人工膝関節置換術後に聞きたい事

人口膝関節置換術後、自動車の運転はいつから可能?

多くの患者にとって、自動車の運転は不可欠であり、移動性、自立性を与えてくれるものであるが、手術後の疼痛、杖などの歩行補助具の使用などの理由で、通常は運転が困難になることが多い。そのため、患者さんから回復までの時間や、人工膝関節置換術後に安全に運転できるようになるまでの時間についての問い合わせが頻繁にあります。

自動車を運転する上で問題になるのは十分な緊急ブレーキをかけることが出来るかどうかです。

これについては、これまで根拠のある研究はほとんど行われなかったため、はっきりとした答えを持ち合わせていませんでした。

最近、このことを解決してくれる論文が発表されたので解説します。

以下の文献を参考にしました。

Reaction time and brake pedal force after total knee replacement: timeframe for return to car driving
Kirschbaum et al. KSSTA 2020

結論から言うと人工膝関節置換術を受けてから6週間後から自動車の運転が可能となります。

情報量はあまり多くないですが、少し解説していきます。

自動車を安全に運転するための必要なスキル

自動車を安全に運転するための最も関連性の高いスキルは十分な緊急ブレーキをかけることが出来るかどうかです。

効果的なブレーキプロセスの最も関連性の高いパラメータは3つ。神経反応時間(ブレーキを踏もうと考える時間)、ブレーキ反応時間(アクセルからブレーキへ切り替わる時間) およびブレーキペダル力(ブレーキを踏む力)です。

この中で、術後に重要となるのはブレーキペダル力(ブレーキを踏む力)ということがわかりました。

ブレーキを踏むために必要なスキル

・神経反応時間(ブレーキを踏もうと考える時間)
・ブレーキ反応時間(アクセルからブレーキへ切り替わる時間)
・ブレーキペダル力(ブレーキを踏む力)

ブレーキ反応時間は術後4週間で回復する

これまで報告された論文はブレーキ反応時間についてがほとんどでした。これについては25件の報告があり、おおよそ4週間でブレーキ反応時間が回復することがわかっていました。そのため、我々整形外科医は約1か月という期間を大まかに設定し、患者さんの膝の状態を見て運転を許可していました。
ちなみに、人工股関節置換術後のブレーキ反応時間は術後6週で回復するようです。膝の人工関節より股関節の人工関節の方が反応速度が回復するのは遅いようです。

ブレーキペダル力は6週間で回復する

もちろん、術後の回復には個人差があります。しかし、この論文では術後6週目までは術前の運転能力を回復しないことが示されています。したがって、術後6週目までは、積極的な道路交通への参加を推奨すべきではない。

術後の経過は人それぞれなので(リハビリを頑張る人と頑張らない人がいるため)、この6週間という設定値は多少前後すると思われます。

ただ、術前にある程度の指標(運転は6週後から)を提示して上げれるようになったのは患者さんにとっては大きいのではないかなと思います。