原因:筋肉や骨膜が反復的な活動によって酷使される
症状:運動中と運動後におこる”すね”の痛み
回復までの期間:2~6週間
シンスプリントは、運動に関連して生じるスポーツ障害で、”すね”の内側に沿って起こる痛みのことです。
シンスプリントは、運動の後に起こることが多いです。また、走ることで増悪します。運動中と運動後に痛みが出るということが大事で、後で述べる慢性コンパートメント症候群を鑑別するための重要なキーワードです。
特に運動を始めたばかりの中学生や高校生は、激しいスポーツをするとシンスプリントを起こす可能性があります。
ここでは、シンスプリントの原因と症状そして治療方法、さらにシンスプリントにならないようにする予防について解説します。最近流行っている”裸足走法”についても軽く触れます。
最後に、”すね”が痛くなる他の怪我(シンスプリントだと思ったら全然違う怪我だった。とならないように)について解説します。
原因
一般的に、シンスプリントは、脚の筋肉や骨組織(骨膜)が反復的な活動によって酷使されることで発症します。
骨膜とは骨の表面を覆っている薄い膜のことで、骨の栄養に関与します。また、若い人ほど分厚く、痛みを強く感じる部分です。
シンスプリントは、身体活動の急激な変化の後に起こることが多いです。
例えば、これまで、週2で運動していたのを週5に増やしてしまうなどの、頻度の変化が挙げられます。また、長い距離を走ったり、坂道を走ったりするなど、強度の変化もシンスプリントの原因となります。
シンスプリントの原因となるその他の要因には、以下のようなものがあります。
- 扁平足または足底が異常に硬い
- 自分の足に合っていない靴、擦り減った靴で運動する
ランナーは、シンスプリントを発症するリスクが最も高いと言われています。その他、ダンサーや軍人などもシンスプリントになりやすいと言われています。
症状
シンスプリントの一般的な症状は、”すね”の内側に沿った痛みです。また、その部分が軽く腫れることもあります。
シンスプリントの痛みには以下のようなものがあります。
- カミソリで切るような鋭い痛み、または鈍くてズキズキする痛み
- 運動中と運動後の両方に起こる
- 痛みのある部分をマッサージすると悪化する
治療法
基本は保存療法を行います。保存療法の基本はPRICEです。一つ一つ見ていきましょう。
安静
シンスプリントに最も反応する治療は安静です。
シンスプリントは一般的に”使い過ぎ”が原因なので、痛みの原因となった活動を数週間休むことが標準的な治療法です。
回復期間中は、水泳、エアロバイクなどの衝撃の少ない有酸素運動を行うことで、体力の維持を心掛けます。
氷で冷やす
アイスパックを1回20分、1日数回使用します。氷を直接皮膚に当てないように注意してください。
圧迫
伸縮性のある圧迫包帯を巻くことで、さらなる腫れを防ぐことができます。
ストレッチ
シンスプリントを起こす人は体の硬い人が多いです。
成長期には骨が筋肉よりグッと成長し、筋肉がどんどん固くなってきます。シンスプリントが中高生に起こりやすい原因の一つは、この生理現象です。
シンスプリントが中高生に多い原因の一つとなります。膝のストレッチをしっかりやるようにしてください。
痛み止め
痛みの強い人には炎症を抑えることを目的に痛み止めを使用することもあります。
運動靴
普段の通学や通勤でもクッション性の高い靴を履くと、“すね”への負担が軽減されます。
装具
扁平足の人やシンスプリントの問題を繰り返し起こす人は、装具が有効なことがあります。
靴の中敷きは、足と足首を整えて安定させ、下肢のストレスを軽減します。
装具(足底板)は自分の足に合わせてオーダーメイドすることもできるし、市販されている中敷きを購入するのもいいと思います。
足底板は整形外科のある病院で作ることが出来るので、主治医の先生に尋ねてみるといいと思います。
そんな時間はないので、とりあえずインソールを試してみたいという人はこのような偏平足に対応したインソールを買うようにしてください。
運動の再開
シンスプリントは、通常、安静と上記の簡単な治療で治すことができます。
しかし、運動を再開する前には、少なくとも2週間の痛みがない状態を必要とします。
また、運動を再開する際には、低強度の運動から始め頻度を減らす必要があります。以前のような頻度や長時間の運動はしないようにしましょう。
運動の前には必ずウォーミングアップとストレッチを十分に行ってください。
トレーニングは徐々に増やしていきましょう。
同じような痛みを感じ始めたら、すぐに運動をやめてください。
アイスパックを使用し、1~2日休む。
強度を下げて再びトレーニングを行う。この場合は、前よりもさらにゆっくりとトレーニングを増やしていく必要があります。
外科的治療
シンスプリントで手術が必要な人はほとんどいません。
手術は、非手術的治療に反応しない非常に深刻なケースで行われます。しかし、手術の効果は明らかではありません。
シンスプリントにならないためには?
シンスプリントを予防するために必要なことは自分の足に合った運動靴を履くことです。正しいフィット感を得るには、「ウェットテスト」で足の形を確認することが出来ます。
シャワーから出て、キッチンペーパーなど足跡が残る紙に足を乗せます。扁平足の人は、紙の上に足全体が足跡として残ります。アーチの高い人は、足の前方とかかとの部分だけが足跡として残ります。
偏平足の人やアーチの高い人は中敷きや足底板を使用します。また、アーチが高い人は足の裏が硬くなっている可能性が高いので、十分なマッサージをしてあげることも重要です。
また、自分がやっているスポーツに合わせた靴を履くようにしましょう。テニスシューズやフットサルシューズなどで長い距離を走ると、シンスプリントを起こしやすくなります。
シンスプリントの原因は劇的な運動習慣の変化です。ゆっくりと運動レベルを上げていきましょう。
運動の時間、強度、頻度を徐々に増やしていく必要があります。
長距離走ばかりやるのではなく、水泳やサイクリングなどの低負荷のスポーツを取り入れる工夫もシンスプリントの予防につながります。
裸足で走るのは?
近年、裸足でのランニングが人気を集めています。
多くの人がシンスプリントの解消に効果があると言っています。
裸足で走ることで、筋肉への衝撃が分散され、どの部位にも負担がかからないという研究結果もあります。しかし、裸足で走ることがケガのリスクを減らすという明確な証拠はありません。
裸足でのランニングは、他の運動プログラムと同様、徐々に始めていく必要があります。
短い距離から始めて、筋肉と足を慣らす時間を作りましょう。無理をして急ぐと、却って怪我の危険性が増えます。
また、裸足で走ると、切り傷や内出血ができる危険性が高くなります。つま先が分かれたミニマリストシューズもいくつかのブランドから発売されていますが、これらも体が慣れるまではゆっくりとした慣らし運転が必要です。
シンスプリントと間違えやすい障害
正確な診断は非常に重要です。時には、治癒に影響を与える他の問題が存在することもあります。
病院では他の“すね”の痛みを起こす疾患や怪我を除外するために、詳しい画像検査を行うことがあります。
“すね”の痛みは、疲労骨折、腱炎、慢性コンパートメント症候群など、いくつかの疾患が原因となります。
安静にしていてもシンスプリントが改善されない場合は、必ず医師の診断を受け、他の原因がないかどうかを確認してください。
疲労骨折
シンスプリントが治療に反応しない場合、最も強く疑います。
疲労骨折とは、繰り返しの激しい運動によって骨に小さな骨折を起こす病態です
疲労骨折の初期はシンスプリントの症状と似ています。さらに、初期の疲労骨折はレントゲンでは判断できません。3、4週間ぐらいたってレントゲンを撮りなおすと疲労骨折だったということがあります。
MRIを撮像したとしてもシンスプリントによる炎症性変化が激しい場合には両者を区別することは困難なことがあります。
そのため、1度きりの通院ではなく定期的なフォローが必要です。
疲労骨折は場所によっては非常に治りが悪く、難治性の場合は手術が必要になることもあります。
腱炎(鵞足炎や膝蓋腱炎)
腱は、筋肉と骨をつなぐ役割を果たしています。
腱炎は、腱が炎症を起こしたときに起こります。特に腱の一部が断裂している場合は、シンスプリントのような痛みを伴うことがあります。腱炎の診断には、MRIが有効です。
慢性労作性コンパートメント症候群
慢性労作性コンパートメント症候群と呼ばれるまれな疾患があります。
これもシンスプリントのような症状を引き起こします。コンパートメント症候群は、筋肉内の圧力が危険なレベルに達したときに起こる痛みを伴う怪我です。
慢性労作性コンパートメント症候群では、運動によって痛みが生じます。痛みは通常、運動を止めるとすぐに収まります。
この、運動をやめると痛みが軽減するのがシンスプリントとの違いです。
コンパートメント症候群の診断には、運動前と運動後に脚のコンパートメント内の圧力を測定する検査が行われます。