは、さらに診断精度を高めるために2つのテストを紹介します。

Positive Garrick test

診察はうつぶせになった状態で行います。

次に、膝を90度に屈曲させた状態で患者さん自身の力で下腿を外旋してもらいます。

この時、徒手的に下腿を内旋する力を加えます

この時に痛みが誘発できれば膝窩筋腱損傷を強く疑います。

Take-the-shoe-off-test

写真の様に靴を脱ぐときに、脱いでいる膝が痛くなることでも診断することが出来ます。

治療

膝窩筋腱損傷は靭帯損傷や半月板損傷を伴うことが多いため、完全断裂などの膝の不安定性に影響を及ぼす状態であれば関節鏡手術が推奨されています。

しかし、部分断裂などでは通常は手術はいりません。保存的な加療で治癒します。

部分損傷の場合には約1か月半の安静期間が必要です。