運動

人工膝関節置換術後の運動

人工膝関節置換術を受けて、これまでの生活におさらばできる人もいれば、思ったようにいかず、後悔だけが残ってしまう人もいるのではないでしょうか?

いずれにしても、思い切って手術をした人だけにしか味わうことのできない楽しみと苦しみがあります

しかし、忘れてはいけないことは、手術は、膝関節症の治療の一部に過ぎず、その前後に行う運動が回復に大きな影響を与えるということです。

人工膝関節置換術の後は、痛みがなければすぐに立ち上がることができます。 そして、手術前よりも膝のぐらつきが少ないことに気づくはずです。

始めは歩くことしかできませんが、徐々に膝が曲がってくるとできることが増えてきいきます。

できることが増えてくれば新しい膝との連携を高めていく必要があります。

新しい膝の強度を高め、適切に動かせるようにすることが重要になってきます。

ここでは、手術後の初期段階に特化した人工膝関節の運動をご紹介します。また、この運動は手術の準備として事前に行うのにも適しているので、手術前の方も是非行ってください。

なぜ人工膝関節後に運動が必要なの?

人工関節置換術後の運動のポイントは3つです。

柔軟性を上げ、筋力を取り戻し、機能させることです。

  • 柔軟性:運動で膝をほぐすことで、膝の曲げ伸ばしや回転がしやすくなります。
  • 筋力:運動により、膝の筋力、持久力、コントロール能力が向上します。
  • 機能:膝の強度と柔軟性が向上すると、歩行や階段などの日常生活が徐々に楽になっていきます。

膝の運動は人工膝関節置換術後すぐに始めることができますが、少なくとも3ヶ月間は続ける必要があります。

また、手術の前に運動をして、筋肉ができるだけ良い状態になるようにすることも非常に有効です。

早めに始めることで、人工関節手術後の回復のプロセスに大きな違いが生まれます

人工膝関節のエクササイズを、ベッドで行うもの、椅子で行うもの、そして立って行うものの順に並べました。

この記事通りに進んでいけば退院時には、しっかりとした膝を作れるように書いています。

寝て行う運動

寝て行う運動は、手術後すぐに始めることができます。

運動することで、新しい膝を緩め、腫れを抑えることもできます。

フットポンプ

深部静脈血栓症(血栓)を予防する
膝関節置換術後には必ず行う

開始姿勢
仰向けに寝るか、背もたれを少し上げて行います。
ポイントは脚と膝をまっすぐに伸ばすことです。

動作
まず、足の甲が天井を向くようにつま先をピンとまっすぐに伸ばします。
つま先を自分の体の方に近づけます。3秒ほどキープします。
次に、つま先を自分から離れて下に向けます。3秒キープします。

運動の間隔: 
2~3時間おきに約1分間繰り返しましょう。

注:この運動は、普通に歩き回れるようになったらやめてもいいです。

足首回し

深部静脈血栓症(血栓)を予防する

開始姿勢: 
仰向けに寝るか、背もたれを少し上げて行います。
足首の下にクッションを置いて踵が少し浮くような状態にしてください。

動作:
足で円を描くように、足首を動かします。
これを約1分間行った後、逆方向に繰り返す

運動の間隔:
2~3時間おきに各方向に1分ずつ

注:このエクササイズは、定期的に歩き回れるようになったらやめてもいいです。

大腿四頭筋のセッティング

膝をのばす

開始姿勢:
仰向けに寝るか、背もたれを少し上げて行います。
膝裏にクッションをいれて膝を少し曲げます。
クッションは硬すぎないものを選びましょう。

動作:
膝裏のクッションを押しつぶすイメージで、太ももの前の筋肉を締めます。
3秒キープしたら休んでください。これを10~20回行います

運動の間隔:
3~4時間おきに繰り返しましょう。

ヒールスライド

あまり力を使わずに膝を緩める

開始姿勢:
仰向けに寝るか、背もたれを少し上げて行います。
脚と膝はベッドの上にまっすぐ伸ばします。

動作:
股関節と膝を曲げながら、かかとをできるだけお尻の方にスライドさせます。
かかとはベッドにつけたままにします。
3~5秒保持し、ゆっくりと開始位置に戻ります。
これを10~30回繰り返します。

運動の間隔:
1日2~3回行います。徐々に膝を曲げる回数を増やしていきましょう。

*足の下にビニール袋を敷くと、滑りやすくなって動きやすくなります。

ショートアーク

膝をあまり動かさずに、膝関節の強化をする

開始位置:
仰向けに寝るか、背もたれを少し上げて行います。
タオルを丸めて直径約10cm程度にしましょう。
これを、大腿四頭筋セッティングと同じように膝の裏に置きます。

動作:
つま先を体の方に引いて、太ももの筋肉を固めます。
膝がまっすぐになるまで、ゆっくりと踵をベッドから持ち上げます。
3~5秒キープした後、ゆっくりと下ろします。
これを10~30回繰り返します。

運動の間隔:
1日2~3回おこないます。
慣れてくれば、膝の裏に敷くタオルの大きさを大きくしていきましょう。

ストレートレッグレイズ

ベッドの出入りを楽にする

開始位置 :
仰向けに寝て、脚と膝をまっすぐに伸ばします。

動作:
つま先を手前に引き、太ももの前側の筋肉を締めて、膝をまっすぐに固定します。足をベッドから15センチほど浮かせます。3~5秒保持し、ゆっくりと下ろします。このとき、膝がまっすぐになるようにします。これを10~20回繰り返します

反復:
1日2回行いましょう。

まずは、寝て行う運動を6つ紹介しました。

  • フットポンプ
  • 足首回し
  • 大腿四頭筋セッティング
  • ヒールスライド
  • ショートアーク
  • ストレートレッグレイズ

ベッドから自由に下りれるようになれば次のステップに進んでください。

座って行う運動

ベッドから自由に起き上がれるようになったら、座ってできる運動に切り替えましょう。

できるだけベッドで寝る時間を減らしていきます。

いよいよ、家に帰るための体づくりを始めていきます。

ロングアーク

大腿四頭筋を強化し、膝の可動性の向上させることで、しばらく座っても膝が固まらないようする

開始位置 :
しっかりとした椅子に座り、膝を曲げて足を床につけてください。

動作:
足を上げて、膝をできるだけまっすぐにする。
3~5秒保持し、ゆっくりと下ろします。
これを5~20回行ってください。

運動の間隔:
1日3回行います。
慣れてくれば足に重りをつけてやっていきましょう。

ヒールスライド

膝の可動性を高めて、血行を促進させる

開始位置 :
しっかりとした椅子に座って、膝を曲げ、足を床につけます。

動作:
足をできるだけ後ろにスライドさせ、膝を曲げた状態にする。3~5秒キープします。これを10~25回行ってください。

運動の間隔:
1日3回行います。
慣れてきたら、もう片方の足を引っかけて後ろに押してください。

臀部の引き締め

膝を動かさずにお尻の筋肉を強化する
お尻の筋肉を強化することで膝を通る力を正常に戻し、膝のコントロールを上げる

開始位置 :
しっかりとした椅子に座りましょう

動作:
お尻の穴を閉めるように力を入れます。
体が少し浮き上がるのを感じるはずです。
これを3秒間キープし10~20回繰り返します。

運動の間隔:
3~4時間おきに行いましょう。

マーチング

大腿四頭筋を強化し、膝の可動性を高め、血行を良くし、長時間座っても膝が固まらないようする

開始位置 :
椅子に座って、足を床につけます

動作:
足を片方ずつ上下に動かします。

運動の間隔:
1日2回、20分以上座ったままの状態が続いたなと思ったらこの運動をしてください。

次に、座って行う運動を4つ紹介しました。

  • ロングアーク
  • ヒールスライド
  • 臀部の引き締め
  • マーチング

この運動がスムーズにできるようになれば病院での生活は比較的楽になっていると思います。

次に進みましょう。

立って行う運動

自分の足に自信が持てるようになったら、立位での運動を始めてみましょう。

ここまで来た人は、家での生活を想像しながらやっていきましょう

レッグカール

膝の強化と柔軟性を向上させる

開始位置:
椅子やテーブルなど、安定したものにつかまってまっすぐに立ちます。

動作:
膝を曲げながら、足をお尻の方にできるだけ上げます。
3~5秒保持します。
これを5~25回繰り返します。

運動の間隔:
1日2回おこなってください。

注:前屈みにならないように体をまっすぐに保ってください

ヒールレイズ

ふくらはぎの筋肉を強化して、膝を支える土台を作る

開始位置 :
足を少し開いて立ち、体重を均等に分散させ、キッチンの作業台や壁などの固いものにつかまってバランスをとる。

動作:
つま先を立てて、かかとをできるだけ高く上げます。
体はまっすぐに保ちます(前屈みにならないように)。
3~5秒保持し、ゆっくりと下ろします。
これを10~30回繰り返します。

運動の間隔:
1日2回行ってください。

最後に


人工関節置換術は非常に大変な手術です。

おまけに、長い間痛みを我慢して生活していくことで衰えた筋肉も相当なものです。

手術後は衰えた筋肉を鍛えて、膝の痛くなかった頃の生活を取り戻さないといけません。

多くの人はこの運動をクリアできると思います。しかし、残念ながら継続できる人は少ないです。

筋肉をしっかりつけて、膝の痛みがない時のような生活ができるようになるには半年から1年はかかります。

術前の気持ちを思い返してみてはいかがでしょう?