最近は鬼ごっこをしたり、縄跳びをしたりなど、外での遊びは少なくなり、その代わり野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール、体操などのスポーツをすることで体を動かす子供たちが増えています。
生涯を通じて身体的、精神的、情緒的な健康を維持するためには、体を動かすことが重要であることが分かっているだけに、これは良いニュースですが、マイナス面もあります。
子どもの骨折は1978年から2016年までの約40年間で3倍に増えているということです。
この章では、子供たち(特に小学校から中学校)のスポーツについて見ていきます。
2人の子供を持つ親として、また、スポーツドクターとして皆さんにスポーツ中の怪我について理解を共有していきたいと思います。
子供たちが将来有望な大人になるために私たちは何ができるのでしょうか?
子どものケガの3分の1はスポーツ中に発生
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現在、子どものケガの3分の1近くは、スポーツ中に起こっています。最も多いのは捻挫と挫傷で、次いで骨折です。
どのスポーツでも起こりうることですが、サッカー、バスケットボール、アイスホッケー、野球、ソフトボールなどのチーム競技や、チアリーディング、ダンス、体操などの繰り返しの動きを伴う活動で特によく見られます。
しかし、多くの場合、問題なのは活動内容ではなく、そのスポーツの行い方です。
幼少期の過度なトレーニング
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まず、知っておくべきことは「子供のスポーツは、以前の私たち親が経験してきたものとは完全に異なる」ということです。
私が子供のころはといえば、週に3回・2時間程度の活動を行い、試合や練習試合は月に1回程度といったところでしょうか?
現在、子供がサッカーをする場合、週 3-5 日の練習と週末に練習試合。といったパターンが多いのではないでしょうか?
成長期の子供たちの骨には成長板があり、ストレスに独自に反応しますから、親は注意が必要です。
世間ではこのようなスポーツ障害を「成長痛」として片づけられがちです。
これは、医療側と保護者、スポーツ指導者間での認識のズレが関係しています。
子供のスポーツ障害: 新たな焦点
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特に、疲労骨折などの使いすぎによる怪我や、前十字靭帯断裂などの急性の怪我は、早い段階から過度な練習をすることで、子供たちが怪我をするリスクが高くなります。
問題になることは、子供たちが野球のピッチャーのように同じことを何度も何度も繰り返し、他のスポーツをしない場合、同じ体の部位に継続的にストレスを与えることです。
5年前、10年前は、コーチはこのような問題に気づいていませんでした。
しかし、現在ではスポーツ科学が進歩し、高校野球やプロ野球では投球制限が設けてあります。
コーチ、親がこのような問題を知ることで、より良い判断を下すことができるようになるのです。
試合よりも練習の方が危険
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組織化されたスポーツに関連するケガの62%は、試合や競技中ではなく練習中に起こっています。
多くの子どもたちは、1日に数時間を練習に費やし、オフシーズンにはトレーニングキャンプに参加します。
しかし、8歳から18歳までのスポーツ活動をしている1,200人以上を対象にした研究では、1つのスポーツだけを集中的にトレーニングしている子どもたちは、使いすぎによるケガ(回復までに最長で6カ月かかることもある)をする確率が70%も高いことが明らかになりました。
このことを含め、一つのガイドラインが設けられました。
1つのスポーツに費やす週当たりのトレーニング時間は、その子の年齢より低くする。
非常に簡単なことですが、このガイドラインに従うだけで、子供たちの怪我が非常に少なくなったと報告されています。
小さな子供も使いすぎでケガをする
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スポーツに関連するけがの40%は、5歳から14歳までの子どもたちに起こります。
サッカー、野球、体操などの競技では将来有望な子供たちを育成するために、若い年齢から「集中し、特化する」ように促されます。
幼い子どもたちにとって最も懸念される問題点のひとつは、周囲から期待され、将来成功するかもしれないスポーツが苦痛となり、それを楽しむことをやめてしまうことです。
自分に対する自信がなくなり、そのスポーツをしたいという気持ちがなくなるかもしれません。
自分の身体が壊れてしまったと思い、それが心理的な障害になることもあります。
ハイリスクな時期:新しいスポーツを始めるとき
子どもがケガをするリスクが最も高いのは、新しいスポーツを始めたばかりのときです。
しかし、子どものスポーツによるケガの半分は予防できます。
スポーツのルールを理解し、適切な道具を用意し、プレー前にウォームアップをし、疲れたり痛んだりしたら休憩を取るようにしましょう。
どんなスポーツでも、始めるときは体調を整えておくことが大事です。
一つのスポーツを専門とすることは必ずしもベストではない
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スポーツをすることで、子どもたちは身体的、精神的、そして情緒的に大きな恩恵を受けます。
しかし、幼少期に、あるスポーツに特化することが、親や子どもたちが信じているような輝かしいキャリアを手に入れることにつながるとは限らないことを知っておく必要があります。
ベルギーの研究では、複数のスポーツをする10歳から12歳の少年は、1つのスポーツに特化した少年よりも身体能力が高く、運動神経も良いことが分かっています。
また、米国で行われたディビジョンIのNCAA女子選手を対象とした調査では、大学でプレーするスポーツだけをしたことがある選手はわずか17%であることが分かっています。
大問題なスポーツ障害:ACL損傷と半月板断裂
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前十字靭帯(ACL)は、急な方向転換の際に膝を安定させる働きがあります。
女の子はACL損傷のリスクが高くACL損傷は半月板断裂も同時に起こすことが比較的多いです。
これはホルモンの影響もありますが、膝の角度や若い女性の筋肉が関節を支える方法など、バイオメカニクスが主な原因です。
また、着地のメカニズムも関係しています。
女性がハムストリングスを強化するコンディショニングエクササイズを行い、正しく着地することで、ACL断裂や半月板断裂を予防できることが分かっています。
大問題なスポーツ障害: 肩の脱臼
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ラクロス、フットボール、ラグビーなどのコンタクトスポーツでよく起こるのが肩の脱臼です。
傷害は、一般的に、肩に影響を与える衝突の結果として発生します。
上腕骨(球関節)は関節窩から押し出され、若いアスリートは将来的に肩の脱臼(そして潜在的には変形性関節症)を起こす危険性があります。
大問題なスポーツ障害: 骨折
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骨折はよくあるスポーツ障害であり、スポーツによって危険にさらされる部位が異なります。
足首の骨折は、サッカー、野球、体操、バレーボール、バスケットボールなど、走ったり跳んだりするスポーツで起こる可能性があります。
手、手首、腕の骨折も、特にホッケーやラクロスのような棒を使うスポーツでよく起こります。
急性の骨折は、衝突や転倒などの外傷の結果として起こります。
疲労骨折は、ジャンプや着地など、繰り返し受ける衝撃によって起こる小さな骨折です。
スポーツは楽しくできるはず
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スポーツで一つのケガをすると、子どもは別のケガをする危険性があります。
医師の仕事は、ケガが連鎖して終わりのないサイクルになるのを防ぐことです。
目標は、最初にうまく治療して、後々のリスクを減らすことです。
子供さんが怪我をしたら、治るまでスポーツをさせないようにします。
また、どうしてそのようなことになったのか、年齢にそぐわないスポーツ活動レベルなのか、手足の長さの違いなど、根本的な危険因子があるのかを調べます。
痛みを含むその時の症状は本人を含めご家族が一番理解していると思います。
しかし、今後どのような経過をたどるかについては医師の方が理解しています。
「大丈夫だろう」は子供の将来を奪うことにつながることがあるということを忘れないでください。
しかし、子供たちのためにできる最も重要なことは、スポーツを楽しませてあげることです。